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第493話 ユニオン対抗戦Ⅲ:本戦三回戦⑰

 手応えはあった。 確実に致命傷だが何かがおかしい。

 アドルファスは確かに強敵でこの状況は狙った結果ではあったが、違和感があった。

 まるで誘い込まれたような――


 『いやぁ、お見事と言いたい所なんだけど、流石に負けてやる訳には行かないんで勝ち抜けは諦めてくれ』


 アドルファスがそう呟くようにそう言った後、彼の機体を貫いて無数のレーザーが飛び出す。

 これは想定しなかったユウヤはまともに喰らう。 そこでアドルファスの狙いを悟る。

 どうやら自分を囮にしてドローンで自機諸共ユウヤを貫いたのだ。


 アケディアを切ったと同時に撃ち込んで来た事を考えれば狙っていたのは明らかだった。

 『星座盤』はユウヤしか残っていないが『烏合衆』はもう一人残っている。 

 つまりここで相打ちに持ち込む事で決着を着けたのだ。 ランク戦の延長と捉えていたユウヤには出てこない発想だった。


 「――クソ――」


 ユウヤが悔し気に毒づくが最後まで形にならずに爆発。 試合終了となった。



 これは言い訳のしようがなかった。 完敗と言っていい。

 『星座盤』ホーム。 ユウヤが戻って来たので労いの言葉をかけた直後だ。

 ヨシナリの胸中には悔しさがあるが、今回に関してはベストを尽くした。


 だから、努めて冷静に敗北を受け入れ次に繋げよう。

 内心は悔しさで煮えくり返っているが表面上は取り繕えていた。


 「……まずは皆さんお疲れさまでした。 結果は残念でしたが、やれる事はやったと思っています」


 ぐるりと見回す。 全員の反応を見る為だ。

 マルメル、シニフィエは普段通り、グロウモスは悔しいというよりは何かを考えている様子だ。

 タヂカラオは少しだけ悔しそうにしている。


 ホーコートはややぼんやりとしているのが少し気になったが、問題は残りの三人だ。

 ユウヤは壁に八つ当たりしており、ベリアルは顔を覆って座り込んでいた。

 ふわわに至っては一言も喋らない。 珍しい反応だったが、やる事は変わらない。


 「はい、取り敢えず感想戦を始めようかと思いますが、大丈夫ですか?」


 誰も異論を唱えないので壁を殴ったり蹴ったりしているユウヤに戻って来るように促してリプレイ映像を再生。 

 雰囲気は最悪だったので、冷却期間を置いた方が良かったか?と少し思ったが、始めてしまったものは仕方ない。 我ながら冷静ではないと思いながら映像を注視する。


 『星座盤』開戦当初固まって動き、ユウヤ、ベリアルがやや前に出る。

 元々『烏合衆』は個人技を活かした集まりで連携をほぼ意識していないのははっきりしていた。

 その為、連携を使って優位に事を進めようと考えていたのだが、実を言うと割と早い段階で上手く行かないというのは察していた。


 個人技の集まりという事は乱戦ではなく個人戦に持ち込むであろう事は分かり切っていたからだ。

 案の定、敵側は分断にかかった。 


 カカラが突っ込んで空中をかき回し、アリスの砲撃で地上の面子が散らされる。 

 そこを狙って一人一機の決まりでもあるのか、各々相手を決めて襲い掛かっていた。

 まずは誰からフォーカスするかと悩んだが――


 「俺からで頼むわ」


 察したのかマルメルが手を上げる。 ヨシナリは小さく頷いてマルメルの戦闘にフォーカス。

 相手はケンタウロスのような機体が特徴的な『ケイロン』というプレイヤー。

 メインの武装は巨大なハルバードと背にマウントされた三挺の長物。


 重装甲にもかかわらず高い走破性と火力を両立させたバランスの取れたいい機体だ。

 それに対しマルメルは機体を左右に振って相手に照準させないようにしつつ銃撃。

 エネルギーフィールドと重装甲の複合防御により、碌に通っていない。


 マルメルはヨシナリから離れすぎるとセンサーシステムの感度が大きく低下する事もあって湖の外周を移動し、ケイロンはそれを追う。 

 点では当て辛いと判断したのか巨大な散弾砲を片手で構えて発射。 


 面で捉えてくるので完全に躱すのは難しく、マルメルは瞬間的に加速する事で有効射程から出る事でダメージを減らす。 上手い、最小のダメージで凌いでる。


 「つーか、片手でよくもまぁ、あんなにバカスカ撃てるなぁ」

 「これよく見たら分かるけど結構凄いぞ」


 ヨシナリがそういってケイロンの機体にフォーカス。

 太い腕は少々の反動を吸収しそうだが、それ以上に銃が凄まじい。

 アタッチメントに固定したまま突き出した腕に乗せる形で構えている。


 それにより安定した射撃姿勢を維持していた。

 携行火器の体を取っているが実際は固定砲台に近いのだ。 


 「あぁ、なるほど、それで片手であんなに正確に狙えるのか」

 「恐らくだけど右半身と左半身で近接、遠距離を使い分けてる感じだな」


 実際、ハルバードは右手で振って、銃器は左に偏るようにマウントされている。

 位置取りも上手い。 恐らくヨシナリとのセンサーリンクで索敵能力などを補っていると判断して湖の内側を沿うように走る。 


 マルメルが逃げようとすると的確に退路を潰しに来ていた。

 逆に湖に入って中央に居るアリスとグロウモスの戦闘に介入しようとすると特にその傾向が顕著だ。


 「あー、これは逃げられませんねー」


 シニフィエがそう呟く。 

 彼女の言う通りだった。 他のメンバーにも言える事だが『烏合衆』は徹底して連携を拒み、相手にもそれを許さない。 とにかく一対一の状況を維持したがるのだ。


 そして今のマルメルの能力ではこの状況を打破する事は難しい。

 だからと言って簡単に諦めるような男ではなかった。 

 乱戦や連携を活かせないなら別の勝ち筋を探る。 映像の中のマルメルもそう判断したのか、動きが変わった。 注視しなければ分からないが明らかに湖の氷を狙っている。


 「足元を崩すつもりか」

 「……まぁ、ハンドレールキャノンを当てるにも足を止めないと話にならねーからなぁ……」


 マルメルは歯切れが悪そうにそういった。 結果が伴わなかったので、余り口調は明るくなかった。

 基本的に二機は湖の外周を撃ちあいながら回っているのだ。 事前に撃ち込んで置けば時間差でもう一度同じ場所を通る。 そこで勝負に出るつもりだったのだ。


 途中、何度も危ない場面があったが、どうにか凌いで仕掛けを施したポイントに差し掛かったところで銃撃。 タイミングも完璧だ。 

 氷を砕き、足場としての役割を果たせなくなった氷を踏み抜いてケイロンは動きを止める。


 そこをハンドレールキャノンで一撃――のはずだったのだが、マルメルの必殺は空を切った。

 仕留めたと確信していたマルメルの思考は僅かに固まり、一瞬ではあるが相手の姿を見失う。

 その隙が致命的だった。

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