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第491話 ユニオン対抗戦Ⅲ:本戦三回戦⑮

 ヨシナリが近くに居たのでシックスセンスによるセンサーリンクを受けていた事もあってアリスのフィールドの密度、エネルギー流動は見えていた。

 その為、どこを狙えばいいのかは分かっている。 彼には感謝しかなかった。


 同時に尊敬を。 理由は今、彼の反応が消えたからだ。

 満身創痍になりながら、最後の一瞬まで戦いを止めなかったヨシナリの姿勢はプレイヤーとして見習うべきものだった。 


 そんなヨシナリのくれたチャンスを欠片も無駄にしない為にタヂカラオは勝負を決めに行く。 

 片足でもホバー移動は可能だろうがバランスを取る必要があるので機動性は激減どころではない。

 つまり突っ込んで来るタヂカラオに対処する為には動かずに迎え撃つ必要がある。


 こちらの連射をエネルギーフィールドで防ぎつつ、ホバーを切って着地。

 腰を落として姿勢を低くする事で安定した射撃姿勢を維持し応射する。

 エンジェルタイプ相手に固定砲台は相性が余り良くない。 


 エネルギーウイングの旋回性能に追いつくのが難しいからだ。

 弾が切れたと同時にタヂカラオは突撃銃を投げ捨て、エネルギーブレードを展開。

 正面から斬りかかり、旋回――すると見せかけて戻る。 要は左のエネルギーウイングを噴かして半身を動かし、態勢が完全に傾く前に右を噴かして元に戻すのだ。


 タイミングがかなりシビアなテクニックで失敗した時のリスクが大きいので滅多にやらないが、格上を仕留める以上、ギャンブルは必要だ。 

 アリスの銃口が僅かに泳ぐが、即座に修正して正確にタヂカラオへと狙いを付ける。


 位置としては斜め上からタヂカラオが斬りかかる形になっており、銃口は彼の上半身を粉砕するべく狙いを付けていた。 


 ――ここだ。


 発射。 同時にエネルギーウイングを左右で上下に稼働させ機体の前後を逆転。

 以前の模擬戦でシニフィエが使った手だ。 

 薙ぐような銃撃がタヂカラオの両足を吹き飛ばすが、これで二手使わせた。


 Aランクとは言え、ここまで大きな隙を晒すとリカバリは難しい。

 タヂカラオの刺突はアリスのコックピット部分を正確に貫く。 アリスは一度大きく痙攣するようにビクリと動いたが、ややあって力が抜けて崩れ落ちた。


 「は、はは、何とか一機か。 ヨシナリ君、僕ももう少し頑張るよ。 勝てるかは分からないけど――」


 これで六機。 後四機、現実的な数字になって来た。

 機体がこの有様なのでせめて手傷ぐらいは――そんな事を考えていたタヂカラオの機体に不意に風穴が開いた。 コックピット部分を一撃、致命傷だ。


 何処からと最後の力でぐるりと周囲を見回すと割れた氷から上半身を出した機体が狙撃銃を構えていた。 どうやら決着が着くのを待っていたようだ。

 ヨシナリがやられた事で探知能力が落ちていた事もあって気付かなかった。


 「は、はは、あぁ、クソ。 悔しいなぁ」


 タヂカラオは感情を滲ませながら崩れ落ち、ややあって機体が爆発。 脱落となった。



 凄まじい速さで金属音が戦場に響き渡る。

 ベリアルの爪と平八郎の槍が交錯する事によって発生している戦闘音だ。

 両者は戦い始めてからただひたすらに相手を屠る為に攻撃を捌き、繰り出していく。


 『お? そっちはもう残っとらんみたいだが、大丈夫か?』

 「戦友達は死力を尽くして戦い、散って逝った。 ならば残された俺の役目は貴様を屠り、この戦いを勝利に導く事にある!」


 敵機の残りは四。 こちらはベリアルとユウヤのみ。

 他の味方は全滅したようだ。 それでも六機仕留めている時点で充分に善戦したと言える。

 『烏合衆』は個々人で戦うだけの集まりであり、そこに連携の入り込む余地はない。


 そのスタイルこそが彼等の弱点でもあったのだが、個人技のみを頼みにここまで上がって来た猛者揃い。 撃破は容易ではない事は分かり切っている。

 カカラ、モタシラ、バド、アリス、ケイロン、フェボル。 


 誰を相手にしても簡単に勝利を得る事は難しい。

 そんな強者を戦友達は打ち破ったのだ。 

 戦果を誇る事はしても、撃破された事を責める事はあり得ない。


 だから、ベリアルは彼等の戦いを無駄にしない為、勝利に執着する。

 平八郎はAランクの中でも上位に入る使い手で、ベリアルとの対戦経験も多いので対処法も心得ている。 短距離転移に関しても探知できるセンサーシステムを搭載しているようで的確に転移先を狙って来る上、持っている槍を器用に振り回して死角を消しているので懐に入るだけで命がけだ。


 刺突はライフル弾並の貫通力、薙ぎ払いの破壊力も凄まじく、まともに貰えばそれで終わる。

 その為、ベリアル、平八郎共に無傷だ。 互いの攻撃が一撃も入っていない。

 普段ならこのまま消耗を待って勝負をかけるのだが、後が閊えている状態で力を使い果たすのは不味い。 つまり、勝機を抉じ開けなければならないのだ。


 あの槍は伸縮式なので刺突の回転が異様に早い。 狙うのなら薙ぎ払いだ。


 『ん? 勝負に出る気か?』

 「本来なら貴様との闘争を最後の一瞬まで味わいたいと思っていたが、今の俺は個人ではなく戦友の下に集った星の一つに過ぎん。 この戦いでの勝利を掴まねばならん」

 『ふーむ。 つまり次で決着を着けようという事だな! 面白い! 受けて立つぞ!!』


 平八郎は見せつけるように頭上で槍を回転させる。


 「貴様――」

 『儂が薙ぐのを待っとったんだろ? 望みどおりにしてやる』

 「……感謝する」


 時間を稼いだ方が有利にも関わらず勝負に乗ってくれた平八郎にベリアルは感謝を告げる。


 『がっはっは! 水臭い事を言うな! 儂もお前との勝負は心が躍る!! 名残は惜しいがこの一撃で最後とする。 どちらが勝っても恨みっこなしだ!』

 「あぁ、互いに悔いのない一撃を――」


 両者の意識が互いに集中。 平八郎は槍の回転を速め、ベリアルは前傾姿勢を取る。

 ベリアルの重心が前に傾く。 行く――小さな風切音。

 それは完全な奇襲だった。 完全に互いに集中していたベリアルはそれに対する反応が致命的に遅れる。


 ピンポイントでコックピット部分をボルトで打ち抜かれたベリアルは驚愕に目を見開く。

 それは平八郎も同じだった。 ベリアルは何かを言おうとしたが、それが形になる前にボルトが爆発しプセウドテイが致命的な損傷を受け、脱落となった。


 平八郎は動作を止めて槍を静かに下ろす。


 『……何の真似だ?』


 返ってくる言葉はない。 平八郎の槍を持つ手が震える。


 『何の! 真似だと!! 聞いているのだ!!! 応えんか!!!!』


 怒りの乗ったそれは凄まじい声量で、仮想の空気が大きく振るえる。


 『やーねぇ。 怒らないでよ』


 それに引っ張り出される形で声が響いた。

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