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4 ユキヤの推理

「もちろん説明しよう。まず、キリさんはユキヤがロボットを落としたと思っていた。だからミソラくんが来ても警戒せず、部屋に入れた。次にサクラはユキヤがキリさんを殺したと思っていた。でも実際は違った。犯人はミソラくんだったんだ。

 だからハルトさんは君を階段から突き落とし、怪我をさせることで動きを制限した。俺たちにとって有利になるよう、取り計らってくれたんだ。結果は大成功、三〇四の鍵まで手に入れた俺たちは、確固たる証拠を手に入れた。このスマートフォン、キリさんのものだよね?」

 リュウセイがマヒロたちへ見せたのは赤いスマートフォンだった。

「そう、キリさんので間違いない」

「なくなってたって聞いたけど、ミソラくんが盗んだん?」

 振り返ったミソラは傷ついたような顔で首を振った。

「ううん、知らない。っていうか、そのスマホどこにあったの? 本当に僕の部屋だった?」

「もちろん三〇四号室で見つけたよ。靴箱の上から二番目のところに入っていた」

「靴箱? 何も入ってなかったでしょう?」

「ああ、このスマホだけが入っていたね」

 ミソラはユキヤのそばへ寄り、今にも泣き出しそうな声で助けを求めた。

「ねぇ、ユキヤ。僕、本当に何も知らないんだけど。どういうこと? 何でキリさんのスマホが?」

「落ち着け、ミソラ。大丈夫だ、俺はお前を信じてる」

 と、ユキヤが冷静にミソラの肩を抱き、リュウセイたちを見据える。少し考えるように口を閉じた後で、確信を得たような目つきをした。

「お前ら、見落としちゃいないか?」

 リュウセイは片方の眉を軽く上げた。

「どういうことだい?」

「確かに三〇四号室には鍵がかかっている。でも、その鍵でなくても開けられるんだぜ? ハルトさんならタケフミさんの目を盗んで、マスターキーを持ち出せたはずだ」

 ショウは内心でドキッとしたが、リュウセイが表情を変えずにいるのを見て、今は黙っていることにした。

「ミソラが知らないって言うんだから、そういうことになるよな?」

 マヒロとナギも静かにユキヤへ注目している。

「大方の推理は当たってると思うが、犯人が違うんだ。そもそもロボットが落ちた時、ミソラが証言してたじゃねぇか。上から落ちて来たって。それが嘘だって言うのか? 本当はミソラがロボットを落としたんじゃないかって? 馬鹿言うなよ、ミソラがそんなことするはずがねぇだろ。俺の大事にしてるものを壊すようなやつじゃない」

「ユキヤだって僕の大事なものを大事にしてくれる。だから壊せるわけがないよ」

 ミソラの反論にリュウセイは無言で小さくうなずく。どうやらユキヤの推理に同意しているらしいが、ショウはリュウセイが一体どういうつもりなのか分からなくなってきた。

「でもハルトさんならロボットを落とせる。思い入れがあるわけじゃないし、苦手意識すら持ってた。さらに、あの夜は三階にいたしな。となると、キリさんとサクラを殺したのも、おそらくハルトさんだろう。タケフミさんのことで相談があるとでも言えば、就寝前だろうが部屋に入れただろうさ。なんたってキリさんは昔、タケフミさんとデキてたからな」

 はっとしてショウは遺書へ視線を落とす。リュウセイもまたそれを見つつたずねた。

「ハルトさんの遺書に、キリさんが色目を使っていたと書いてある。これは本当のことだったんだね?」

「ああ、事実だ。といっても、俺らがここで暮らし始めた頃の話であって、今でも続いてたかどうかは知らない。ハルトさんは浮気されてることに気付いてたけどな。だから俺らと仲良くなったんだ、寂しさを紛らわせるためにな」

 キリについて聞いた時、タケフミが声を詰まらせたのを思い出す。あれは一時でも関係を持った相手に対する悲しみだったのか。

 思い返せばユキヤも証言していた。キリとタケフミが一緒にいるところをよく見かけた、と。

 ミソラが補足するように言った。

「そういえば、ランタンに盗聴器を仕掛けるようになったのって、ハルトさんに頼まれたからだったよね。タケフミさんがどこで何してるか知りたいから、って」

「そうだったな。ミソラが退屈しのぎで盗聴するようになっても、ハルトさんは何も気にしてなかったみたいだ。特に文句は言われなかったし、定期的にあの二人の会話を盗聴してたくらいだしな」

「なるほど、ハルトさんはする側だったんだね?」

 確かめるように聞き返すリュウセイへ、ユキヤは当然のごとく返した。

「ああ、俺たちはハルトさんと仲が良かったからな」

『人間は間違う生き物だ。簡単に嘘をつくし、無意識に矛盾する。勘違いや誤解もするし、価値観が違えば見方は変わる』――今となっては予言のような言葉だ。ハルトは意図的にショウとリュウセイを惑わせていた。それは無論、ことを意味する。

「それなら動機は? ハルトさんはどうしてキリさんを殺害したんだい?」

 リュウセイの落ち着いた問いにユキヤは答えた。

「簡単だ。すべてを憎んでいたハルトさんは、俺らの復讐計画に賛成してた。キリさんも最初はそうだったんだけどな、やっぱりやめろって言い出したんだよ。ただでさえ彼氏の浮気相手だ、ずっと気に食わなかったんだろう。我慢の限界が来たから殺した。サクラは口封じで合ってるよ。キリさんは盗聴器に気付いてたっぽいし、話をしていてもおかしくない。

 実はあの数日前、キリさんと言い争いになったんだ。ハルトさんも居合わせていたから、我慢の限界が来たのはその時だったんだろうな。でもあのハルトさんだ、人前で怒ることはなかった。頭に来てたのは俺の方だったから、キリさんやサクラが俺を犯人だと思い込んだのも無理はない」

「そのことを黙っていたのは何故だい?」

「話せば俺に疑いが向くだろ? そうしたら復讐計画もバレる可能性があった。お前らにまで邪魔されたらたまらねぇからな、ミソラと話して隠しておくことにしたんだ」

 彼らにとっての最重要事項は復讐だった。間近に迫るその時のために、どうしても計画を隠しておく必要があったのだ。

「じゃあ、どうしてキリさんのスマホを? ミソラくんに罪をなすりつけるためなのかい?」

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