思い立ったら吉日、萌は悠に謝ろうと思ったけど、真理に絡まれたら面倒だ。だから真理のいない時に悠に話しかけようとしたけど、中々そんな隙がない。時間が経ちすぎると謝罪のきっかけを失うので、もういいやと思って帰る前に話しかけた。

「園田君、この間、こっちから誘ったのに怒って帰っちゃってごめん」

「ああ、佐藤さん。びっくりしたけど、大丈夫。俺も大人げなかったよ。ごめん。で、何の用だったの？」

　なんて答えようと思ってちょっと口ごもっちゃったけど、なんとかいい言い訳を思いついた。でもちょうどその時、真理が近づいてきて悠の腕に貧・乳・を押し付けた。

「悠～！　一緒に帰ろっ！」

　――わざと甲高い声であざとい！

　萌は、せっかくいい言い訳を思いついたのにあっけにとられて忘れてしまった。そうしたら悠が助け舟を出してくれた。

「……真理には関係ない話だから、ちょっと席はずしてもらえる？」

　真理はわかったと言ってちょっと離れたけど、すごく不満そうだった。

「新田さん、怒ってたみたいだけど、大丈夫？」

「ああ、気にしないで。真理に怒られるようなことは何もしてないから。それよりムーンバックスで話したかったことってなんだったの？」

「あ、あれ？　何でもないよ。もう済んだ。それよりこれから友達になってくれる？」

「え、友達？！　まあ、いいけど……」

「それじゃ、リコが待ってるから行くね。じゃあね！」

「へば！」

「え？！　へば？！」

　悠が『へば』と口に出しても、不思議と真理にからかわれた時のような不快感は萌にはなかった。

　校門で待っていたリコと一緒に駅に行くと、悠が同じプラットフォームにいた。

「あ、園田君！　また会ったね。実家に住んでるんだよね？　同じ方向だった？」

「いや、今日、バイトなんだ」

「へぇ、どこでバイトしてるの？」

　悠がバイトしてるのは、偶然にも萌達の家の最寄り駅前にある居酒屋だった。それを知った悠は人手不足だからと言って萌達をバイトに勧誘した。ちょうど萌達がバイトしていたカフェがこの間、潰れちゃって新しいバイトを探してたから、面接に行ってみることにした。

　でも、この時にプラットフォームで萌達・が悠と話していたのをどうやら真理に見られていたらしい。次の日から真理が萌達に絡んできて大変だった。

　翌日の昼休みに萌がリコと待ち合わせして学食に行こうとしたら、真理が声をかけてきた。

「佐藤さん！　学食一緒に行かない？」

「え？！　い、いいけど……」

「佐藤さんのお友達もよかったら一緒にどうですか？　私の友達も一緒だし、皆で食べたら楽しいでしょ？」

　今まで萌は、真理と一緒にランチしたことなんてなかったので、戸惑って隣のリコを見たら、真理は猫なで声でリコも誘った。

　――鳥肌～！！

　断るのもなんかなと萌は思ったので、リコと2人で真理について行ったら、親衛隊が5人も待ち構えていた！

　――圧迫感がすごい！

「ねえ、佐藤さん、この間、ムーンバックスで悠と何話してたの？」

「なんでそんなこと気になるの？」

「な、なんでって……幼馴染だし……」

「幼馴染だと何でも知ってなきゃいけないの？　私、リコのことならほとんど知ってるけど、根・掘・り・葉・掘・り・他の人に聞きまわったりはしないなぁ」

「なっ！」

「どうしても気になるなら本人に聞いたらどう？」

　本人に聞けないから萌に聞いているんだろうと分かり切っていてあえて萌はそう言った。

　人付き合いが面倒だから悠がモブの振りをしているのを真理に言っちゃいけないような気がして萌は会話の内容を伝えなかった。多分、真理のせいだろうと予想がつくからだ。

　――新田も素直じゃないなぁ。ひねくれすぎてる。美人で幼馴染って最強スキルなのに。素直に好きだって言えば、落ちないオトコはいないだろうに。

　萌はそう思ったけど、敵に塩を送るような真似はしたくなかった。というか、萌はな・ぜ・か・自・然・に・真理をライバル認定していた。