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第504話 各々の課題/ランク戦②

 ――結局、三回戦落ち。


 くじ運もあったが、中々に壁は厚い。 

 そんな事を考えながらマルメルはビルの隙間を加速して通り抜ける。

 本音を言えば割といい所まで行けるんじゃないか? 


 そんな期待感もあったので負けたのは割とショックだった。

 ヨシナリから貰った機体にベリアル、ユウヤにタヂカラオとAランクを三名抱えての参戦だ。

 この戦力でそう簡単に負けるとは思えなかった。 ヨシナリはこれに関してはどう思っているのだろうか? 


 前回は目に見えて動揺していた事もあって少し心配していたが、今回は内容的にそこまで落ち込むほどではなかったのだろうか? 

 相手は全機ジェネシスフレームというふざけたチームだった事もあって負けて当然で胸を借りるつもりで挑んだ? そこまで考えてマルメルは小さく笑う。


 あり得ない。 あの筋金入りの負けず嫌いがそんな日和った事を考える訳がないからだ。


 ――どちらかと言うとダメージがデカいのは他かねぇ。


 特にベリアル、ユウヤ、ふわわの三人は見ていられないレベルだった。

 自信があっただけにダメージも相応だったのかもしれない。 

 ヨシナリが相手であったなら肩の一つも組んで気にすんなとでも言ったかもしれないが、あの三人相手だとちょっと馴れ馴れしすぎやしないかとブレーキがかかってしまったのだ。


 ――何か気の利いた事でも言うべきだったか……。


 ハンドレールキャノンを展開しながら少し後悔にも似た思考が浮かぶ。

 メンタルのダメージは早めにケアしといた方があまり引き摺らないで済む。

 そんな考えもあって少し気にはなっていた。 敵機体が短機関銃を連射しながらビルの陰に入る。


 「ま、ふわわさんにランカー様だ。 俺ごときが心配するのはちょいと烏滸がましいってものか」


 小さく呟いて発射。 発射された弾体はビルを貫通して敵機を打ち抜いた。


 「よっし。 調子が出て来たな」


 試合終了しリザルトが表示されたが、碌に見ないで次のマッチングを組む。

 相手が決まったので移動となったのだが――


 「なんだこりゃ?」


 思わず呟く。 何故なら相手のステータスの隣に赤いアイコンが浮かんでおり、配信中と出ていた。

 ややあってあぁと理解が広がる。 確か一部のコンテンツが配信可能になったとかで一部のV――アバターを使って配信しているストリーマーが生配信を始めたという話は聞いていた。


 ヨシナリ曰く、プレイヤーを増やす目的だろうなとの事。 

 これまでは外部への配信や動画投稿はかなり制限されていたので外からこのゲームの情報を仕入れるのが難しかった事もあって足踏みしていた者も多いと聞く。


 配信させる事で新規の流入を促進しようという運営の意図ではないかと言っていた。

 マルメルとしては理解のできる話ではあったが、真っ先に出る感想としては「何で今更?」だ。

 こういうのはリリースして直ぐにやるべき事ではないのだろうか?


 大抵のコンテンツは初動が大事という話を聞いた事があったので、一年以上経ったタイミングで解禁する意味が分からない。 

 ヨシナリも困惑していたのでマルメルにもさっぱり分からなかった。


 ただ、次の戦闘は不特定多数に見られるのかと思うと少し嫌だなと思ってしまう。

 さっさと仕留めて終わらせる。 あまりやった事はないが速攻をかける戦い方を試してみよう。

 試合開始。 敵機は空中を進んで真っすぐに向かって来るので即座にハンドレールキャノンを発射。


 当たらなくても揺さぶれるだろ――


 「あ、当たった」


 三手ぐらい先まで考えていたのだが、予想に反して弾体は敵機に命中してその胴体を綺麗に撃ち抜いた。 試合終了。 

 何だったんだと思ったが、まぁいいやとリザルトを確認するとEへ昇格していた。


 「やっとEか」


 これまでイベント対策に力を入れていた所為で随分と遅くなってしまった。

 正直な話、今の機体に満足している事もあってランク昇格に対する執着心があまりなかった事もこの状況の一因と言える。 それ以上に――


 ――練習、楽しいからなぁ……。


 部活みたいに皆で集まってあれこれ言い合うのはマルメルとしては楽しい時間だった。

 自分で思った以上にマルメルは今の『星座盤』の雰囲気を気に入っていたのだ。

 ただ、そろそろそうも言っていられなくなってきた事は自覚していた。


 相手が上位のランカーになりつつあるこの状況では、今のままで戦っていくのは厳しい。

 技量面もそうだが、機体の更なる強化が必須と言える。 

 今の機体に不満はないが、もっと強化――可能であるならジェネシスフレームを手に入れたい。


 その為にはランクを上げる事は必須だ。 

 ヨシナリも似た結論に至ったのか、ここ最近はランク戦に籠っている。

 他のメンバーも思う所があるのかランク戦に集中し始めた。


 以前からCからBぐらいまでは上げておきたいといった話はあったので、いい機会だろう。

 ヨシナリはそろそろCに上がりそうらしいので追いつけるように頑張りますか。


 「よし。 もうちょっと行くか!」


 マルメルは小さく気合を入れると次の戦いへと身を投じた。



 下から掬い上げるような拳の一撃が敵機のコックピット部分を打ち抜く。

 引き抜くと同時に敵機が崩れ落ち、試合終了。 


 ――うーん。 弱いですねぇ……。


 シニフィエはそう呟いて次の試合をセッティング。

 少し前にランクがHに上がったのだが、相手が弱すぎて話にならない。

 歯応えが無さすぎると作業になってしまう事は問題だが、さっさと上に行かないと強敵と遭遇しないので退屈でもやるしかないのだ。 


 態度こそ普段通りだったが、ここ最近はあまりいい所がなくて少しストレスが溜まっていた。

 特に前回イベントの最終戦では相打ちとはいえ、ホーコートすら一機撃墜したのだ。

 対して自分の撃墜数はゼロ。 これは非常によろしくない。


 シニフィエは必要以上に重く見られるのは困ると思うが軽視されるのも好きではない。

 未来の義兄(予定)はそこまで気にしないような気もするが、可能な限りご機嫌は取っておきたかった。 


 ――それに――


 姉の事もある。 ここ数日、姉はこのゲームにログインしていない。

 リアルが忙しい? 違う、道場で木刀を振っているのだ。

 どうも剣で負けたのが相当にショックだったようで、対応力を上げる為に父と修練に励んでいるのだ。 


 映像で見ていたがアレは負けても仕方がないと思えるレベルの相手だった。

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