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第499話 ユニオン対抗戦Ⅲ:本戦三回戦㉓

 行き場を失ったエネルギーが爆発を起こし、ケイロンは大きく体勢を崩し、ヨシナリは吹き飛ぶ。

 距離が開いた事でとどめを刺そうとマウントされている銃を抜こうとしたが空振り。


 「いや、ヨシナリ君、きみって奴は本当に手癖が悪いね」


 一度、同じ手でやられたタヂカラオは苦笑する。


 「手が空いてたのでパクリました」


 爆発の直前にケイロンの銃を掴んで奪ったのだ。 

 ヨシナリはそのまま構えてフルオート射撃。 反動に機体を大きく揺らしながらも弾丸は次々と命中する。 ケイロンは被弾しながらもヨシナリを仕留めようと前に出ようとしたが、耐え切れずに崩れ落ちた。


 これに関しては正直、運もあった。 

 ジェネシスフレームの専用装備は他が使えない場合も多く、撃てなかった可能性もかなり高かったのだ。

 もう、動いているのが不思議な状態のヨシナリはふらふらと立ち上がり、アシンメトリーを構えて射撃。


 撃った弾がどうなったか確認する前に限界を迎えて崩れ落ちた。


 「いや、ヨシナリ。 お前、マジですげぇな……」

 「流石はお義兄さんですね!」

 「カカラさんにモタシラ、ケイロン、アリスと四機の撃破に絡んでいるのは戦績としては凄まじいよ」


 全てを出しつくし、崩れ落ちたホロスコープを見てヨシナリは考える。

 何が足りなかったのだろうかと。 戦果としては我ながら頑張ったと思いたいが、結果が伴っていない以上、足りなかったと言わざるを得ない。


 考えが纏まらないので無言で映像を切り替える。 アリスとの交戦に入ったタヂカラオへ。 

 中距離での砲戦仕様のアリスではミサイルポッドを排除し、身軽になったタヂカラオに当てる事は難しい。 二度の攻防でレーザーで焼き払う事に見切りをつけたアリスは銃身を排除して発射形態を変えた。


 「こんな事もできるのか」

 「いや、本当に大変だったよ。 銃身をパージして手数を増やすのは知っていたけど見た目以上に精度が高くて必死だったよ」


 今回は使用しなかったが、替えの銃身を転移で呼び出す事も可能らしく、単純な砲戦機体で収まらないのがアリスというプレイヤーの怖い所だった。


 スペック差はあるが軽い分、タヂカラオの方がスピードでは勝るので膠着に持って行きつつ削るつもりだったのだが、ヨシナリの最後の一撃を足に受けて体勢を大きく崩す。

 そこを見逃さずに畳みかけに行く。 仕留めに行ったタヂカラオの動き――特に最後のフェイントは秀逸だった。


 片方のエネルギーウイングを噴かして体勢を傾けて相手の銃口が追ってきたタイミングで反対側を噴かして元に戻す。 結果、無意味に銃口を彷徨わせる事になる。


 「これ凄いですね。 片方を噴かして、態勢を傾けて相手が追ってきたタイミングで戻す。 かなりシビアじゃないですか?」

 「エネルギーウイングの推進力があれば可能ではあったんだけど割と集中しないと上手く行かないからあんまり気軽には使えないんだけどね」


 その後の動きも素晴らしかった。 フェイントに引っかかりはしたが、反応が早く即座に修正。

 狙いを付けるが、タヂカラオは即座に上下反転。 模擬戦でシニフィエが使っていた動きだ。

 恐らくは後で見返してから取り入れたのだろう。 そのまま銃撃、足を失ったが胴体部分は無傷。


 これで二手。 流石のAランクプレイヤーでもここまで大きな隙を晒すとリカバリは難しかった。

 タヂカラオが抜いたエネルギーブレードによる刺突を躱す事は難しく、そのまま貫かれて沈んだ。


 「これで次に行けたら格好良かったんだけどね……」


 タヂカラオが自嘲気味にそう呟くと映像の中のタヂカラオが狙撃を受けてコックピットを打ち抜かれて沈む。 


 「完全に狙われてましたね」

 「いや、我ながら締まらない結果だよ」


 残りはAランク二人の戦いとなる。 

 ヨシナリはちらりと振り返るとベリアルもユウヤも無言。

 前者は明らかに落ち込んでおり、後者は不機嫌といったオーラが出ていた。


 ――触れ辛いなぁ……。


 そんな事を考えながら映像を切り替える。

 映し出されたのは装備した長槍が特徴的な機体で凄まじい回転の突きを繰り出し、ベリアルはそれを掻い潜り短距離転移を試みるが、消えたと同時に突きから薙ぎに。


 ――上手い。


 見えている間は回転の早い突きの連打。  

 一瞬でも視界から消えたと判断したら広範囲の薙ぎに切り替える。

 転移は移動直後が最も無防備となるので、これをやられるとベリアルとしては迂闊に転移を混ぜたラッシュをかけられない。 その為、転移なしで戦わなければならなかった。


 ――相性は決していいとは言えない相手だった。


 明らかにベリアルの事を研究し尽くしており、得意の間合いで全力を出せないのは厳しい相手だ。

 こういった相手は遠距離から削るのがいいのだがベリアルの性格上、それは難しい。

 彼はああ見えて正面から挑まれると拒まないので、こうなると距離を取るような真似はしないだろう。


 実際、戦闘は凄まじいレベルの攻防により、膠着している。

 平八郎の連撃はもう槍のそれからは完全に逸脱しており、凄まじい速さでそれに反応しているベリアルもまた凄まじい。 完全に見切っている訳ではないのだろう、動きに多少の荒さはある。


 七割は反応、三割は直感に近い何かで躱していようだ。 

 攻撃が繰り出される前に回避モーションに入っている。

 明らかに以前より動きのクオリティが上がっているが、相手もまた並ではない。


 他のメンバーと比較しても近接戦闘に関しては頭一つ抜けている

 モタシラも大概だったが、平八郎の動きは彼とは方向性が違った印象を受けた。

 静をモタシラとするなら平八郎は動。 受動的か能動的かの差はあるが優れている事には変わりはない。


 ――それに――


 二人とも非常に楽しそうだった。 

 ベリアルの強みは逆境でこそ増す集中力だとヨシナリは思っていた。

 戦況は膠着しているが、徐々にだが攻撃への反応が上がっているので、このまま行けば追いつけるどころか追い抜けるのではないか、そう思っていたのだが――


 「……すまん……」


 ベリアルが消えそうな声でそう呟く。 ヨシナリは気にするなと小さく肩を叩いた。

 何故なら横槍が入ったからだ。 

 意識が目の前の相手に集中していたベリアルにそれを躱す術はなかった。

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