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第494話 ユニオン対抗戦Ⅲ:本戦三回戦⑱

 狙いは悪くなかった。 入れば充分に仕留める事が可能な策。

 マルメルの挙動にミスはなかったはずだ。 少なくともヨシナリはそう思っていた。 

 問題は相手がAランクプレイヤーで、マルメルよりも遥かに戦闘経験が豊富だった事にある。


 ケイロンはマルメルの狙いを看破した上で引っかかった振りをしたのだ。

 踏み抜くと見せかけて跳躍。 あんな見た目ではあるが、しっかりと空中戦も行える機体らしく、最後の一歩をフォーカスすると氷ではなく何もない場所を踏んで跳躍していた。


 恐らくは前の戦闘で遭遇したヤガミが使っていた物と同じカテゴリーの武装だろう。

 力場のようなものを作ってそれを踏み台に跳躍。 マルメルの真上から強襲したのだ。

 真上まで来てしまえば後はその重量が武器になる。 反応の遅れたマルメルにそれを躱す術はなく、文字通り踏みつぶされてしまった。


 「あー、クソ。 行けたと思ったんだがなぁ……」

 「いや、狙い自体は良かったと思う。 闇雲に撃っているように見せて下への着弾を隠しているのも上手かった。 今回は相手が一枚上手だったって事だな」


 口には出さないが、最も大きな要因は単純な技量と機体の性能差だとヨシナリは考えていた。

 マルメルに比べてケイロンの動きにはかなり余裕があった。

 その為、かなり広い視野で戦場を見れていたのだろう。 


 もう少し追い込む事が出来たのであれば見落としていた可能性は充分にあった。

 これに関しては言ってもどうしようもない事だ。 

 だが、Aランク相手にもマルメルは充分に通用していた事は大きな収穫だった。 


 「後で機体の装備と立ち回りをもう少し見直そう。 よし、次は――」


 ヨシナリはウインドウの映像を彷徨わせるように移動させ、目についた戦闘にフォーカス。

 大きく映し出されたのはシニフィエだ。 相手はかなりの軽量機で両手に二挺の短機関銃と背には狙撃銃がマウントされているだけといったシンプルな構成だ。


 戦い方も単純だが、それ故に技量の高さがよく分かる。

 遮蔽物が少ない事と機動性で勝っている事を利用して距離を維持しつつひたすらに銃撃。

 シニフィエは回避で精一杯だ。 完全にスペック差で抑えつけられている。 


 「本当なら上に逃げたかったんですけど、下手にお義兄さんと離れると見えなくなるし、Ⅱ型のブースターじゃあんまりスピードが出ないので結局相手の土俵で戦う事になってしまいました」


 シニフィエは敗因を理解しているようで、この様子だとヨシナリが何かを言う必要はないかもしれない。 敵機はこのまま押し切って仕留めるつもりのようで惜しみなく銃弾をばら撒く。

 近寄ると離れ、離れると狙撃が飛んでくる。 間合いの維持が上手い。


 立ち回りはマルメルに近いが、こちらの方が完成度としては上だった。

 シニフィエからは徐々に焦りが生まれ、リロードのタイミングで仕掛けにいった時にそれは起こった。 間合いを詰めようと動きが直線になった瞬間に撃ち抜かれたのだ。


 銃声から明らかに短機関銃のそれではなく口径の大きな単発。 

 正体は何だとフォーカスすると敵機の短機関銃には銃口が二つあった。

 どうやら撃ち分けができるタイプで、確実に当てられるタイミングまで温存していたという訳だ。


 そこに引っかかってそのまま撃ち抜かれた。 


 「敗因は割と分かり易いですねー。 間合いの維持と単純なスペック差。 アレに勝ちたいなら最低でもエネルギーウイングは必須でしょうね」

 「暗に何とかしろって言ってる?」 

 「可愛い義妹の頼み。 聞いていただけません?」


 ヨシナリは少し悩んだ後、脳内で金あったかな?と思案。


 「……考えておくよ。 あんまり期待しないで待っていてくれ」

 「よろしくにゃん♪」


 シナを作るシニフィエから努めて目を逸らし、次の戦場へフォーカス。

 次はふわわだ。 彼女の相手はモタシラという剣に特化した機体。

 本音を言えばふわわが剣で負ける訳がないと思っていたので、この結果には驚かされた。


 戦闘の詳細を確認していなかった事もあってモタシラの機体を注視。 

 武器は刀一本という潔さ。 代わりに軽量化とスラスターの増量によって機動性と恐らくは姿勢制御に拘ったビルド。 どんな体勢からでも斬撃を繰り出そうとする点からも剣に対する自信が窺える。


 構えは刃を真っすぐに向け、切っ先を上下に揺らしている事以外はこれと言って気になる点はなかった。 ただ、ふわわにとってはそうでもなかったようで、明らかに攻め難そうにしている。


 「ふわわさん。 見てて分からないんですけどアレどうなってるんですか?」

 「……うん。 鶺鴒せきれいの構え――鶺鴒の尾とか呼ばれている構えやねんけど……」


 星眼せいがん――相手の顔の中心に切っ先を向けた状態で上下に揺らして先端を意識させ、その隙に摺り足で間合いを制したり相手の攻めを誘ったりと応用の利くスタイルのようだ。


 「何も考えずに先っちょをゆらゆらさせるだけやったらそんなに怖くないねんけどあの人はちょっと違ったわぁ」


 俯瞰で見ている所為で分かり辛いが、切っ先を揺らす事で視線を誘導してその隙に間合いを調節しているようだ。 相手の意識を盗むのが上手いといった印象を受ける。


 ――こればっかりは直接見ないと分からないなぁ。


 正直、見ても良く分からなかった。 ただ、その後の凄まじさは分かる。

 ふわわの斬撃を切っ先で巻き込んでいなし、刺突に至ってはそのまま絡めとって武器自体を弾き飛ばしていた。 


 「いや、えぇ? これマジかぁ……」


 マルメルが信じられないと言わんばかりに声を漏らす。 

 ヨシナリも全く同じ気持ちだった。 その辺の素人がへっぴり腰で振った斬撃ではなく、ふわわが殺すつもりで仕掛けた斬撃を簡単にいなしたのだ。 


 何故、あんな真似ができるのかまるで理解できない。 いや、何が起こったのかは理解している。

 見た通り斬撃を切っ先で巻き込む事でいなした。 先端を妙に揺らすのはこの動きに繋げる為か。

 この防御の利点は流す方向を自分で制御できるので好きなように体勢を崩せる事にある。


 巻き取ったと同時に左右に流せば太刀に引っ張られて態勢そのものが崩れるが、自分の切っ先自体は相手に向いたままなのでそのまま突きを喰らわせれば終わるだろう。

 使い分けも上手い。 太刀等の長い獲物であった場合は巻き取っていなし、小太刀のような短い武器であるなら態勢を崩すのが難しいのでそのまま絡めとって手から抜く。


 こと、近接戦に於いてこれ以上ないと言えるほどの合理を突き詰めた剣と言える

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