萌は悠の実家のドアの前に立った途端、真理達と話した勢いが消えてカチンコチンに緊張してしまった。
「萌、そんなに緊張しないでいいんだよ」
「緊張しないわけないでしょ!」
「俺が萌んちですごく緊張した気持ち、分かるよね?」
「うん、今になって分かった」
悠はドアノブに手をかけた。
「ま、待って!」
「もう俺の親、俺達に気づいてると思うよ」
「えっ! ちょ、ちょっと待ってね」
萌はすーっと大きく息を吸って吐いた。
「じゃあ、行こう」
悠がドアを開けてすぐに『ただいま! 彼女連れてきたよ!』と叫ぶと、ドタドタと高校生くらいの女の子が玄関に走ってきた。その後ろから悠の両親も急いで出てきた。
「わー、これが兄ちゃんの彼女!? こんなかわいい彼女、兄ちゃんにもったいない!」
「こら! 最初に挨拶でしょ! それにこれ呼ばわりは失礼よ!――ようこそ、いらっしゃい。悠の父と母です。で、この失礼な子は悠の妹の
「ママ、ヒドイ! 私のどこが失礼な子なの?!」
悠がボソッと『全部だよね』と言ったので、萌は必死に笑いをこらえた。
「そんなの無視して、さあさあ、中に入って」
「そんなのってひどい!」
ブツブツ言い続ける由香に構わず、悠の両親は2人を居間へ連れて行った。そこでソファに座るよう勧められて萌は自己紹介した。
「あの、改めて初めまして。佐藤萌です。悠さんから聞きましたが、卒業後の同棲を許して下さったそうで……ありがとうございます」
「そんな、うちはお礼なんて言われることはないのよ。逆にまだ結婚しないのに同棲を許しちゃって佐藤さんのご両親に悪いわ」
「でも母さん、俺達は2、3年以内に目標額まで貯金して結婚するつもりだから」
「まあ、そうよねぇ。今時大学卒業してすぐ結婚は早いものね」
「でも兄ちゃんがあの性悪真理姉ちゃんとくっつかなくてよかったよ」
「由香、やめなさい!」
由香が真理のことを持ち出して悠の両親は慌てた。
「いいよ、ほんとのことだから。俺はもう真理とどうこうなる気なんてずっと前からなかったよ。彼女も今は商社マンになる彼氏とうまくやってるみたいだよ。さっき、家の前で真理と彼氏に偶然会ったんだ。今頃、隣でも同じようなことやってるんじゃないかな」
「えっ、真理姉ちゃん、商社マンの彼氏いるの?! 玉の輿だね! でも商社マンはモテモテだって言うから、浮気されまくるかもね。フフフ、そうなったらざまぁみろっての!」
「ちょっと、由香! 口が悪すぎるわよ。そんなことばっかり言ってるなら、自分の部屋に行きなさい」
「ヤダよぉ。ここにいる!」
ガヤガヤとにぎやかな園田家は、萌にとって心地よく、緊張が自然に解けていった。