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第2話 いよいよ嘘告?!

 あれから萌は悠と2人で話せる機会を探したけど、なんだかいつも真理の目があって1ヶ月経っても無理だった。


 でも最近、萌は悠とよく目が合う。話しかけようと思って観察しているのがバレてしまったのかもしれない。


 目が合うことに気づいてから、萌は悠が気になるようになってしまった。だけど、なんだか認めたくなくて2人で話せる機会を探してるから気になるだけと思い込もうとしている。


 それから案外すぐ悠に話しかけるチャンスは訪れた。その日、なぜか真理が大学を休んでいたのだ。風邪でもひいたのかもしれない。


 萌はすかさず悠に話しかけた。


「ねえ、園田君! 話があるんだけど。今日、帰る前に時間ある?」


「えっ?! ど、どうして?!」


 ろくに話したこともない萌から急に話があると言われた悠は、驚いて戸惑っていた。


「えっと……その時言うんでいい?」


「うん、いいけど……」


「じゃあ、4コマの後、時計塔の前でね!」


 萌は一方的に待ち合わせ場所と時間を宣言してその場を離れた。


 その後、3コマ目が始まる前、萌は今日決行するとリコに報告した。


「――だから今日は1人で帰ってね」


「いいけど……ほんとに嘘告やるの?」


「ちょっ……! 声が大きいよ。違う、嘘告じゃない……」


 他の人に聞かれたらヤバいので、萌はリコの耳元で囁いた。するとリコも萌の耳元で囁き返した。


「萌らしくないよ……こんなの、園田君を傷つけるだけだよ。アイツのこと文句言えなくなるよ」


「でも……もう待ち合わせしちゃったし。どうしよう?! リコォ~、助けてぇ~」


 リコは呆れたように萌を見つめてため息をついた。


「はぁ……自業自得だよ」


「そんなぁ……どうすればいい? ねぇ、リコォ~」


「しょうがないねぇ……とりあえず、告白しないで友達になってって言ったら?」


「う、うん……そうしよっかな? でもわざわざ呼び出してそんなこと言うの不自然じゃない?」


「うん、不自然だけど、自分から呼び出しておいてやっぱり何でもないってもっとおかしいでしょ?」


「そうだよね……ほんとにどうしよう?!」


 リコに最後の説得をされて萌には迷いが出てきた。


 水曜日は萌達のゼミでは4コマ目が最後の授業だ。4コマの後、萌は時計塔前に急いだ。時計塔に近づくと、特徴的なもじゃもじゃ頭の悠が立っているのがすぐに分かった。


「園田君、待った?」


「いや、今来たところ」


「じゃあ、駅前のムーンバックスに行こっか」



 元々、誰にも聞かれないように数駅離れたカフェに行こうかと萌は思っていた。でもリコに絆されて嘘告を止める気になっていたから、大学の最寄り駅の前にあるコーヒーショップでいいかと萌は油断していた。


 友達になってと言うためだけにわざわざ電車に乗ってカフェに行くのはおかしい。というか、そもそも友達になってと言いたいだけで呼び出すのが不自然だ。どうやって自然に話を持っていこうかと頭がいっぱいになっていて、まさか真理の親衛隊がムーンバックスで萌と悠が2人でいるところを見たなんて萌は思いもしなかった。


 ムーンバックスでコーヒーを注文して席に着いた途端、悠は口を開いた。


「で、一体何の用なの? 俺、これからバイトあるからあんまり時間ないんだ」


「え?! 時間あるんじゃなかったの?!」


「だって佐藤さん、有無を言わさない感じだったじゃん」


「そんなことないでしょ?!」


「いやいや、結構そんな感じだったよ。待ち合わせ場所も時間も勝手に決めちゃったじゃん」


「そうだけどさぁ……園田君だって同じゼミだから今日は4コマまででしょ?」


「それはそうだけど、俺にも用事があるかもしれないじゃん。実際、これからバイトなんだよ」


「でもバイトまで時間あったから来てくれたんでしょ?」


「そうだけどさ、佐藤さんにやっぱり断ろうと思ったんだよ。なのに授業の休み時間に近づいたら、逃げて行ったでしょ?」


「に、逃げて行った?!」


 萌は心当たりがあり過ぎてグサッと来たと同時に、なんでそんなことをはっきり言われなきゃいけないんだとムカついた。でもそれは悠に言わせれば、逆恨みとしか言いようがない。


「うん、逃げて行ってたよ」


「ええー?! そんなことないでしょ? 園田君、大学にいる時と性格違くない?!」


 萌は、陰キャに見える悠が結構はっきり意見を言うのに面食らった。そうなると萌は天邪鬼になってしまってますます現実を認めたくなくなった。


「そんなことないよ。大学じゃ人付き合い面倒だからあんまり話さないだけ」


「じゃあ、どうして今はそんなに饒舌なの?」


「そんなに饒舌かなぁ? 別に佐藤さんとなら話しやすいってわけでもないんだけど……」


「えっ?!」


 何気に失礼じゃないかと思って萌はムッとした。


「あ、ゴメン、ゴメン。そんな悪気はなかったんだ。別に佐藤さんも他の女の子と同じっていうか、なんというか……」


「同じ?!」


「うん、なんかめんどクサイのが真理と同じかなって……」


「なっ! 新田さんと一緒にしないでよ! もういいっ! 園田君と話すことなんてない!! へばっ!」


「えっ?! ちょっと、佐藤さん?!」


 萌は嫌いな真理と一緒くたにされたのが納得いかなくて、悠の反応も見ずにガタンと椅子から立ち上がってムーンバックスから出て行った。


 あまりに興奮しすぎて『じゃあね』の代わりに『へば』って言ったのに自分では気づいていなかった。多分、悠が真理みたいに笑わなかったからというのもあるだろう。でも実際には、悠は急に怒り出した萌に面食らっていて方言に気づいていなかった。


 萌は、電車に乗って家の最寄り駅で降りても家に着いても怒りが収まらなかった。


「おかえり、萌! ねえ、どうだった?」


 話を聞きたくてわくわくしたリコの顔を見た途端に萌は愚痴がマシンガンみたいに止まらなくなった。


「うーん、確かに園田君もひどいけど、萌も大概だよ!」


「えっ、そうかな?!」


「そうだよ。園田君なんて新田さん以外、女の子とほとんど接触ないでしょ。女の子が他の子と比べられたくないのに気づかなくてつい失言しちゃうんだよ、きっと」


「比べられたくないなんて思ってないよ! ただ新田と一緒くたにされたのが悔しかっただけ!」


「ハイハイ、そういうことにしておきましょうね」


 しばらく経つと萌も冷静になり、怒りよりも罪悪感が増してきて、今度謝ろうという気になってきた。

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