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第505話 各々の課題/ランク戦③

 ゲーム、アバター、機体と三つのフィルターがあるにも関わらずはっきりと分かる剣の冴え。

 明らかに人生の少なくない割合の時間を剣に注ぎ込んだ達人だ。

 実家の道場は剣も扱うがそれ以外も使っている事もあってどうしても半端になってしまう。


 その分、対応力には優れているのだが剣のみをあそこまで極めた相手は数えるほどしか見た事がない。

 研ぎ澄まされたその動きはセンス頼りの姉では厳しい相手と言える。

 シニフィエに言わせれば負けても仕方がない相手だった。 


 正直、シニフィエはこのゲームに対して執着の類は一切ない。 

 やっている理由も飽きっぽい姉が続いている理由に興味があっただけで、ここ最近は義兄の存在も大きかった。 だから、最大の理由である姉が居ない以上、モチベーションが落ちるかと思っていたのだ。


 ――だが、予想に反してシニフィエの足はこのゲームに向いた。


 自覚していない部分で思う所があったのだろうか?

 考えれば確かに碌に活躍できなかった悔しさがぼこりと泡のように浮かぶ。

 気が付けばランク戦に潜って相手を次々と叩きのめしていた。


 自分でも不思議なのだが、我ながらやる気になっている以上は真剣に考えようとシニフィエは思考をシフト。 今の自分に何が必要なのかを。

 強くなる為に分かり易く要るのはまずはパーツ。 


 最低限、プラスフレームとエネルギーウイングは必須と言っていい。

 この二つがあれば最低限、ランカーと戦えるスペックは手に入る。

 通常のブースターでは旋回性能に大きな差が出るので、それを補えれば戦闘能力の底上げに繋がるだろう。


 考えている内に次の相手と当たる。 フィールドは市街地。 

 敵機は――開始と同時に大きくジャンプしてこちらの位置を確認しに来たので装備構成が見えた。

 典型的な中距離装備のⅠ型。 このゲームで圧倒的に多い装備構成だ。


 突撃銃、短機関銃はばら撒ける分、少々の技量不足を補えるので採用する者は多い。

 この低ランク帯だと光学兵器を扱うプレイヤーは少ないので構成パターンは驚くほどに少なかった。

 Ⅰ型なら火力を盛った中距離戦仕様か、装甲を盛った中距離戦仕様。


 前者は手数で相手を叩き潰し、後者は耐えて相手の息切れを待つ戦い方。

 Ⅱ型ならブースターの形状を見れば何となく見えてくる。

 加速に優れている物なら速度で敵を振り回して射撃で仕留めに行くスタイル。


 義兄のように旋回からの偏差射撃を決められる技量を持っているプレイヤーはこのランク帯ではそうお目にかかれないので基本的に雑にばら撒いてくるだけという事もあり、そこまで怖くなかった。

 比較的、小型だったり速度が出ないタイプは航続距離が長いので空から時間をかけて狙って来るタイプだ。 空中戦を行う場合は相手の息切れを待つ耐える戦い方。


 飛行を捨てて防御に振るマルメルのようなタイプもいるにはいるがシニフィエの感触としては比較的ではあるが、少数派な印象を受けた。 

 市街地は遮蔽物が多いのでシニフィエとしても得意な地形だ。 


 何より、模擬戦やトレーニングでよく使うので一番見慣れているというのも理由の一つである。

 シニフィエは瞬時に戦い方を組み立て、相手が捕捉しやすい大通りに出ると待ってましたとばかりに敵機が銃撃しながらビルの陰から飛び出す。 それを見てすっと近くのビルを盾にして身を隠した。


 敵機はシニフィエの動きを弱気と判断したのか追撃にかかる。

 実際はその場から動かずに待つ。 敵機の位置はもう見たのでタイミングを取る事は簡単だ。


 ――そろそろかな。


 視線を地面に落とすと動く影が見えたのでそれに合わせて飛び出して伸ばした腕を大きく振るう。

 所謂、ラリアットだ。 首をしっかりと捉えた事で敵機の頭が千切れ飛ぶ。

 視界がゼロになった事でバランスを崩して転倒し、地面を擦りながら減速。


 そこを逃さずに跳躍し、真上から膝をその背に叩きこむ。 

 全体重を乗せた一撃は敵機のコックピット部分を圧し潰して大破させる。

 試合終了。 


 「うーん。 性能差があるのは仕方ないんですけど歯応えがなさ過ぎですねぇ……」


 呟くとリザルトが表示され、昇格を知らせるメッセージが表示される。

 Gランクに昇格。 IからHは簡単に上がるので、直ぐだった。

 HからGは負けなければ早い。 その為、あっさりと上がれたのだ。


 時刻表示を見るといい時間だったのでそろそろ切り上げますかとランク戦を中断した。



 敵機が胴体を撃ち抜かれて砕け散る。

 試合が終了し、リザルトが表示されるのをグロウモスは冷めた思考で見つめ、次の試合へ。

 機体を変えてからランク戦は絶好調だ。 ヨシナリが組んでくれた機体は驚くほどに馴染む。


 ――がそれ以外はそうもいかなかった。


 ユニオン内の模擬戦では全敗し、イベント戦ではあまりいい所を見せられなかった。

 特に『栄光』戦で瞬殺されたのは地味にショックだったので、少し無理してセンサー系を強化したのだ。 これであの時のような無様は晒さないと信じたい。


 今の機体は同格以下の相手なら瞬殺もできるレベルまで仕上がっている。

 事実としてEランク帯では初撃を躱せた相手は三割にも満たなく、連戦連勝。

 先日、Dランクに昇格し、相手の質も上がったのだが、どうにも歯応えがない。


 イベント戦等で当たる相手がBランク以上なので、Dは決して弱くはないが怖いとは思わなかった。 

 『星座盤』に入る前はEでもやって行ける自信がなかったのに気が付けばAも充分に狙えるんじゃないかと少し自惚れた考えすら浮かんでいる。 


 反省点の多い戦いが続いたが、そんな事よりもグロウモスには重要なタスクがあった。

 ヨシナリだ。 あの男は自分の事が好きな癖にいつになったらその関係を周囲に公言するのだろうか? 高価なプレゼントに思わせぶりな言葉。 


 自分に気がある事は確定的に明らかだ。 確率で言うなら1000%ぐらいはっきりしている。


 ――これはまさか私からのアクション待ち?


 暗にこう言いたいのだろうか? こっちは好意を見せてるんだからお前も見せろと。

 恋は駆け引きだと漫画で知り、それを根拠なく信じていたので迷っていた。

 下手に好き好きアピールすると自分がヨシナリに惚れていると勘違いされて舐められる。


 ここは強気に出るのが正しい判断のはず!


 ――と思っていたのだが、ここ最近少し不安になって来た。

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