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第11話 興味本位の遊び

 一つ気がかりがある。

 なんてことはないのだが、崇吾がちかりの今カレの話をするもんだからちょっと、ほんのちょっとだけどういう奴か気になってきた。


 俺という男がいながら浮気をするほどの相手だ、あくまでも興味本位として知りたいと思ってしまうのはそれほど悪いことだろうか? そうあくまでも興味本位。特に深い意味合いがあるわけではなく、ちょっとした暇つぶし程度の興味本位だ。


 思い立ったがなんとやら、昼休みの今の時間帯を使って調べることにするか。

 夏休み前のちょっとした探偵ごっこ。新しい恋を見つけられるかもしれないが故の高等遊戯、というやつだ。


 問題なのは、俺はそいつのことをほとんど知らないということ。

 外見以外は何も。同じ学年かどうかも知らないし当然名前も知らない。

 とりわけイケメンというわけでもない、至って普通な男に見えた以上聞き込みで外見の特徴を伝えても効果があるとは思えない。

 ということは、虱潰しに自分の目で校内中を歩き回る以外に方法は無い。


 メガネをかけたひょろい外見の男。ただこれだけだが仕方がないな。

 興味本位の暇つぶしとして調べ歩こうじゃないか。


「さてと、まずはどこから当たるかな?」


 まずは手近なところから、つまるところ今自分がいるフロア。一学年の教室を見て回るとしよう。とはいえ今は昼休みだから生徒たちは散り散りになってる。可能性はあまり高いとは思えないけれど、こういうのはまず一つ一つ潰していかなければ。


「教室は……と」


 自分のクラスを除いてA組から順番に見て回る。

 しかし、いなかった。そもそも生徒が少ない。昼休みだから仕方がないが、可能性が一つ潰れたと思って気長にやっていくとしよう。



 その後も校舎中を歩き回って探し回る。それっぽい男はよく見るが、残念ながら目当ての人物じゃない。

 そうこうしているうちに昼休みもあと十分、さすがにちょっとダレてきたな。これでダメだったら、放課後見て回るか? 文化部に所属している可能性だってあるわけだし。


 一度始めた以上はキッチリ調べ上げるまでは気が済まない。俺の興味本位故これは仕方がない。

 今更あんな女なんぞ知ったことじゃないが、俺と天秤に掛ける程の相手がどれほどのものか? 後学の為に知っておくのもそう悪い話じゃない。


 とはいえさすがにこんなギリギリの時間、一旦諦めてそろそろ教室にでも戻るか。

 そう思っていた矢先のことだ。この教室のある棟から離れた、家庭科室やら理科室があるこの棟の廊下の曲がり角から件の人物がひょっこり現れた。


「うおっと!?」


「あ、ごっ、悪い!」


 思わず驚いた俺の反応を見てか、奴はどもりながら謝り、足早に去って行った。

 急な出来事に硬直してしまったが、折角のチャンスを逃すまいと奴の後を追う。


 まではよかったのだが……。


「もういなくなってる。意外と足が速いな」


 追いかけた先にはもういなくなっていた。チャンスを不意にしてしまったな。これでまた振り出しか……。

 降って沸いたチャンスだからこそ、それを逃した時の落胆も大きい。

 昼休みももうすぐ終わりだってのに……。仕方ない諦めて戻るか。


「ん?」


 踵を返そうとした時だ、廊下に何かが落ちてるのを発見。よく見ると生徒手帳だった。


「なんでこんなものが?」


 俺の場合、この手のものは鞄に突っ込んで滅多に出す事も無い。正直久しぶりに目にした。


 一体誰のだ?


 知り合いなら届けてやろうと思って中を覗き込んだ時、確かに知った顔の写真があった。


「あ、こいつ!? ちかりの今カレじゃねぇか!」


 そう、ついさっきすれ違ったあの男。気づかず落としてしまったんだろうか?

