「で、出掛けるって……一体どちらへですか?」
今迄アドニス様から2人だけでの外出に誘われたことが無かったので、ドキドキしながら尋ねた。
「実は来月、アデルの6歳の誕生日なんだ。だから何かプレゼントを買ってあげたくてね。だけど恥ずかしいことに、自分の妹なのにどんなものが好みなのか分からなくて。それでフローネに買い物に付き合って貰いたいんだ」
「まぁ、そうだったのですか。それでは私もアデルの為に誕生日プレゼントを用意しなければ。是非、御一緒させて下さい」
アデルの誕生日……? それは初耳だった。でも、私もアデルにプレゼントを贈って、喜ぶ顔が見て見たい。
「良かった、そう言って貰えて。アデルの驚きと喜ぶ顔が両方見たくて、内緒で用意したかったんだ。2時間程度ならまだアデルは昼寝をしているんだろう?」
「ええ、そうです。では、アデルが起きないうちにすぐに買い物に行った方がいいですね。今すぐ出かけませんか?」
私が着ている服は、ブラウスにブラウンのジャンパースカート姿だった。華やかなアドニス様の隣を歩くには相応しくな姿だ。けれどもアデルが目覚める前に帰宅するには準備をしている時間は無い。
「分かった、それじゃ10分後にエントランスで会おう。馬車を回しておくようにつたえておくよ」
「はい、分かりました」
返事をすると、私は足早にアデルの部屋へ戻った。
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「アドニス様とデートに行かれるのですね!?」
部屋で待っていたサラに、アドニス様と買い物に行く話をすると彼女は見当違いなことを言ってきた。
「デート? まさか! そんなことあるはずないでしょう? アデルの誕生プレゼントを買いに行くのよ。2時間以内には戻って来るから、もしアデルの目が覚めたら……そうね、アデルの好きなキャンディーを買いに行ったと伝えて貰えるかしら?」
「はい、分かりました」
「それではお願いね」
「あ、お待ちください。フローネさん」
ショルダーバッグを下げて、出て行こうとするとサラが尋ねてきた。
「何?」
「いえ……その、服装でお出掛けされるのですか?」
「ええ、そうよ。……アデルの為にも早目に戻って来なければいけないもの」
ただ、私と一緒に歩くアドニス様に迷惑をかけてしまうかもしれない。その時は彼の後ろを着いていけばいいだろう。
「分かりました、ではお気をつけて行ってらして下さい」
「ええ。サラにも何かお土産を買ってくるわね」
**
エントランスに行くと、既にアドニス様が待っていた。
「申し訳ございません、お待たせいたしました。アドニス様」
「いや、俺も今来たところだから大丈夫よ。それじゃ、行こうか?」
「はい」
アドニス様が扉を開けると、既に馬車が待っていた。早速乗り込むと、馬車は音を立てて走り始めた。
向かい側に座り、窓の外を見つめるアドニス様は本当に素敵だった。ブロンドの髪に青い瞳のアドニス様はまるで絵本の中の王子様そのものに見える。
それなのに、一方の私はどうだろう?
グレーの髪に、目立たない顔立ち。地味な服装で、名ばかりの男爵令嬢。
だからクリフはリリスを選んで……。
「そういえば、2人だけで外出するのは初めてだったな」
窓の外を眺めていたアドニス様が突然声をかけてきた。
「そ、そうですね。初めてですね。ところでこの馬車はどこに向かっているのですか?」
もしかして、気づかないうちに不躾にアドニス様を見つめていたのかもしれない。視線を逸らせながら返事をする。
「駅前の繁華街に向かっているよ。あそこなら、何でも買い揃えることが出来るからね。それで、アデルはどんなものが好きなのかな?」
「そうですね。最近のアデルは絵を描くことが大好きです。よく、ウサギや猫の絵を描いています。特にウサギが好きなのかもしれないですね。上手に描いていますよ。1人で寝るようになってからはお人形を枕元に置いているので、プレゼントに新しいお人形を贈るのかもしれませんね」
「成程、そうなのか」
アドニス様は笑顔で、アデルの話を聞いている。……本当に妹のことを大切にしているのだと言う事が、態度で充分伝わる。
大丈夫、私がシッターの任を終えて居なくなっても……きっとアデルは寂しい思いをすることは無いだろう。
その後も、私とアドニス様は目的地に到着するまで馬車の中でアデルの誕生プレゼントの話を続けた。
自分を待ち受ける運命が迫っていることなど夢にも思わず――