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第488話 ユニオン対抗戦Ⅲ:本戦三回戦⑫

 スピードに関しては完全に上回っている以上、後ろから追いつく事は難しくない。 

 変形。 巨大な推進装置に狙いを定めイラを抜きながらハンマーに変形させて振り下ろす。


 『は、そう来ると思ったぞ!』


 嫌な予感はしていたが、タイミング的には入るはずだ。

 そんなヨシナリの思考はあっさりと塗りつぶされた。 

 何故ならカカラの機体は不自然な挙動で縦に一回転したからだ。 


 何でだよとシックスセンスで分析すると、どうやら胴体部分の推進装置を使って強引に前後を入れ替えたらしい。 こんな事もできるのか。

 そしてこのタイミングで前後を入れ替えたという事はカカラは最初からヨシナリが狙いだったようだ。


 だが、ハンマーは当たる。 

 エネルギーフィールドは無効化できる以上、機首部分かガトリングガンを破壊できれば火力は落ちる――


 「は?」


 思わずヨシナリはそんな声を漏らした。 何故ならハンマーが受け止められていたからだ。

 何に? 答えは手だった。 胴体部分――吸排気口に格納されていたらしい腕が付き出してハンマーのヘッド部分を掴んでいたのだ。   


 『惜しかったなぁ!』


 反対側からも腕が現れる。 あぁ、切り札を温存していたのは俺だけではなかったのか。

 可変機であるという事は最初から認識していたというのに何故、思い至らなかったのだろう。

 余裕がなかったからだろうか? カカラが拳を固めて殴りに来る。


 ハンマーは掴まれて動かない。 このまま黙って見ていればやられる状態だ。

 もう、出し惜しみなんて言っている場合ではなかった。 パンドラの出力を上げる。

 200%から400%へ。 同時に機体保護の為にエーテルの鎧を展開。


 『ぬ!? なんだそれは!?』


 流石にこれにはカカラも驚きに声を漏らす。 

 使わせた以上、ただで済むと思うなよ。 ヨシナリはハンマーから手を放し、カカラの機首に膝を叩きこんで強引に上を向ける。 僅かに遅れてガトリングガンが銃弾をばら撒いた。


 手を翳して吸排気口を展開。 エーテルを収束させる。 

 カカラは警戒して前面にフィールドの密度を集中。 そうなった事を確認したヨシナリは発射。

 腕から発生した反動を利用して独楽のように横回転し、エネルギーウイングの旋回を合わせて強引な機動でカカラの側面へ。 


 前面にフィールドが集中しているのでそれ以外ががら空きだ。

 腕に纏わせたエーテルの形状を変化。 ブレードに変えて一閃。

 ハンマーを掴みっぱなしだった腕を切断した。 落下する前にハンマーを回収。


 柄部分と半ばに付いている持ち手をそれぞれ片手で握りコンパクトに構え、エネルギーウイングと推力偏向ノズルの推力を最大。 方向をあべこべにする事でホロスコープは高速で回転を始める。

 カカラは小型のミサイルで迎撃しようと連射するが発射と同時に撃墜された。


 『ぬぅ!?』


 タヂカラオが手に持ったエネルギーライフルでヨシナリを狙ったミサイルを撃ち落とす。

 本体には通用しないがミサイルを落とす事は可能と判断して狙っていたようだ。


 「はは、僕を忘れているよカカラさん!」


 カカラはタヂカラオを忌々し気に睨んだが、間に合わない。 

 横に回転しながら突っ込んで来たヨシナリの一撃が推進装置を捉える。

 エネルギーフィールドで守られていたが、スペルビアのフィールド無効化により機能しなくなった推進装置は回転の乗ったハンマーの一撃をまともに喰らって大破。


 その巨体が大きく揺らぐ。 

 だが、カカラと彼の駆る『サガルマータ』の威容はまだ崩れない。

 残った二つの推進装置で強引にバランスを取り、反撃に出ようとしたがもう一つの推進装置が何かに撃ち抜かれた。 下を見るとスコーピオン・アンタレスを構えたグロウモスが銃口を向けている姿が吹雪のヴェールの向こうに垣間見える。


 そして一瞬後にレーザー砲に射抜かれて爆散。 敵を無視してカカラを狙ったからだろう。

 流石にメインの推進装置を二つも破壊されたカカラは立て直しが不可能と悟り笑う。


 『はっはっは、やられたぞ! ヨシナリ、俺はお前を気に入った。 早くAに上がって来い! その時は一対一だ! 再戦を楽しみにしているぞ!』


 推進装置の爆発が本体に誘爆し、カカラの機体は爆散。

 脱落となった。 終わったと一息つきたいが、地上からレーザー砲が飛んでくる。

 グロウモスを仕留めたアリスの狙撃だ。 ヨシナリは機体のステータスを確認。


 あちこちでエラーを吐いている。 出力を上げ過ぎた所為でホロスコープはもう長くない。

 敵の損耗はこれで三機。 


 こちらはヨシナリ、タヂカラオとユウヤ、ベリアルのみ。 

 後は全滅したようだ。 残り七機全てがジェネシスフレーム。


 明らかに詰んでいる戦力差だ。 

 頭を抱えて諦めてしまいたくなるような絶望的な状況だった。

 だが、ヨシナリはだからどうしたと跳ね除ける。 確かに絶望的だが、まだ負けていない。


 敵は七機でこちらは四機。 つまりこれから一人、二機撃墜するだけで釣りが出るのだ。

 諦めるには早すぎる。 仮に味方が全滅していたとしても諦める理由にならない。

 何故なら『星座盤』はまだ負けていないからだ。


 「タヂカラオさん!」

 「あぁ、まだ戦える。 諦めるには早いって言いたいんだろう? 負けるにしても最後まで足搔こうじゃないか!」


 ヨシナリは急降下し、タヂカラオがそれに続く。

 雪のヴェールを突き抜け、視覚的に地上の様子が明瞭になったと同時に敵機を捉える。

 レーザー砲装備の重装機体。 今のホロスコープなら充分に戦える。


 スピードで攪乱して――ヨシナリは咄嗟に横旋回。

 死角から刀剣装備の機体が斬りかかって来たからだ。 


 『カカラが落ちるとは思わなかった。 ヨシナリと言ったな。 次はこちらの相手をしてもらおうか』


 そう言って敵機――モタシラは隙の無い挙動で刀を構える。


 「アリスは僕が何とかする! 君はモタシラを!」


 タヂカラオがアリスに銃撃してヨシナリから引き離す。 

 機体のエラーとダメージが蓄積していく。 悠長に観察している時間はない。

 リミッターを戻して機体を休ませる選択肢もあったが、もうあちこちが傷んでいるので大破のリスクがなくなったとしてもパフォーマンスが大きく低下するので話にならない。


 ヨシナリにできる事は速攻をかけて目の前の敵を可能な限り速やかに撃破する事だけだ。

 即座にアトルムとクルックスを抜いて連射。 モタシラ機動で躱す。 

 ふわわをやった奴なのは知っているが、どうやったのかが皆目見当が付かない。


 疑問は多く、情報が不足しているが相手もヨシナリの情報を持っていない。

 つまり対応力の上回った方が勝つ。 


 ――押し切ってやる。


 前のめりになりつつ敵へと挑みかかった。

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