ドキドキドキドキ――
心臓の音がうるさくて、悠に聞こえてしまうのではと萌は思った。
――園田君の顔が……近い、近い、近い!!
――キ、キス、す、するの?!
――違う、かな?!
悠は目を開けたまま、真っ赤になって固まっていた。
「あ、あ……あの……」
萌が話しかけようとしたら、悠は耳まで真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。
萌は、目をつぶらなくてよかったとホッとした。キスされると勘違いしていたら、すごく恥ずかしいからだ。
萌は、濡れた布巾をテーブルの上に置いて自分のカップを引き寄せた。どさくさに紛れて悠の隣に座ってコーヒーを飲む。でもコーヒーはすっかり冷めていた。
「園田君、新しいコーヒー持ってくるね」
「えっ、い、い、いいよ」
「いいから、いいから」
萌は両方のカップとミルクフォーマーを持ってキッチンへ行った。コーヒーメーカーのポットはステンレスの保温ポットだから、コーヒーは冷めていない。もう一度牛乳も泡立てる。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
萌は、素知らぬ顔でまた悠の隣に座った。悠の顔はまだ真っ赤で俯いている。
「飲まないの?」
「えっ、あっ、の、の、飲むよ!――うわっ、あちっ!ぶはっ!」
悠はミルクの泡を通り越して熱々のコーヒーをほとんど一気飲みしそうな勢いで飲もうとした。
「大丈夫?! 水持ってくるよ!」
コーヒーを吹き出しそうになった悠は、水を飲んで落ち着いたようだったけど、項垂れていた。
「ご、ごめん……カッコ悪いな、俺……」
「そ、そ、園田君! カ、カッコいいとか悪いとか、関係ないよ! 園田君は園田君!そのままの園田君が私は……す……」
「す?」
「あ、あの……そのままの園田君が……す、す、好きで……」
萌の顔も悠の顔も真っ赤になっていた。
「す、す、す、す……好きっ?! あの、そ、そ、それは……その……」
「あ、えっ、あっ、あのっ……人としても、だけど……その、あの……お、男の人としても、す、好きです……」
「あ、あ、あのっ、俺も……さ、佐藤さんのこと……す、す……あわわわ……」
悠は耳まで真っ赤になってどもりまくってしまって、萌には彼が何を言ってるのかわからなかった。
萌は下を向いてる悠の顔を覗き込んで彼の両手に自分の手を重ねた。
「園田君も……私のこと……す、好きで……いてくれるなら……付き合ってくれる?」
「ははははいっ! つ、つ、つ……付き……付き合って……ください!」
どちらともなしに顔を近づけてちゅっと触れるだけのキスをした。
ファーストキスはレモンの味、なんてしなかった。ミルクとコーヒーの味だった。
でも甘酸っぱくて2人とも胸がドキドキしていた。