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終章 1

――リリスが両親と共に『マリ』へ帰ってから少しの時が流れた。


そして今日は7月6日。

ニコルがシュタイナー夫妻と『ソルト』へ来る日だった。


3人は13時着の汽車で来ることになっており、私はアデルを連れて駅まで迎えに来ていた。

アドニス様も本当は迎えに来たかったようだが、仕事が忙しいということで叶わなかったのだ。


「アデル。もうすぐ、お祖父様とお祖母様に会えるわね」


私達は改札口前で、手を繋いで3人が現れるのを待っていた。チラリとアデルを見ると余程緊張しているのか、口をまっすぐ閉じて正面をじっと見つめている。


「アデル、久しぶりだからもしかして緊張しているの?」


「う、うん……」


コクリと頷くアデルは繋いでいた手に力を込める。


アデルはまだ5歳。

それにシュタイナー家を離れてから2ヶ月以上経過している。幼い子供の2ヶ月という月日は大きいかもしれない。


「大丈夫よ、そんなに緊張しなくても。私だって一緒でしょう?」


けれど、私も実は緊張している。

定期的に手紙のやり取りをしてはいるものの、ニコルに会うのは実に1年半ぶりなのだから。


「もしかして、お姉ちゃんも緊張している?」


不意にアデルが尋ねてきた。


「ええ、じつはそうなの」


「それじゃ、私と同じだね?」


「そうね、一緒ね?」


その時――


大きな汽笛の音が聞こえて汽車がブレーキを立てて停車する音が響き渡った。

いよいよ、汽車が到着したのだ。

私とアデルは緊張しながら、3人が現れるのをじっと待った。


少しすると、ホームから乗車客がぞろぞろと降りて改札へ向かって歩いてくるのが見えた。

相当な数の人々が乗車していたのだろう。

改札付近には人が溢れかえっていた。


「すごい人だね〜」


アデルが驚いた様子で目を見開く。


「ええ、そうね。私達がここへ来たときは、こんなに大勢の人たちはいなかったものね」


やはり、それだけ今回のお祭りは有名なのだろう。


「おじいちゃん、おばあちゃん見つかるかなぁ……」


アデルが心配そうに呟いた時……。



「お姉様!!」


聞き覚えのある声が人混みの中から聞こえた。


「え?」


驚いて顔をあげると、私の懐かしい弟ニコルがこちらへ向かって手を振っている。

すぐそばには、シュタイナー夫妻の姿もあった。


「おじいちゃん! おばあちゃん!」


アデルが大きく手を振ると、夫妻も笑顔で手を振りながら近づいていくる。



「お姉様! 会いたかったです!」


改札を出てきたニコルが私に駆け寄ってきた。


「ニコル……私も会いたかったわ……」


嬉しさのあまり目に涙が滲む。あの小さかったニコルは、たった1年半会わなかったただけなのに、私よりも少し背が伸びていた。


「お姉様、僕もうこんなに背が伸びました。もう小さかった頃の僕じゃありません」


声変わりしたニコルは、本当に逞しく感じられる。


「お兄ちゃんがニコル?」


アデルがキョトンとした顔でニコルを見上げる。


「はい、そうです。アデルお嬢様。僕がニコルです」


ニコルは笑みを浮かべ、丁寧にアデルに挨拶する。

そこへ、遅れてシュタイナー夫妻が改札を通り抜けて出てきた。


「おじいちゃん! おばあちゃん!」


アデルが泣き顔で2人に駆け寄る。


「アデル!」

「会いたかったわ!」


シュタイナー夫妻は交互にアデルを抱き上げると、再会を喜びあった。


「お久しぶりです。シュタイナー様」


ひとしきり、感動の再会を果たしたところでシュタイナー夫妻に声をかけて挨拶を交わした後。


みんなで馬車に乗り込み、アドニス様の待つラインハルト家へ向かった――



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