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第490話 ユニオン対抗戦Ⅲ:本戦三回戦⑭

 ――ここだ。


 ケイロンの一撃が放たれる直前にパンドラを用いてエーテルにより欠損した手足を補填。 

 それにより再生した腕で刃の中央にある持ち手を掴み、スペルビアへと変形させる。

 エネルギーウイングを噴かして減速しながら回転。 それにより相手の目測を狂わせる。


 ハルバードが空を切った頃には既に一回転しており、二回転する頃には懐の中だ。


 「おらぁぁ!」 


 ヨシナリは珍しく吼えながら一撃。 

 完全に捉えたつもりだったが、ケイロンは咄嗟にハルバードを引いて間に差し込む。

 ハンマーはハルバードを圧し折って脇腹を打ち抜くが、間に余計なものが挟まったお陰で完全に通らなかった。 


 少なくないダメージは入ったが、完全ではない。 

 その証拠にケイロンは拳を固めて殴り返しに来たからだ。 下から掬い上げるような一撃。

 ヨシナリはその一撃を無視し、スペルビアを投げ捨てると更に一回転。


 残った足で蹴りを放つ。 

 体勢が僅かに変わった事でケイロンの拳はヨシナリの振り抜いた足――膝に当たる。

 起爆。 コックピット部分を狙ったのだがそれにより、狙いが逸れてしまった。


 胴体部分には無数の弾痕が刻まれたが、内部には至っていない。

 代わりに頭部を完全に吹き飛ばし、ついでにホロスコープの残りの足も消し飛んだ。

 足をエーテルで補填しながらクルックスを抜いて至近距離でバースト射撃。


 狙いを付けている余裕はなかったが、この距離なので外しようがない。

 いかに重装甲であってもほぼ密着状態での銃撃は効いたらしく次々とケイロンの胴体に穴が開く。

 このまま押し切って――不意に弾が切れる。 リロードしようとしたがエラー。


 誘導システムに損傷。 

 ヨシナリは内心でクソがと舌打ちして弾種をエネルギーに切り替えて連射しようとしたが、手で払いのけられる。 だったらとエーテルの鎧を一部解除、胸部の吸排気口を露出させ、収束させたエーテルを発射と同時にケイロンが発射口に腕を叩きつける。 


 物理的に塞がれた事で行き場を失ったエーテルが爆発を起こす。

 ケイロンは大きく体勢を崩し、ヨシナリは吹き飛んでいく。

 距離が開いた所でとどめを刺そうとケイロンが肩にマウントした重機関銃を抜こうとして空を切った。

 あるはずの物がなかったからだ。


 何故とヨシナリの方を見るとホロスコープがその重機関銃を構えていた。 

 フルオート射撃。 凄まじい反動でまるで制御できないがその分、威力も凄まじくケイロンの重装甲が瞬く間に穴だらけになる。 流石にこれは防ぎきれなかったらしくそのまま崩れ落ちた。


 「はぁ、次ぃ!」 


 ヨシナリは吼えるようにそう叫んで次の獲物を探す。 もう時間がない。


 横目でステータスチェック。 

 胸部装甲が全損し、内部機構が露出。 エネルギー流動に深刻な悪影響。

 エネルギーウイングの供給が制限。 出力70%低下。 もう飛べなくなった。

 それでもまだパンドラが残ってる以上、三割の出力でも姿勢制御ぐらいはできる。


 ――まだだ、まだ戦える。 


 立ち上がると蓄積されたダメージによって頭部の一部が爆発。 シックスセンスに深刻な損傷。

 半分以上の観測項目が死んだ。 だが、目視もできるし、熱源と動体は生きている。

 タヂカラオがアリスと戦っているはずだ。 援護に行かなければ――


 内部でパーツや装甲が脱落しそうになるが、エーテルの鎧で覆って無理矢理防ぐ。

 落としたアシンメトリーを拾って少し進むと湖が見える。 

 センサーの機能が低下しているが、戦っているタヂカラオの姿が見えたのでアシンメトリーを構えた。 相手は派手なレーザー攻撃を多用しているので見つけるのは容易だ。


 内部で小さな爆発がいくつか起こり、エネルギーウイングが機能を停止。

 もう関係ないので無視。 恐らくこれが最後に放てる一撃だ。

 アシンメトリーにエーテルを限界まで注ぎ込む。 過剰なエネルギー供給に銃身が悲鳴を上げる。


 闇を収束させたかのような黒い輝きが銃口に灯り――ヨシナリは最後に小さく息を吸って、吐く。

 引き金を引き、最期の一撃が放たれる。 

 直後、ホロスコープは力尽き、エーテルの鎧は砕け、機体はそのまま崩れ落ちた。



 突撃銃を連射しながら回避。 レーザーが一瞬前まで居た位置を焼く。

 比較的、相性のいい相手なので性能差があってもどうにか食い下がるぐらいはできる。

 タヂカラオは少し焦っていた。 戦況は悪い。


 味方は半数以上が脱落。 敵機は半数以上が健在だ。

 残っているのはヨシナリとタヂカラオ、後はベリアルとユウヤのみ。

 普通に考えるなら負けが九割がた確定している状況だが、この期に及んで敵は一対一の構図を崩そうとしない。 


 ――本当に大会に出る為だけに組んだだけのチームか。


 元々、彼等はユウヤ達と同様に群れる事を望まない上位プレイヤー達だ。

 連携を重視しない点は仕方がないとも言えるが、ここまで徹底しているとは思わなかった。

 レーダー表示を見ると近くに手が空いた機体が居るが明らかに手を出す気配がない。


 ある意味、舐めているとも取れる動きだが、前々回をこれで優勝したのだから強者故の慢心か。

 そこに付け入らざるを得ない事も力不足を痛感させられる。 


 ――今はやれる事を全力でやるだけだ。


 アリスはレーザーでは当てられないと判断したのか銃身の一部をパージ。

 先端が束ねられた銃口に変わる。 


 ――手数で来る気か。


 銃口が回転し、凄まじい勢いでエネルギー弾がばら撒かれる。

 距離を取りながら応射。 アリスはホバリングにより氷結した湖面の上を滑るように移動して躱す。

 遮蔽物がないにも関わらず捉えら切れないのは流石だった。


 膠着に持って行かれると不味いが、焦ると返り討ちに遭う。

 味方機のステータスを確認するとヨシナリの機体はかなり不味い状況になっている。

 恐ろしい事にモタシラを撃破して今はケイロンと戦っていた。


 ベリアルとユウヤは膠着。 流石に相手が相手なのでやられていないだけマシだ。

 彼等の勝利を信じてタヂカラオはアリスを仕留める為に意識を集中する。

 まずは足を止める所から――不意にエーテルである事を示す黒いエネルギー弾がアリスの足を打ち抜いた。 


 流石に想定していなかったのか、アリスの挙動に大きな動揺が走り片足を失った事でバランスが大きく崩れる。 ここが勝負どころだとタヂカラオはエネルギーウイングの推進力を全開にして突撃。

 アリスの足は単なる推進装置ではなく、ジェネレーターも内蔵しているので破壊されると攻撃や防御だけでなく出力にも悪影響を及ぼす。 


 アリスは動揺が抜けきっていないが、タヂカラオを近づけると不味い事は理解しているのか銃撃するが片足を失った状態で照準が定まっていなかった。

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