悠がカフェテリアに乗り込んできて文句言って以来、真理はずっとむしゃくしゃしていた。
――冗談じゃない! 悠の奴、陰キャのブサメンの癖に生意気よ!
――でもそのブサメンにあんなこと言わせたのはアイツがうまくやらなかったから!文句言ってやる!!
野村孝之はあの日以来、真理のところに来ない。でも同じゼミだから、同じ授業はとっていて顔は見かけるのだ。だけど真理のほうを見もしない。
――どういうことよ?! アイツはいつも私の言うこと聞いてたはずなのに?!
「ごめんね、今日はちょっと用事があるから1人で帰るね。じゃあ明日!」
真理は、張り付けたような笑顔の仮面で怒りメラメラな本心を隠したまま、親衛隊メンズとにこやかに別れ、キャンパスで目的の人物を探した。
「野村君!」
「ああ、真理さん」
「最近、私達のところに来ないのね。寂しいな」
真理はちょっと上目遣いでウルウルして孝之を見た。たいていの男の子はコレで落ちる。
――チョロい、チョロい……ハズ……
「またまた、思ってもないこと言っちゃってぇ~ほんとは俺がうまいこと佐藤さんとヤれなかったから怒ってるんでしょ?」
真理は速攻で張り付けた笑顔とウルウルお目目を止めて孝之を睨みつけた。
「わかってるなら挽回してくれる?」
「俺はもう下りたよ。あんなことしてもう振り返ってもらえないとは思うけど、このままずっと最低なこと繰り返してもっと呆れられるよりはいいからね」
「ちょっと! まさかアンタ、萌のこと好きなの?!」
「男は皆、真理さんのファンじゃなきゃダメ?」
「なっ! アンタがやったこと、犯罪なのよ?! 萌に好かれるわけないでしょ!」
「今すぐは挽回できないだろうね」
「挽回どころか、犯罪なんだから! 警察に言ってやる! それとも私にまた協力してくれる?」
「なぁ、俺は
「なっ!」
「まさかミス甲北が同じゼミ生にクスリ入りのチューハイをあげた、なんてことはないよね?」
「何言ってるの?! アレはアンタが私に自分で用意しろっていうから!」
「知らないなぁ。俺がそんなこと言ったなんて録音でもしてるの?」
真理はぐぐぐぐと悔し涙を流すしかなかった。
真理が孝之に萌を泥酔させてレ〇プしろと頼んだ時、孝之は断らなかった。でも『自分でクスリ入れたり、入れる所を見たりすると不自然な態度とっちゃうから、真理ちゃんが飲み物を用意して』と言ってきたのだ。真理は元々、悠達のグループの打ち上げを陰からこっそり見るつもりで孝之に開催場所を教えてもらっていた。だからまぁいいかと軽い気持ちでOKしたのだ。
「ねぇ、なんでこんなことするの? 園田が萌ちゃんと仲いいから? こんなことしたって園田は真理さんのものにならないよ。むしろ嫌われるだろうね」
「あ、あんな陰キャ、どうでもいいわよ!」
「ふぅ~ん、じゃあ、俺はもう協力しないけど、見てるのは楽しいから、勝手にやってね!」
「ちょ、ちょっと!」
孝之は真理の元からさっさと去って行った。
――何よ! 何よ! 何よ! 野村も悠も勝手なことばっかり言って! なんで私の言うこと聞かないの!?
真理は、いつも人前では嘘くさい笑顔で本音を隠しているのに、今は鬼の形相になっていることに自分では気付いていなかった。