ベッドに横になった途端、熟睡してしまったようだ。目を覚ますとすっかり夜になっていた。
起き上がると体が先ほどまでより軽くなっていたが、同時にだるさも感じた。まだ体力が回復しきっていないのだ。
のろのろとリビングへ移動すれば、テーブルの上にいくつかの食料とスニーカー、数枚の下着と靴下が置かれていた。
「ああ、いつの間に……」
メモ書きが二枚、タケフミとマヒロから残されていた。
ここでは毎週日曜日の夜に七日分の食料を配っていると書かれており、今日の夜の分からそれまでの食料を持ってきてくれたらしい。
服の上に置かれたメモには服も靴も返さなくていいこと、そして趣味が合わなければ言ってほしいとあった。
本当にここの人たちは優しいと思いつつ、食料をランタンで照らす。缶に入ったビスケットや
「プロテインバー……」
そういえばランタンの対価としてプロテインバーを要求されたことを思い出す。ミソラは気にしないでいいと言っていたが、ショウは判断に迷う。
とりあえず何か食べようとした時だった。雨と強風の立てる音に、何か落ちたような大きな音が混じった。
びくっとしてショウは音のした方を振り返る。ランタンを持ったまま、そろそろと玄関へ向かった。
外へ出ると、いくつかの光が見えた。隣のリュウセイも外へ出ており、ショウは彼のそばへ寄る。
「何があったんだ?」
「ロボットが落ちたんだ」
はっとして吹き抜けの下をのぞき見る。ほぼ真向かいにいたユキヤが懐中電灯の明かりでそれを照らしていた。ロボットは頭から落ちたらしく、頭部がつぶれてへこんでいた。首の部分は折れて内部が見えており、胴体部分も落下の衝撃により外装が割れているのが分かる。
「クソ、誰がこんなこと」
と、ユキヤが苛立ち紛れにつぶやくと三階から声がした。
「何かと思ったら、ロボットが落ちたん? 何で?」
不安そうなナギの声に他の者たちもざわつく。いつの間にか、住人たちが全員出て来ていたようだ。
ショウは下を見つめながら、リュウセイへたずねた。
「あのロボット、巡回するだけだったよな?」
「ああ、そうだね」
「ってことは、自分から落ちるわけないよな」
「うん、階段の上り下りはできても、フェンスを乗り越えることはできないはずだ」
「じゃあ、誰かがやったわけだ」
リュウセイは顎に片手をやり、口を閉じた。
中庭の地面はすっかり雨に濡れており、倒れた鉢植えが二つごろごろと転がっている。
かろうじて手足が動いていたロボットが息絶えるように停止した。機械だと分かってはいても、人型のそれが死にゆく様子を見ると胸が痛む。
するとミソラが言った。
「ねぇ、タケフミさん。昼間、食料が盗まれてるって話してたよね?」
ショウたちから見て左手、いくつかの部屋を挟んだところでタケフミが重々しく言う。
「ああ、確かに盗まれてた。けど、ここに盗むようなやつはいない」
確固たる信頼を感じる言葉だったが、三階からマヒロが返す。
「それなら侵入者がいるってこと?」
「知らない誰かが、勝手に入り込んでるんですか?」
サクラの声も確かめるようにたずね、ハルトの声がため息の後に言った。
「残念だけど、ありえない話じゃないね」
秩序が崩壊し、終わりが来るのを待つばかりの時代だ。こっそり誰かが入り込んでいてもおかしくはなかったが、ショウはつぶやかずにいられなかった。
「姿見せれば、ただで食うもんもらえるのにな」
服ももらえて寝る場所も整えてもらえた。住人たちはみんな優しくしてくれたため、姿を隠す理由がショウには理解できない。
するとキリの不機嫌そうな声がした。
「ふん、くだらないわね」
乱暴に扉を開ける音がし、彼女の提げていたランタンの光が扉の向こうに消える。
多少ざわついたものの、三階にいた人たちがそれぞれ部屋へ戻って行く。侵入者がいるとしても、彼女たちにとってはどうでもいいようだ。
懐中電灯を消してユキヤが言う。
「タケフミさん、ロボットは後で俺が回収します。雨がやんだ頃にでも」
「ああ、分かった。それじゃあ」
と、彼も早々に部屋へ入って行き、リュウセイも続いた。
「じゃあ、俺も戻るね。おやすみー」
ユキヤとミソラは何か話をしてから一緒の部屋へ入り、残されたショウは腑に落ちないながらも二〇三号室へ帰った。