グループ発表以来、というかそのしばらく前から、園田と萌の距離が明らかに接近していて真理は焦っている様子だったが、自分の気持ちを認めたがらない。俺は、軍団連中がいない時にカマをかけてみた。
「真理ちゃん、園田のこと、好きなんだろ?」
「な、な、な、何言ってるの?!」
うわー、分かりやすい程、むちゃ狼狽えてるなー。
「そ、そんな訳ないでしょ! あんなブサメン陰キャ!」
「ねぇ、素直になった方がいいよ。じゃないと後悔するかも」
俺は、もう遅いだろうけどねと心の中で付け加えた。
「何よ、今言ったの、私の本音なんだから!」
「そっか。悪かったね、真理ちゃん。気を取り直してカフェにでも行こう」
そのカフェで真理が俺に頼んできたのは、例の犯罪まがい、いや犯罪行為だった。
「野村君、研究発表終わったら、グループで打ち上げするとかいう話ある?」
「んー、微妙かな」
「打ち上げする方向に持っていって」
「まあ、善処します」
「絶対実現させてよ! 日時と場所が決まったら教えて。私達も行くから」
「え? でも俺達のグループの打ち上げだよ」
「何言ってるの。別々に飲むに決まってるでしょ。私が注文した飲み物を取りに来てこれを入れて佐藤さんにあげて」
そう言って真理は白い粉の入った小さいチャック袋をバッグから出して俺に渡そうとした。
「え、何これ? 怖いよ」
「今更何言ってるの? やるって言ったでしょ?」
「いや、まさか本当にやるとは思わなかったからさ……」
「それじゃ他の男の子に頼むからいいわよ。でもこの事、誰にも言っちゃ駄目だからね」
「いや、俺、やるよ」
別の人間にやらせるとなったら、俺が偽物の飲み物とすり替えられない。ここはやる気を見せておこう。
「まさか身体に害がある物じゃないよね?」
「ただの睡眠薬を砕いたのだから、毒じゃないわよ」
いや、それをアルコールに混ぜて飲ませる時点で身体に悪いし、犯罪だよと俺は内心毒づいた。でもここでそれを言っても、真理は逆上してカフェを出て行き、別の協力者を見つけるだろう。ここは穏便に何とか避けるようにするしかない。
「でも、俺、小心者だから自分で入れたら態度に出ちゃいそうだよ」
「野村君が小心者?! 嘘ばっかり!」
「とにかく、それが完全に溶けるまでかき混ぜる時間が必要でしょ? 俺は佐藤さん達のグループと一緒の席なんだから、真理ちゃんのテーブルで長居してたらおかしいよ。真理ちゃんが入れてくれれば、俺が取りに行くから、俺の分と2杯注文しておいて。俺からって佐藤さんに飲み物渡すからさ」
俺と萌の下調べでの微妙な雰囲気は、全体で下調べの結果をすり合わせる段階でも続いた。俺はその度にちょっとおちゃらけた態度をとってその場を和ませようとしたけど、どうも空回りのようだった。でも研究発表は無事成功した。打ち上げも最初はする雰囲気じゃなくて、あってもせいぜい授業の後でカフェに行くか、ぐらいのノリだった。でも俺は何とか居酒屋での打ち上げにもっていった。