「このお茶、とっても美味しいわね。それにケーキにもよく合いそうだし。そう思わない? クリフ」
リリスが早速私が淹れたお茶を飲み、満足そうに笑顔になる。
「うん、そうだね。ありがとう、フローネ」
「良かったわ。それじゃ、私……仕事の続きがあるから……行くわね」
ここにいると、自分と2人の身分差を見せつけられて辛かった。それに洗濯物の仕事もたまっている。
メイド長からは誰か他の人が代わりに洗濯をする話を聞かされていない。つまり……洗濯の仕事は中断されているということだ。
時間内に終わらなければ、また食事抜きの罰を与えられてしまうかもしれない。
なのに……。
「あら、折角4ヶ月ぶりに会えたんだもの。行くこと無いじゃないの、それにクリフから大事な話があるのよ。だからここにいてくれる?」
「え……クリフから大事な話?」
一体大事な話とは何だろう? クリフを見つめると、彼は顔を赤らめている。
「クリフ……?」
私がクリフの名を呼ぶと、ますます彼の顔は赤くなる。
「え……? い、今ここで言うのかい?」
恥ずかしそうに私の顔をチラチラ見るクリフ。
「ええ、そうよ。ほら、早く言って?」
意味深なリリスの言葉に、私の胸の鼓動が自然と高鳴ってきた。
今日、この場に私を呼んだ2人。そして、顔を赤らめて私を見つめるクリフ。
ま、まさか……クリフは私に……?
淡い期待に顔が赤くなりそうになった次の瞬間。
「リリス、君が好きです。どうか僕と婚約してくれませんか?」
「!!」
その言葉に全身の血の気が引き、目の前が一瞬真っ暗になる。
クリフはポケットから小さな箱を取り出してリリスに差し出すと、私の眼前で蓋をあけた。
箱の中には美しい宝石が埋め込まれた指輪が入っている。
「まぁ……嬉しいわ、クリフ。謹んで、婚約をお受けします」
リリスは頬を赤らめながら左手を差し出すと、まるで申し合わせたようにクリフは彼女の薬指に指輪をはめた。
そ、そんな……。
婚約って……?
一体、何が起きているのだろう? 頭の中は真っ白で何も考えが浮かばなかった。
するとリリスが私に視線を向けた。
「フローネ、私達親友同士でしょう? だからどうしてもクリフと私の婚約をあなたにも祝って欲しくて、この席を設けたの。……迷惑だったかしら?」
私の心臓は激しく脈打ち、喉はカラカラだ。
駄目……私の動揺を……クリフが好きだということを2人に知られるわけにはいかない。
「そ、そんなこと……ないわ。た、ただ驚いてしまっただけよ。おめでとう、クリフ、リリス。ずっと前から……2人はお似合いだと思っていたのよ」
泣きたくなる気持ちをぐっとこらえて、無理に作り笑いをする。
2人はお似合い……この言葉は真実だ。
だって子供の頃からずっと、クリフとリリスはお似合いだと思っていたのだから。
それでも私はクリフが好きだった。
「ありがとう、フローネ。本当は君の前で正式にリリスに婚約の申し入れをするのは恥ずかしかったんだけど……どうしても彼女がフローネにも見届けてもらいたいって言うものだから……」
クリフが恥ずかしそうに私に話す。
あぁ……それで、クリフは私を見て顔を赤らめていたのだ。
私は彼のその仕草を勘違いしてしまった。てっきり、私に告白してくれるのではないかと……。
その後も、私はリリスとクリフがお茶とケーキを楽しみながら話をする姿を
立ち尽くして見ていた。
仕事があるので、退席を願い出てもリリスがそれを許してくれなかったから。
2人の会話に入ることも出来ない。
私はただ、離れた場所で立ったまま苦痛の時間に耐え続けた。
この時間が早く終わりますようにと心の中で祈りながら――