するとミソラが隣の席へ座って言った。
「それでショウくんはどうなの?」
「どうって?」
「リュウセイくんのことだよ。どう思ってるの?」
いかにも興味津々な様子で問いかけられ、ショウは真面目に悩んでしまった。さすがにこうなることまでは想定していなかった。
「あいつは、うーん……」
ユキヤとミソラは黙って注目している。
「悪いやつでは無い、と思う。いや、あいつはいいやつだ。調子に乗るしふざけるし、小心者で頼りなくて、時々空気が読めなくて失言もするけど、頭は回るし優しい」
「それなら、彼と付き合っちゃえば?」
「ミソラまで言うのか」
複雑な気持ちになってうつむき加減になったが、ミソラはくすくすと笑いながら返した。
「だって君たち、お似合いだもん。嫌じゃないなら付き合ってみてもいいと思うよ?」
「うーん、でも付き合うっていうのがどういうことだか、よく分からないんだよな」
「キスしてセックスすりゃいいんだよ」
「そう簡単に言ってくれるなよ……」
と、ショウはユキヤをにらむ。
彼らはちゃんと話を聞いてくれるわりに、結論を出すまでが短い。深刻に捉えられても困るのだが、あまりに軽く言われるために困惑せずにはいられなかった。
「っていうかオレ、恥ずかしいの嫌なんだよ。つい、手が出ちまう」
「えっ、ツンデレってこと?」
ミソラが目を輝かせ、ユキヤは愉快そうにした。
「お前、本当に可愛いやつだな。もう大人なんだから素直になれよ」
二人に言われると、そうした方がいい気がしてくる。しかし、これはあくまでも時間稼ぎ。リュウセイが部屋を調べ終えて戻るまで、二人の注意を自分に向けさせていればいいのだ。
そう割り切ってショウは彼らを見る。
「二人はそういうことないのか? 恥ずかしくなかったか?」
「あー、最初の頃は少し恥ずかしかったかもな」
「でも慣れてくると、キスもハグも恥ずかしくないし、セックスも楽しいって思えるようになるよ」
「そ、そうなのか……」
投げかける質問を間違えたかもしれない。ショウが後悔したところで外から声がした。
「ごめん、ユキヤ。ショウ、いる?」
リュウセイだ。
はっとして振り返ったショウだが、何故か先にユキヤが席を立って行ってしまう。
玄関の扉を開けて、ユキヤはリュウセイと話し始めた。
「ああ、いるぜ」
「やっぱりここにいたのか。もしかして、何か聞かされたかい?」
「お前にキスされそうになって逃げてきたらしいな」
「うーん、反省はしてる。でも俺、こう見えて性欲強くてさ」
「まあ、好みのやつがそばにいるとな。我慢できなくなるよな」
「分かってくれるのかい?」
「分かる。けど、ショウみたいなタイプはゆっくり距離を詰めないとダメだ。アピールするのはほどほどにしろ、いいな?」
「あはは、まさか君に説教される日が来るとは……分かった、今後は気をつけるよ」
そしてユキヤは戻って来るとショウの肩をたたいた。
「王子様のお迎えだぜ。頑張れよ」
「あ、ああ」
そんなつもりはまったく無いが、妙に意識してしまう。ショウはため息をつきつつ立ち上がり、足取り重く玄関へ向かった。
リュウセイが申し訳なさそうに眉尻を下げながら言った。
「ショウ、さっきはごめん」
「いや、オレも悪かった。すまない」
と、話しながら外へ出る。
「で、収穫は?」
廊下を歩きながら小声でたずねた。リュウセイもまた小さく返す。
「キリさんの部屋で見つけた花びら、あれと同じものを見つけたよ。彼女がハーブティーを飲んでいたことが確かになった」
「なるほど、それだけか」
「一つだけって、いつ俺が言った?」
「まだあるのか?」
目を丸くするショウへ、リュウセイは口角を上げて返す。
「ああ、確固たる証拠になるものを見つけたよ」
大きな声を上げたくなるのをこらえ、ショウは立ち止まる。二〇五号室の前だった。
「それなら、あとはタケフミだな」