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第492話 ユニオン対抗戦Ⅲ:本戦三回戦⑯

 現れたのは蝙蝠を思わせるステルス特化機体。 

 ここまでの戦闘に一切参加せずに戦いの推移を見ていたプレイヤーだ。

 『ステファニー』今回から参加したメンバーだったのだが、彼女は賞金目当てで入った事もあってこういった事に躊躇いがなかった。


 「お前、儂らの定めたルールを理解しとらんかったのか? あれは儂とベリアルの尋常な勝負。 それに横槍を入れるとはどういう了見だ」


 ステファニーは小さく肩を竦める。 


 「はぁ、申し訳ないんだけど、あたしは勝ちに来てるの。 考えても見なさいな。 アンタが負けたら次はあの痛い奴とあたしが戦う事になるのよ? やーよ、面倒くさい」


 だから後ろから仕留めたと悪びれる気配すらない。  

 口ではそう言ってはいたが、ステファニーがベリアルに勝てる可能性は低く、戦えば高い確率で敗北すると悟っていたからこそ彼女は介入したのだ。 


 付け加えるのなら勝てて賞金さえ手に入るなら後はどうでもよかったので、仲間からの心証低下も気にならない。 

 だが、一点だけ彼女が見落としていた事があった。 平八郎の勝負に対する矜持を。

 楽しい真剣勝負に水を差され、正々堂々を謳いながらの不意打ちで面子まで潰された。


 そんな彼がどんな行動を取るのか。 彼女はそれを理解していなかったのだ。


 「アドルファス。 文句はないな」

 『――あー、ステファニーさん。 困った事をしてくれましたねぇ……。 まぁ、約束なんでお好きにどうぞ。 この試合だけですよ?』


 アドルファスは小さく溜息を吐いてそう答える。

 平八郎は即座に槍を一閃。 ステファニーは咄嗟に下がって躱す。

 明らかに仕留めるつもりの一撃だった。 


 「ちょっ!? あたしは味方よ!」


 流石のステファニーも声に焦りが滲んでいる。 

 平八郎は構わずに刺突を連続で繰り出しす。 

 ステファニーは舌打ちして光学迷彩で姿を消そうとしたが――


 「しゃらくさいわ!」


 雪面を薙いで雪を撒き散らす。 それによりステファニーの姿が浮き彫りになる。

 エネルギーガンを構えるが、隠密特化の彼女が平八郎の間合いで勝てる訳がなかった。

 霞むような薙ぎで両足が斬り飛ばされ、返す一撃で両断。 


 ステファニーは何かを言う前に爆発し、脱落となった。


 「ベリアル。 すまんかった……」


 平八郎は小さく呟くとそのまま槍で自機を貫き。 そのまま崩れ落ちた。



 ベリアルの反応が消え、残りは自分だけとなった。 

 敵機もアドルファスともう一機のみ。 追い込まれたが追い込んでもいる。

 アルフレッドの反応は――一応あるが、損傷が酷い。 グロウモスを助ける為に随分と無茶をしたようだ。 つまり、独力でこの状況を突破しなければならない。


 『お前だけになっちまったな』

 「あぁ、後が閊えているし、さっさと片付けて次だ」


 アドルファスはやって見ろとドローンを動かし、いつもの包囲を展開する。

 彼の戦い方は比較的、分かり易い。 ドローンで包囲しつつ正面から仕掛ける。

 対処として一番いいのは包囲を崩す事だ。 つまり優先して狙うのは本体ではなくドローン。


 潰した後、操作を切り替えるのに若干のタイムラグがあるのでそこも付け入る隙となる。

 穴は少ないが全くない訳ではない。 それでも細い糸を通すような綱渡りは必要ではあるが。

 ドローンは五種類。 実弾のガトリング装備、レーザー装備、シールド装備、後は実体、エネルギーの二種の刃を備えたブレード。 それを状況に応じて使い分けるのがアドルファスの戦い方。


 ガトリングドローンがアドルファスの真上に陣取り、射撃を繰り返し、ブレードドローンが死角からの一突きを狙う位置取り。 本体はエネルギーガンを連射しながら腰の散弾砲を向ける。

 射程に入ったと同時に撃ち込んで来るつもりだ。 撃たないにしても攻撃範囲が広いので間合いに入ると危険だと圧をかけられる。 


 ユウヤとしても警戒せざるを得ずに散弾の拡散範囲の外から仕掛けなければならない為、正面からは仕掛けられない。 左右が背後を取る必要があるのだが、背後はアイドリング状態のドローンが待機しているので非常に危険だ。 つまり選択肢は左右しかない。  


 ――とアドルファスは読んでいるはずだ。


 これまでの戦いでもそうだった。 

 ユウヤの勝ったパターンではドローンを全て潰すか、補充の隙を突いて畳みかける。

 基本的にはこれで押し切れたのだが、負けた場合は死角からの攻撃に対する反応が遅れて足をやられた時だ。 波状攻撃を仕掛けてくる相手に機動性を失う事は即敗北を意味する。


 よく知っている相手であるからこそ意表を突く必要があった。

 時間もかけていられないので早めに勝負を決めに行く。 銃撃を機体を左右に斜行させて回避。

 プルガトリオの加速は簡単には捉えられない。


 『くっそ、相変わらず速いな。 この距離で捉えられないとか信じられねーよ』


 アドルファスは間合いを詰めて来たユウヤを狙うように散弾砲の銃口が彷徨う。 

 死角に入られると無駄になると判断したのか有効射程ギリギリのところで発射。

 仕留められなくても手傷を負わせられるならいいといった考えだ。


 エネルギーガンを構え、躱した方を狙い撃ちにするつもりだろうが、ユウヤはどちらも選ばずに大剣を盾にしての正面突破。 散弾と無数の銃弾を正面から受け止める。


 『うぉ!? 正面から来るか! 面白ぇ! 受けて立つぜ!』


 アドルファスは散弾砲を連射。 至近距離なので防げはしても衝撃まではどうにもならない。

 体勢を崩しに来たのでユウヤ前傾姿勢で耐える。 アドルファスが散弾砲を撃ち尽くしたと同時に腕の散弾砲を構えて発射。 


 『おっと』


 事前に用意していたシールドドローンが間に割り込むが、至近距離だったので防ぎきれずに大破。

 だが、一撃は防いだ。 大剣の間合いまで後、二歩といった所だが、それよりも先に地面を這うように飛んでいたブレードドローンが下からユウヤを狙う。


 ユウヤは胸部のシステムアケディアを起動。 

 不可視のフィールドが展開され、ドローンが機能停止。 

 同時に大剣のギミックを展開。 回転刃が飛び出し唸りを上げる。


 『いつ見てもエグい見た目だぜ』


 アドルファスはユウヤの構えに合わせる形でエネルギーガンを連射。

 エネルギー弾が霧散する。 エネルギー系統の武装が無効化されていると即座に判断。


 『あ、やべ』


 これを狙っていたのかとアドルファスは納得した。 タイミング的に躱せない。

 大剣はアドルファスの胴体を深々と貫いた。

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