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第506話 各々の課題/ランク戦④

 ここ最近、ヨシナリの周りに女の陰がちらちらと覗いている。

 シニフィエはお義兄さんと呼んでおり、ふわわとくっ付けようと企んでいるようだ。

 本気じゃありませんよといったポーズを取っているが、グロウモスにはお見通しだった。


 あの女は妹面してあざとくアピールする事でヨシナリを自分の物にしようと企む泥棒猫だ。

 ふわわとくっ付けるという動機自体も建前。 奴は間違いなくヨシナリを狙っている。

 グロウモスには分かるのだ。 女の勘とも呼べるセンサーがギンギンに反応している。


 シニフィエは恐らく背徳感のある恋愛を好むタイプだ。 

 グロウモスには全てがお見通しだった。 シニフィエの描いた未来はこうだ。

 ヨシナリをグロウモスから奪い取ってふわわと交際させる事で哀れな敗北者である彼女を嘲笑う。


 そしてそのふわわから奪い取り、自らが食物連鎖の頂点に立つのだ。

 ソースは最近見たエロ漫画。 一度で二人に対して圧倒的な優越感を得られる一粒で二度美味しい。


 ――恐ろしい。 なんと恐ろしい女なのだろうか。


 グロウモスは恐怖に震える。 

 あざとさは同性から見れば不快だが、異性から見ると理性を破壊する麻薬のような破壊力がある。

 見え見えの演技であったとしてヨシナリも男、容易く騙される事となるだろう。 


 ――いや、ヨシナリは私の事を好きだから騙されないはず!


 世の中にはどんな誘惑にも屈しない強い愛の存在があると信じたいが、人間には生理的な欲求という動物的な本能に近い物がある。 

 若く、媚びを売る雌に対して、雄は心ではなく肉体が反応してしまうのだ。 


 ヨシナリはそう簡単に屈しないと思いたいが、絶対ではない。

 ここはやはり自分が先にやるべきなのだろうか? 

 だが、それをやってしまうと折角作ったこの自分が優位な関係性が崩れてしまう。


 懸念はそれだけではない。 ユニオン内だけでも恐ろしい脅威が存在するのに外にも怪しい奴がいる。

 ポンポンだ。 あのデフォルトで人を見下す感じは覚えがある。

 クラスカーストで上位に居るタイプで、周囲が自分に奉仕するのが当然と考えていると見ていい。


 そんな女がヨシナリには当たりが柔らかい。 怪しい、実に怪しい。

 加えてヨシナリもヨシナリであの女から貰った二挺拳銃をいつまでも使っているのも非常に怪しい。

 フレームを変えた時に新調せずに強化パーツで機能拡張した点からも無理に使っている感じがする。


 幸いにもユニオンが違うのでこれ以上の接点は作りようがないが、向こうから接触して距離を詰めようとする可能性は排除できない。 あの女もまた泥棒猫。

 この世の女は他人の男を狙う盗人ばかり。 どうすれば他の泥棒猫からヨシナリを守れるのだろうか?


 マッチング成立。 敵機と交戦に入るが、グロウモスは冷静にそして冷徹に狙いを付ける。

 敵の細かな挙動を見極め――発射。 レールガンは敵機を綺麗に射抜いて爆散。


 「……面倒な連中もこうやって消せればいいのに……」


 リザルト画面を一顧だにせずにそう小さく呟いた。



 「な、なんだ!?」


 不意に感じた強い寒気にヨシナリは身を震わせる。

 いくら考えても分からない事は判断のしようがないので、まぁいいかと流す。

 ランクがCに上がり、自分の戦い方が充分に通用する事を確認した後、仮眠を取って再度ログインしたのだが、ユニオンホームには誰もいない。 ぐるりと見回すと少しだけ変わっていた。


 少し大き目な天蓋付きのクッションが隅に置かれている。

 これは何かというと――ひょっこりと小さめな犬が現れた。 

 トイプードルに似ているそれはフォーカスすると『アルフレッド』とネームタグが表示される。


 先日にユウヤが金を払って実装したらしい。 

 正確にはメーカーに作らせたAIのアバター化のツールのようだ。

 アルフレッドはヨシナリに気付くと尻尾を振りながら寄って来る。


 「よーしよし、可愛いなぁお前は」


 そっと抱き上げて頬を摺り寄せる。 

 ユウヤの居ない時でもこうしてホーム内で行動させる事ができるのが大きな特徴だ。

 その為、アルフレッドの専用スペースを用意する事に抵抗はなかった。 


 彼も一緒に戦ってきた仲間なのだから当然だ。 

 少しの間、感触を堪能したヨシナリはアルフレッドをクッションに戻す。

 ここまで育てるのにはかなり苦労するという話は聞いているが、アルフレッドを見ていると自分も支援機が少しだけ欲しくなってしまう。


 アルフレッドに癒されたヨシナリは小さく気合を入れ、ランク戦に挑もうとウインドウを開いたのだが、メッセージが来ていたので開くと運営からだった。

 何だと開くと件名は特別ミッションの参加依頼と出ている。 


 なんだそりゃと内容に目を通すと抽選で選ばれた一部のプレイヤー限定で参加できる特別イベントらしい。 スクロールして詳細を見ると前にやった制限戦と似たような形式だった。

 詳細は受託すれば説明するとの事だが、装備類は支給された物限定なのでまたプレイヤーの対応力を試すような内容なんだろうなと予想する。 


 悩む必要のない話だった。 

 ヨシナリは末尾に会った受託、拒否と表示されている部分の受託を押す。


 「そういやいつからだ?」


 ざっと見直すと15分後だった。


 「はぁ、何故このゲームで何かを依頼して来る奴はこうもせっかちなんだ?」


 もう移動は可能との事なのでさっさとイベント用のフィールドへと移動する。

 景色が切り替わるとそこは戦場ではなく、トルーパーの編集メニューだった。

 いつものかと思ったがレイアウトが少しだけ違った。 


 「えーっと、機体は――うげ、まーたⅠ型固定か。 面倒だなぁ」


 感覚を抜いていないので違和感が出そうだなと思いながら装備を確認。

 基本的には通常のⅠ型と変わらないが脚部――足首から少し上の部分が大きく膨らんでいる。


 「あぁ、フロートシステムか。 固定って事は足場が悪い所なのかな?」


 海とかの水上かそれとも着地すると沈むような砂漠か何かか……。

 装備は突撃銃と拳銃は固定。 長物は選択可能で、狙撃銃かロケットランチャー、パンツァーファースト、変わった所では長剣、大型の槍――というよりは薙刀かこれは?――から選べる。


 「――手榴弾は三個までね。 まぁ、狙撃銃でいいか」


 一個までしか持って行けないとはケチだなと思いながら機体のセットアップが完了。

 次にミッションの概要等が表示された。

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