 これは大チャンスでは? そう、知りたかった情報が一気にわかる千載一遇のチャンスだ。


 名前は……沢木、ねぇ。学年は俺と同じで、クラスはF組か。


 情報を頭の中に叩き込んでいった。

 用済みのこの手帳は……確か次の授業の教師があそこの担任だったな、授業の終わりにでも預ければいいか。


 手帳を懐に納めると同時にスマホを取り出す。時間を確認するとかなりギリギリの時間だった。


「やっば、そろそろ戻らんと」



 走って自分の教室に戻る俺。しかし残念な事に、時間が本当にギリギリだった為にチャイムがなってしまった。当然教師に叱られてしまう。


「ですけど先生、それでも諦めずに戻ってきたというところを評価していただいても!」


「諦めないという判断の前にまず余裕を持つ事を大事にしろ!」



 ◇◇◇



 放課後。

 午後の一発目の授業で理不尽に怒られたりなどしたが、それ以外は特につつがなく終了することができた。

 拾った生徒手帳はもう手元にはないが中の情報は既に頭の中にインプット済みだ。

 余裕ある者の高等遊戯を再開しようじゃないか。


「良くん、今日一緒に帰る?」


「残念ながら崇吾、俺は今からやることがある。ただお前がどうしても手伝いたいって言うんだったら」


「あーそうなんだじゃあね」


 俺の返事を最後まで聞くこともなく、親友はさっさと教室から出て行ってしまった。

 薄情な奴だな、ちょっとくらい付き合ってくれてもバチは当たらないんじゃないのか?


 仕方がない、こうなったら一人で張り込んでやる。

 付き合いの悪い友人の事は諦め、俺は一人で調査を開始する事にした。



 鞄を片手に教室を飛び出し、ターゲットのいるF組へと向かう。当然相手に気づかれるわけにはいかないので、細心の注意を払いながら近づく。ただあんまりモタモタしているとターゲットが移動する可能性も高い。特に今は放課後だ、ほんの少しの油断で見失ってしまいかねない。

 判断を見誤らないように動かなければ。


 ……よし、見えてきたぞ。


 案の定、帰宅する為に生徒たちがぞろぞろと教室から出てくる。中に残っている人間もいるだろうが、まずは出てきている生徒の中からターゲットがいないか探すことにする。


 怪しまれないように廊下の壁に背中を預けながらスマホをいじる、フリをして生徒の波を見分けて行く。


(お、いた)


 ターゲットを発見。人並から少し離れたところに一人で歩く男の姿を見た。

 友人が傍に居ないところを見ると、おそらく今からちかりの元へと向かうはずだ。あの手のタイプは彼女を誰かに自慢するのではなく、むしろ彼女がいるのを茶化されるのを嫌うタイプだろうから。


 奴が俺の目の前を通り過ぎるの確認すると、怪しまれないようにしながらこっそりと後ろをついていく。見失わない為とはいえ直ぐ後ろをついて回るわけにはいかない、あくまでもつかず離れず自然体にだ。


(さてと……ここからどう出るか?)


 ターゲットはどうやらキョロキョロと辺りを見ながら歩いているようだ。ちかりを探しているんだろう。


 玄関口付近、靴を履き替えるちかりを発見。俺はバレないように物陰に隠れる。


 ターゲットの沢木はちかりを見つけると、若干きょどりながらも近づいていく。その背中には嬉しさがにじみ出ているようだ。ケっ。


 物陰に隠れている以上、ちかりの表情は確認出来ないのが難点だがバレるわけにはいかないから仕方がない。欲を言えばどんな会話をしているのかも知りたいところではあるが、これも諦めることにする。


 それから直ぐに二人は玄関口から外へと出て行ったようだ。これから帰宅デートか? 良い御身分だ事でね。

 俺も靴を履き替え、校舎を後にする。さてどこへと向かうんだ?


 しばらく尾行を続けると、沢木はちかりを連れてある建物へと入って行った。


(ここって……)


 そこは町中にある全国チェーンの喫茶店だ。学生にも馴染みがある場所であり、俺もちかりと何度か入った事があるが、あそこのコーヒーはなかなか悪くない味だった記憶がある。


(なるほどな。彼女とか出来た事無さそうな割に、こういうとこに連れ込む気概はあるようだ)


 恋をすれば人は変われるって事か? ご立派になったもんだ。いや、あいつの過去とか知らないが。

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