大学の授業の後、佐藤萌が同居しているリコ――本当の名前は中野
「『へばな』って言わないの? フフフ……東京人ぶらなくてもいいのに」
「東京人ぶってなんてないでしょ! だいたいバイバイって言おうと、へばなって言おうと人の勝手じゃない!」
萌は、この意地悪女が貧乳を唯一コンプレックスに思っているのを知っているから、わざと巨乳の胸をバイーンと張って彼女の目を見上げながら反論した。
真理は、青森から上京してきた萌の言葉を『津軽標準語』とか言っていつもからかう。彼女は
更に悪いことに、真理は意地悪で我儘だけど一級品の外見を持ってる。うるうるした大きな目にぷっくりとした唇、桜色の頬、さらさらとした長い黒髪、背が高くてすらっとした肢体、甲北大学伝統の去年のミスコン優勝者。
去年、萌は真理と同時優勝でミス甲北を分け合ったけど、外観的には真理と対照的だ。萌は生まれつき茶色のくせ毛で背が低い。顔は萌もミス甲北になったくらいだから、美人タイプではないけどかわいいはずだし、Eカップの胸には自信を持っている。でも身長のせいでアンバランス、ちょっと太って見えてしまうのはコンプレックスだ。
それに真理に意地悪を言われる度に、彼女が甲北大学に来なければ、去年単独でミス甲北になれたのにと萌はつい悔しく思ってしまう。
男女平等だかなんだかで、今年から伝統のミスコンはミス甲北・ミスター甲北コンテストになってしまった。単独でミス甲北になりたくても、優勝者はもう出場できない。いくら2人同率1位でミス甲北と言っても優勝者は優勝者なのだ。
だから萌も真理もよくもてる。でも萌は、今は誰とも付き合う気がなくて
真理は時々、同じゼミの陰キャ園田
悠は、彼女が話しかけない限り、休み時間もほとんど誰とも話さず、ひたすらスマホでゲームをしている。外見もあんまりいけてなくて、くせ毛が鳥の巣みたいに爆発してて分厚い眼鏡をかけてて、身体が大きくて少し太っている。そんな陰キャを『ゼミの女神』(崇拝者いわく)がかまってるのは、いくら幼馴染でもおかしいなぁって思ってた。
真理が悠と話している時の視線には熱がこもっていた。話し方もぶりっ子くさくて鼻につく。彼女は彼の気を引きたくてわざと他の男と仲良くしているのを見せてつけようとしているんだろう。でもそれが効果あるようには思えない。さっさと
萌は家に帰ってさっそくリコに打ち明けた。
リコは、中学の時に転勤族の父親について青森に引っ越してきた。彼女は高校進学を機に青森から引っ越して離れ離れになったけど、萌とは中学以来の大親友だ。2人は同じく甲北大学に進学、キャンパスの近くで同居している。
「新田って、むかつくな! 今日も『へばな』って言わないのぉ~ってからかってきた!あ゙~、かちゃましいぃぃ!」
「放っておきな、萌。あんまり腹立てても損だよ」
「でもな、いい考えがあるんだ! 新田の想い人園田と交際してギャフンと言わせてやる!」
「それって嘘告ってことだよね?! そんなひどいこと、やめなよ! 園田君、かわいそうだよ!」
「だけど、新田、きまげるじゃん!」
「ねえ、私達、もう大学生だよ。つきあったら、手つなぐとか、キスするだけで済まないよ。園田君が……さ、さ、最後までしたがったら、どうするの? そんなこと、好きな人としかしちゃいけないよ!」
「するわげね! 第一、するとこないっしょ! 私達、一緒に住んでるし、園田君は実家だよ」
「ラブホとかあるでしょ」
「ラ、ラ、ラブホ?! あの園田君がそんな所に私を連れてくはずね!」
「お、男は狼って知ってるでしょ?な、何が起きても、し、知らないよ!」
リコはまじめで大人しそうだから、交際経験がないと言われたら皆信じるだろうけど、萌も実は交際経験なしの処女。だからそんなのやめなってリコに言われたけど、もう頭にきていた萌はリコの言うことを聞かなかった。それが後悔することになるとは思わずに……