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6 王子様のお迎え

 するとミソラが隣の席へ座って言った。

「それでショウくんはどうなの?」

「どうって?」

「リュウセイくんのことだよ。どう思ってるの?」

 いかにも興味津々な様子で問いかけられ、ショウは真面目に悩んでしまった。さすがにこうなることまでは想定していなかった。

「あいつは、うーん……」

 ユキヤとミソラは黙って注目している。

「悪いやつでは無い、と思う。いや、あいつはいいやつだ。調子に乗るしふざけるし、小心者で頼りなくて、時々空気が読めなくて失言もするけど、頭は回るし優しい」

「それなら、彼と付き合っちゃえば?」

「ミソラまで言うのか」

 複雑な気持ちになってうつむき加減になったが、ミソラはくすくすと笑いながら返した。

「だって君たち、お似合いだもん。嫌じゃないなら付き合ってみてもいいと思うよ?」

「うーん、でも付き合うっていうのがどういうことだか、よく分からないんだよな」

「キスしてセックスすりゃいいんだよ」

「そう簡単に言ってくれるなよ……」

 と、ショウはユキヤをにらむ。

 彼らはちゃんと話を聞いてくれるわりに、結論を出すまでが短い。深刻に捉えられても困るのだが、あまりに軽く言われるために困惑せずにはいられなかった。

「っていうかオレ、恥ずかしいの嫌なんだよ。つい、手が出ちまう」

「えっ、ツンデレってこと?」

 ミソラが目を輝かせ、ユキヤは愉快そうにした。

「お前、本当に可愛いやつだな。もう大人なんだから素直になれよ」

 二人に言われると、そうした方がいい気がしてくる。しかし、これはあくまでも時間稼ぎ。リュウセイが部屋を調べ終えて戻るまで、二人の注意を自分に向けさせていればいいのだ。

 そう割り切ってショウは彼らを見る。

「二人はそういうことないのか? 恥ずかしくなかったか?」

「あー、最初の頃は少し恥ずかしかったかもな」

「でも慣れてくると、キスもハグも恥ずかしくないし、セックスも楽しいって思えるようになるよ」

「そ、そうなのか……」

 投げかける質問を間違えたかもしれない。ショウが後悔したところで外から声がした。

「ごめん、ユキヤ。ショウ、いる?」

 リュウセイだ。

 はっとして振り返ったショウだが、何故か先にユキヤが席を立って行ってしまう。

 玄関の扉を開けて、ユキヤはリュウセイと話し始めた。

「ああ、いるぜ」

「やっぱりここにいたのか。もしかして、何か聞かされたかい?」

「お前にキスされそうになって逃げてきたらしいな」

「うーん、反省はしてる。でも俺、こう見えて性欲強くてさ」

「まあ、好みのやつがそばにいるとな。我慢できなくなるよな」

「分かってくれるのかい?」

「分かる。けど、ショウみたいなタイプはゆっくり距離を詰めないとダメだ。アピールするのはほどほどにしろ、いいな?」

「あはは、まさか君に説教される日が来るとは……分かった、今後は気をつけるよ」

 そしてユキヤは戻って来るとショウの肩をたたいた。

「王子様のお迎えだぜ。頑張れよ」

「あ、ああ」

 そんなつもりはまったく無いが、妙に意識してしまう。ショウはため息をつきつつ立ち上がり、足取り重く玄関へ向かった。

 リュウセイが申し訳なさそうに眉尻を下げながら言った。

「ショウ、さっきはごめん」

「いや、オレも悪かった。すまない」

 と、話しながら外へ出る。


「で、収穫は?」

 廊下を歩きながら小声でたずねた。リュウセイもまた小さく返す。

「キリさんの部屋で見つけた花びら、あれと同じものを見つけたよ。彼女がハーブティーを飲んでいたことが確かになった」

「なるほど、それだけか」

「一つだけって、いつ俺が言った?」

「まだあるのか?」

 目を丸くするショウへ、リュウセイは口角を上げて返す。

「ああ、確固たる証拠になるものを見つけたよ」

 大きな声を上げたくなるのをこらえ、ショウは立ち止まる。二〇五号室の前だった。

「それなら、あとはタケフミだな」

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