「おはよう、園田君!」
「あ、おはよう……中野さん、佐藤さん」
「お、おはよ……」
キャンパスで悠はリコに速攻挨拶されたけど、悠と萌はまだぎくしゃくしていた。
「あ、あ、あの、佐藤さん……今日、授業何コマある?」
「4限で終わりだよ」
「じゃ……じゃあ、4限後、ちょっと……じ、時間ある?」
悠が萌と4限後に待ち合わせしたのは、初めて2人きりで会ったカフェ『ムーンバックス』だ。萌は2人掛けのテーブルに悠を見つけて話しかけた。
「お、お待たせ。待ったよね?」
「ううん、今、来たとこ」
「あの、コーヒー注文してくるね」
悠のコーヒーはもう目の前にあった。普通のカフェだったら、待ち合わせ相手が来るまで注文しないで待っていてもOKだけど、『ムーンバックス』は混んでいて席をとったらすぐに注文しなければならないのだ。
しばらくして萌がコーヒーを持って戻ってきた後、2人とも話し始めるきっかけを中々つかめなかった。きまりが悪い無言がしばらく続いた後、悠が勇気を出して話しかけた。
「あ、あっ、あのっ……この間、感じ悪くて……ごめん」
「この間って?」
「この間の飲み会の件で……」
「ああ、でもあれは私の不注意で……恥ずかしかっただけだから気にしないで。私こそ、酔っ払いを介抱させてごめんなさい」
「俺のほうこそごめん。佐藤さんは被害者なのに怒鳴ったりして」
「もういいよ。気にしないで」
「佐藤さんは、優しすぎるよ。もっと周囲を警戒したほうがいい」
「そう?」
萌が目に見えてしゅんとしたので、悠は慌てた。
「ごめん、責めるつもりはなかったんだ」
「うん、分かってる……」
その後、悠はまた何を話していいか分からなくなってしまった。萌も下を向いてもじもじしている。しばらくして居心地の悪い無言状態をやっと破ったのは悠だった。
「あ、あ、あのっ! よかったら、また2人で会えないかな? あっ、バ、バイトとは別に!」
悠の大きな声は裏返っていた。その様子が萌の緊張をほぐしたようだった。
「ふふふっ……じゃあ、週1くらいムーンバックスでお茶しよ?」
「週1?」
「多すぎる?」
「ち、ちがっ……もっと会い……あっ、ちがっ……その、な、何でもないよ! それでいいよ!」
「そう? でもなぁ、うーん、ムーンバックスは高いんだよね。それ以上はきついかも。それじゃ、うち来てコーヒー飲まない?」
「えっ?! いいの?! 中野さんの邪魔にならない?」
思いがけない提案に悠の声はまた裏返っていた。
「大丈夫だよ。都合がつく日、声かけて。リコが駄目な日は駄目って言うから」
「じゃあ、明日いいかな?」
「私は大丈夫だよ。リコに聞いてみるね」
その日、悠はなんだか地に足がついていないような、ふわふわした気持ちで萌と別れた。