『烏合衆』のメンバーは明らかに一対一にこだわっており、それを邪魔しないような立ち回りを意識していた。
――にもかかわらず、この奇襲したプレイヤー『ステファニー』はそれを行った。
感情的には思う所がない訳ではないが、卑怯とは思わない。
これはチーム戦である以上、手の空いている者が力を貸すのは当然と言える。
加えて完全にステルス特化機体なのでベリアルの反応が遅れるのは無理もない話だった。
この時点で『星座盤』の生き残りがユウヤのみとなるので負けはほぼ確定したと言っていいが、ここで予想外の事が起こる。
ベリアルとの勝負を邪魔された平八郎が怒り狂ってステファニーを仕留めたのだ。
間合いであの回転の早い刺突から逃れるのはまず不可能ではあるが、ステファニーというプレイヤーは器用に躱してはいたがいつまでも躱していられないと判断したのかステルスで隠れようとしていた。
姿が消えるが即座に雪を撒いてステルスを剥がし、相手が一息吐こうとしたタイミングで撃破。
凄まじい槍捌きだった。 何よりとっさの判断で雪を撒いて居場所を割るのは凄まじい。
「おいおい、これいいのかよ……」
「恐らくだけどチームのルールに抵触したんだろうね。 平八郎さんとはそんなに絡んだ事はないけどこういった事にはうるさいタイプっていうのは聞いてるし、ベリアル君とは尋常な勝負を望んでいたようにも見えた。 それを邪魔されたのなら怒るのも無理ないと思うよ」
マルメルはやや引き気味にタヂカラオは複雑そうにそう口にする。
しかも平八郎はステファニーを始末しただけでは収まらなかったのかそのまま槍を自らに突き立てて自害。 そのまま脱落となった。
――結果だけを見るとベリアルのお陰で二機を仕留めた形となった。
これで『烏合衆』は二機。 勝利が現実的な戦力差となった。
だが、敵のリーダーはヨシナリが思っていた以上に冷静だったようだ。
アドルファス。 『烏合衆』のリーダーを務めるだけあって非常にバランスの取れたプレイヤーだ。
遠近と距離を選ばない戦い方に加え、ドローンを遠隔操作しながらのマルチタスクをこなす脳力。
機体もそれを最大限に活かす構成で、取り方によっては器用貧乏にも見えるが一定の技量を越えれば万能と形容するのが相応しい完成度を誇る。
戦い方も堅実さを意識したもので、ドローンで包囲する事で相手の気を散らしながら本体をメインに攻める組み立ては単純故に技量が露骨に出るので単純に強いといった印象を与える。
間違いなく強敵だったが、ユウヤも負けてはいない。
まともに戦り合えばどちらが勝つかが読めない勝負になるはずだった。
ユウヤは包囲を崩しつつ射線が重なるようにして誤射を警戒させる立ち回りは慣れている事がよく分かる。
実際、彼はその包囲を食い破りアドルファスの胴体に大剣を叩きこんだ。
ヨシナリとしては結果さえ知らなければこれは勝っただろうと確信できる展開だった。
――だが、この戦いが個人戦ではないと一番理解していたのはアドルファスだったようだ。
貫かれた瞬間、この時だけはユウヤも油断するそこを突いてドローンを用いて自分ごとユウヤを撃ち抜く。 ある意味、博打とも取れる捨て身の手段ではあるが、敵の残りがユウヤ一人で味方が残っているのなら話は違う。
決まれば勝ちが確定するので踏み切ったのだろう。 そして彼は賭けに勝った。
二人の機体が大破して決着。 『星座盤』の敗北となった。
「――と、まぁ、負けてしまいましたが、前々回の優勝チーム相手にそこそこ健闘できたと思います」
僅かな時間、誰も口を開かなかったが、ヨシナリがそう言って苦笑。
マルメルは「まぁ、そうだな」と同調し、ふわわ、ベリアル、ユウヤの三人は特にメンタルのダメージが深刻なのか一言も話さない。
――これは重症だな。
「ひ、一先ずは今日の所は解散と行きましょう。 お疲れさまでした」
「……うん。 ごめんな? 今日は落ちるわ……」
ふわわはそのままログアウト。 ベリアルは言葉少なめに「すまん」と口にして同様に落ちる。
ユウヤは何かを言いかけていたが、無言でログアウトした。
「いや、他は反応が読めなかったけどふわわさんがあそこまでダメージ受けるとは思わなかったぜ」
「それだけ得意の距離で負けたのがショックだったんだろ。 内容的にほぼ完封だったからな」
「姉に関しては放置でいいでしょう。 二、三日もあれば元に戻ると思うので気にしないでください」
一応、気を付けてはおきますとシニフィエもログアウトした。
「わ、私はちょっと練習してから落ちる」
グロウモスはそのままトレーニングルームへ。
「俺も疲れたから落ちるわ。 次、頑張ろうぜ!」
マルメルもログアウト。 ホーコートも「おつかれです」と一言呟いて同様に居なくなった。
残ったのはヨシナリとタヂカラオのみ。
「……どうでした?」
「いや、いい経験をさせて貰ったよ。 ――あまり役に立てなかった事は無念だがね」
「そんな事はありません。 タヂカラオさんが居てくれて本当に良かったと思ってます。 何だったらこのままウチに残ってくれてもいいんですよ?」
本音だった。
中~遠距離での戦闘をバランスよくこなすタヂカラオが居るだけで中衛の安定感が増す。
特に火力支援だけでなく、直接戦闘もこなせる上、戦場を視る事にも長けているのでそういった意味でも貴重な人材だ。 ジェネシスフレームを取り戻したのなら、あの特殊装備により更にその価値は高まるだろう。
――それに組んでてやり易いんだよなぁ……。
味方を意識して合わせてくれる協調性の高さも欲しい理由の一つだった。
タヂカラオは小さく笑って見せる。
「正直、自分でも驚くほどに居心地が良かったよ。 残ってもいいって考えもなくはないが、愛機を向こうに預けているし、どっち付かずは良くないからね?」
「……ですね。 名残惜しいですが、また一緒に戦りましょう」
「あぁ、敵か味方かは分からないけどね? では、僕はこれで失礼するよ。 また会おうヨシナリ君!」
タヂカラオは小さく手を上げるとユニオンを脱退し、そのまま『思金神』へと戻っていった。
「――俺も落ちるか」
ヨシナリは誰もいなくなったユニオンホームをぐるりと見回した後、ログアウトした。
ログアウト。 ヨシナリから嘉成へ。
ごろりとベッドで横になる。 やれる事はやったと思いたい。
少なくとも持てる全てを出しつくして負けたと嘉成は考えていた。
負けた事よりも遭遇した敵のランカーについて考えていた。
一人残らず強敵揃い。 三回戦まで一切気の抜けない戦いだった。
ツガルの独特な機動、ヤガミの跳ねるような戦い方、そしてカカラの圧倒的な火力。
眼を閉じるとその全てが色鮮やかに蘇える。
――もっと強くなりてぇ……。
そんな事を考えながら嘉成はそのまま眠りについた。