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3 リュウセイの推理

 ショウは黙ってリュウセイの声に耳を傾けていた。まだ自分の推理と齟齬そごがなく、特に引っかかりを覚える部分もなかったからだ。

「サクラの部屋のテーブルの裏に奇妙な絵が描かれていたのだけれど、結局何なのか分からないままだった。残念なことに、あとでもう一度確かめようとした時には、何者かが上から塗りつぶして見えなくしてしまっていたからね。

 でも、あれはおそらく犯人とは結びつかないものだった。何故なら思い違いをしていたのだから、そもそも手がかりとして機能しないんだ。だから絵が何を表わしているか、考える必要はなかったことになる」

 ミソラがわずかに肩を揺らした。サクラの奇妙な絵が無意味だったことに、何か思うところがあったようだ。

「さらに彼女は殺害される前に、自分のランタンを床へ叩きつけて壊していた。自分が殺されることを予想していた彼女は、椅子に座って犯人を待っていたに違いない。椅子に誰かの座っていた形跡があったからね。おそらくサクラは犯人が来た時に立ち上がり、リビングの中央辺りで倒れることになったんだろう。しかし、相手の顔が見えたかどうかははっきりしない。明かりは相手のランタンしかなかったし、俺が前に使っていたもののように、手元を照らすのが精一杯だったかもしれない」

 住人たちの持っているランタンは種類も大きさもさまざまだ。当然ながら光量にもばらつきがある。

「もう一つ推測できるのは、彼女の頭が廊下側にあったという点から、犯人に背を向けていた可能性がある。いや、わざと背を向けて殺されるのを大人しく待っていたのかもしれない。相手の顔を見てしまうと怖くなるものだしね。いずれにしても、犯人の顔を彼女が見た可能性は低いんだ。だからこそ彼女が思い違いをしていたと言えるわけだ」

 反論する者はいなかった。

「また、サクラが壊したランタンについてだけれど、歪んだフレームや割れたガラスが散らばっていた。その中で一箇所だけぽっかりと空いた部分があってね。不自然というほどではなかったものの、怪しいと言えば怪しかった。

 考えた結果、そこにあったものが回収されて空白ができたのではないかと思った。誰がいつ回収したかははっきりしないけど、おそらくユキヤかミソラくんのどちらかだろう」

 マヒロとナギが驚いて二人を見る。ユキヤはこともなげに返した。

「ああ、回収した。盗聴器をな」

 リュウセイは満足気にうなずいた。

「やっぱりそうだったんだね。サクラが俺たちへ話をしてくれた時、彼女ははっきりしたことを言わなかった。言えなかったんだ。ランタンに盗聴器が仕掛けられていることを知っていたから」

 何も知らなかった女性たちが疑うようにユキヤを見る。気にせずにリュウセイは続けた。

「だからランタンを壊したけれど、盗聴器はユキヤに回収されてしまった。たぶん、俺が一人でサクラの遺体を見ていた時だろうね。ショウが来る前に、こっそり拾ったんじゃないかい?」

「ああ、その通りだ」

「受信機はこれだろ?」

 すかさずショウは隅にやった機械の中から、くすんだ緑色の受信機を手に取ってみせる。

「仕掛けたのはユキヤだけど、きっと日常的に盗聴していたのはミソラじゃないか?」

 ミソラは答えなかった。リュウセイは話を進める。

「どっちでもいいけどね。次はハルトさんだけれど、彼は真犯人をかばって自殺したらしい。アトリエに盗まれた食料を探しに行ったら、こんなメッセージを見つけたよ。『仲間外れを持っていって』」

 片手で付箋紙を示してから、もう片方の手で隣に置いた絵を持ち上げる。

「彼は色鉛筆で写実的な絵を描いていた。でも、この絵だけはクレヨンで描かれている。つまりこれが仲間外れだ。ところで何の絵か、分かる人はいるかい?」

 マヒロとナギは首をかしげた。ユキヤとミソラも何も答えず、リュウセイは答えを明かす。

「宇宙船の絵だよ。裏には数字がいくつも書いてある」

 裏返して縦に持ち、はじき絵を見せる。

「上に大きく書かれた数字は四月三十日十時。下に書かれた数字は宇宙船の情報だと考える。全長九十二メートル、全幅四十一メートル、全高二十三メートル、乗員乗客含めて四百十二名。これをそのまま裏返すと、宇宙船の絵だったことが分かる」

 女性たちが小さく息を呑む。宇宙船はエンジンを上にし、下へ向かうように描かれていた。

「これこそが犯人の動機であり、復讐計画だ」

 言い切ったリュウセイを見てユキヤは軽く鼻で笑い、ミソラがおずおずと問う。

「君たちが捏造したんじゃなくて?」

「残念だけど、俺たちはハルトさんがこの絵を描いているところを見てるんだよ。それに捏造なんてできるわけが無い。俺たちが犯人の動機に気付いたのは今日、ついさっきなんだから」

「どういうこと?」

 マヒロの問いに答えたのはショウだ。

「今朝、このはじき絵を思い出したんだ。クレヨンの油分が水分を弾くから、水彩絵の具で塗りつぶすことで浮び上がる。それで動機が分かったってことだ」

「ハルトさんはこの計画に賛成していたはずだ。何故なら彼はすべてを憎んでいた。自分をこの世に産み落とし、生きながらえさせたすべてをね。だけど良心も残っていたからグレーだった。そして彼は誰がキリさんとサクラを殺したか、真犯人に気付いていた」

 そこで一息つき、リュウセイは目つきを鋭くさせて彼をにらんだ。

「ミソラくん、君だよね」

 表情を隠すように彼がおもむろに立ち上がった。

「証拠はあるの?」

 と、ビスケットを乗せていた皿をキッチンへ運ぶ。

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