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第496話 ユニオン対抗戦Ⅲ:本戦三回戦⑳

 加えて手数が多い。 これは考えられたものではなく焦りによるものも多分に含まれていた。


 「どういう事だ?」


 マルメルが首を傾げる。


 「グリゼルダの時もそうだったんだけどこのタイプの転移って空間を繋ぐ為のゲートを作る関係で開いている間、多分動けないんだ」


 恐らくだがあの状態で動くと手が落ちる。 

 グリゼルダの機体が防御に大きく偏っていたのはその弱点をカバーする意味合いもあったのだろう。


 「じゃあ転移で殴っている間は動けないって事か」

 「あぁ、だから彼女は手数を増やして反撃を封じなければならないんだ」


 手探りというのもあるが、ヨシナリから見ると高機動タイプの機体で足が止まる瞬間があるのは割と致命的なのではないかと思ってしまう。

 一対一ならかなり使えると思うが横槍が入る可能性のある戦闘では少し難しいのではないか?


 そんな事を考えてしまう。 事実としてこの先を見ればその辺は明らかだ。

 タヂカラオもバドの弱点には気づき始めていたが、相手の攻撃の回転が速すぎて中々反撃に出られない。 当人も自身の戦い方の問題を理解しているのか、とにかくタヂカラオに反撃の隙を与えない事を念頭に置いた立ち回りだ。


 ――だから、一つ大きな見落としをしてしまった。


 これがユニオン対抗戦だという事を。 タヂカラオは逃げ回りながらある地点に誘導する。

 劣勢である事を活かし、上手に敵を誘い込んでいた。 バドが勝負を決めに行った瞬間だ。

 彼女の機体が撃ち抜かれたのは。 


 「お見事です」

 「できれば独力で何とかしたかった所ではあったけどね」


 やった事は単純でグロウモスの射線へと誘導したのだ。

 射線が通る位置、バドが地上を背にしている状態、そして最後に転移を使う瞬間。

 その三つが重なるのをずっと狙っていたのだ。 発射の時間を稼ぐ為にアルフレッドがアリスの気を着ている点も良い連携だった。


 「今回で仲間を意識して動く事の重要性がよく分かったよ。 ありがとう、グロウモス君」

 「……ど、どういたしまして」


 相手の装備更新に救われた面もあったが、個人技のみで勝ち上がってきたが故の隙とも言える。

 ヨシナリは時間を戻してグロウモスへとフォーカス。

 この視界の悪い中、狙撃手にとってセンサー系は非常に重要だ。


 その為、彼女には観測手としてアルフレッドが同行する形となった。

 元々、グロウモスの役割は遠距離からの狙撃だ。 その為、戦場全体を見渡せる事は最低条件と言っていい。


 ――が、それを阻む敵がいた。


 『烏合衆』の基本は一対一だ。 その為、必ず全員に誰かが当たる事になる。

 グロウモスが当たった相手はアリスという大口径のレーザー砲による広範囲攻撃を得意とする機体だ。 見えている事もあって発射の兆候が掴める事と距離がある事という二つの好条件によってグロウモスとアルフレッドは四つ足形態を駆使して危なげなく躱す事ができていた。


 だが、躱す事にリソースを割かれて攻撃が出来なくなっている事から完全に封じられる形となった。

 攻撃の間隙を突く形でスコーピオン・アンタレスによる狙撃を行ったのだが、チャージ時間が捻出できない事と雪と距離による減衰もあってアリスのエネルギーフィールドを貫通できないでいる。


 相手も相手でシックスセンスかどうかは不明だが、明らかにグロウモスの事が見えていたので条件に関しては同等。 ただ、距離がある所為でどちらも決め手に欠け、膠着が続く事となった。


 「やっぱり本気で防御を固めたジェネシスフレームは簡単に落ちないな」


 ヨシナリはそう呟く。


 「う、うん。 レールガンはチャージ時間が取れないし、フィールドで防げる攻撃は無視して実体弾とかの防げない攻撃は見極めて対処してる」


 センサー系の性能に依る所も大きいが、攻撃への見極めが上手い。 

 この辺りは流石はAランクといった所だろうか。 


 「この時点では何を考えてたんですか?」

 「……今の私じゃ撃破は無理だから、狙うふりしてタヂカラオかヨシナリの相手を仕留める方向で考えてた」

 「上を選んだ理由は?」

 「マルメルの相手でもよかったんだけど、明らかに警戒されてたから多分当てられない。 他は位置的に難しかった」

 「ちなみに僕の方を選んだのはやっぱりカカラさんは難しかったからかな?」


 タヂカラオの質問にグロウモスは小さく頷く。


 「……そ、そう。 多分、当てるだけなら行けたと思うけどあの重装甲だとレールガンじゃないと貫けない。 チャージの早いエネルギー弾か実体弾で仕留められるのはあの軽量機だけだったから……」


 それに隙を作らないと致命傷を避けてくる怖さがあったとグロウモスは付け加える。

 確かにその通りだった。 カカラの立ち回りは終始、安定しており奇襲に対する警戒を怠っている様子は見られなかった。


 タヂカラオがヨシナリの援護に向かう所を見てグロウモスの動きが変わった。

 機体にフォーカスすると明らかに上を意識している。

 タヂカラオが本格的に介入し、カカラが大きな隙を晒した所でレールガンによる一撃。


 綺麗に推進装置を撃ち抜き、決定打となった。

 だが、それは致命的な隙を晒す結果となり、彼女はレーザー砲の直撃を受けて脱落。

 撃たれた原因は明らかでアルフレッドが被弾して戦闘不能されたからだ。


 それによりアリスの動きを止める者が居なくなり、そのまま撃ち抜かれた。


 「いや、本当に助かりました。 アレが無かったらもっと粘られたと思います」

 「そうだね。 カカラさんはああなってからが本当にしぶといからね。 とどめをさせたのは大きいよ」

 「……うん。 でも、やられちゃってごめんね……」


 ヨシナリは気にしなくていいと小さく首を振る。 

 事実だった。 膠着に持って行かれた時点で各個撃破される可能性は高かった。

 そうなるぐらいなら捨て身で削って状況の打開を図る。 


 グロウモスの判断は正しいとヨシナリは思っていた。

 少なくともアレがなければカカラは落とせなかったからだ。

 次はヨシナリ自身をフォーカス。 そのカカラとの戦闘となる。


 開始早々にヨシナリの所へ突っ込んできた巨体は一度見たら忘れられない迫力があった。

 『サガルマータ』カカラの機体で全長30メートルと旅客機並のサイズの戦闘機。

 武装は機体の各所に搭載されたミサイル発射管、ばら撒くタイプの小型と背面に搭載されている垂直発射の大型ミサイル。 内蔵されているガトリング砲。


 純粋な物理火力としてはこれまで見た中でもトップクラスだ。

 加えて高出力のエネルギーフィールドと重装甲による堅牢な防御。

 明らかに殴り合いで正面から打ち負かす事を目的とした設計だ。


 「いや、本当にきつい相手でしたよ……」


 思い返して真っ先に出る感想がそれだった。

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