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第487話 ユニオン対抗戦Ⅲ:本戦三回戦⑪

 ジェネシスフレーム『サガルマータ』。

 大型の戦闘機のような形状だが、ベリアルの話では可変機なので本来の人型形態があるはずだ。

 その為、戦闘機形態のみを見た感想だが、武装は背面のミサイル。 


 大小合わせて五十以上。 図体がデカいだけあって搭載量も桁外れだ。

 一度に全弾を発射せずに分けてばら撒いている点から内部に生産工場を抱えていると見ていい。

 つまり、無理に撃たせないと弾切れにならないのだ。 


 次に機銃。 

 機首部分の脇から突き出しているので小口径の短機関銃レベルかと思ったが、あのサイズなのでガトリングガンだ。 発射までに僅かなタイムラグがあるが、一度撃ち始めたら凄まじい連射速度で弾を吐き出す。


 ホロスコープの耐久ではまともに喰らえば即座にバラバラになるだろう。

 ただ、可動域はそこまで広くはないので機首の方向を意識さえすれば貰う事はない。

 今の所、見せているのはこの二種類だ。 攻撃の傾向としてはVLS――垂直発射の大型ミサイルで上、小型のミサイルで左右から握りつぶすように囲んで撃ち込んで来る。 


 豪快に見えるが、しっかりと逃げ場を潰す立ち回りからは技量の高さが窺えた。

 そして包囲の穴から抜けようとするとガトリングガンが飛んでくる。

 躱すにはミサイルを掻い潜って用意された穴以外から包囲を突破する事なのだが、攻撃の密度はかなりの物なので反撃に避けるリソースが少ない。


 一応、次の発射までの間に隙ができるのでその間に狙えない事はないのだが、重装甲にエネルギーフィールド。 装甲自体にも対エネルギー兵器用のコーティングが施されているのか攻撃の通りが悪い。

 こういう相手にはマルメルやグロウモスの武器が相性がよく、高火力での一点突破が攻略の最適解だろう。 


 次に推進装置。 

 機体の胴体と後方に搭載されている。 胴体に一基、後部に二基。

 特に後ろに付いている二基はジェネレーター内蔵で凄まじいエネルギー放出量だ。


 円筒状のそれは真下に向けて推力を発生させており、機構としてはVTOLに近い。

 割と分かり易い弱点にも見えるが、ジェネレーターを内蔵しているという点が破壊を困難にする。

 エネルギーフィールドの密度が機体の本体を覆っている物よりも密度が濃い。


 露骨に守りを固めているので破壊されると困る事がよく分かる。 

 現在、ヨシナリに存在する勝ち筋としては推進装置の破壊だ。

 本体の重装甲は貫けなくはないが時間がかかる。 ミサイルの発射前を狙うという手も考えたが、上を狙えば左右が左右を狙えば上が当てに来るので安易に飛び込めない。


 ――それに露骨すぎるんだよなぁ……。


 何だか誘われているような気がするので飛び込む事に躊躇いがあった。

 明らかにまだ見せていない武装、装備があるのは明らかなので最低限、手札を全て捲った状態でないと危険すぎる。 それにカカラを仕留めたとしてもまだまだ後が控えているのだ。


 勝つにしてもある程度の余力を残しておかないと負ける。 

 それにしても三回戦ではいつも酷い目に遭うなと思ってしまう。

 一回目はミサイル装備のパンツァータイプに追いかけ回され、二回目はポンポンに一杯食わされた。


 三回目の今度こそはと意気込んだのだが、絶壁のような分厚い壁が立ち塞がる。


 『ふはは、躱すではないか! そのランクでここまで粘るとは嬉しいぞ!』

 「はは、そりゃどうも」


 ミサイルを撃ち落とし、誘爆させて包囲を突破。 

 カカラは恐ろしい事にあのサイズで綺麗なバレルロールを決めるとピタリとこちらの背後に着く。

 あの推進装置の仕業だ。 円筒状で上下に推力を発生させる事が可能なので片方を逆向きに動かすとそのまま機体が転がるように回転して勝手にバレルロールする。 


 しかも速い。 こちらを射線に捉えた所でガトリングガンで弾をばら撒く。

 あの武装も厄介だ。 妙に集弾率が高いのでしっかり躱さないと掠っただけで持って行かれる。

 裏を返せばしっかりと躱せば無傷でやり過ごせるという事ではあるが、こんな調子ではいつまでも躱せない。 


 ここまででの戦いでカカラのプレイスタイルは良く分かった。

 小細工は好まずに正面から火力で捻じ伏せるタイプ。 単純なごり押しなら付け入る隙もあったのだが、膨大な戦闘経験に裏打ちされた挙動は安易な小細工を容易く噛み砕く。


 間違いなく、これまでに見て来たランカーの中でもかなり上位に位置する実力者だ。


 ――捕まる前に勝負に出るしかない。


 フィールドは厄介だが、こちらには大剣イラの可変形態であるスペルビアがある。

 当てさえすれば破壊は不可能ではない。 問題はその当てる所なのだが、どうにか隙を作らなければならないのだが、それが見当たらないのだ。


 30メートルの巨体。 鈍重な見た目。 

 これだけなら割と簡単かと思ったのは過去の話で、カカラはこれだけの条件を背負っているのにも関わらず付け入る隙を与えてくれないのだ。 


 その為、やるべき事はカカラのリズムを崩す事。 攻撃、防御のどちらでもいい。

 気を逸らせれば――不意にカカラの機体に何かが飛来し、爆発が発生。

 パンツァーファースト。 


 「ここは僕の出番かな!」


 タヂカラオだ。 

 彼はあちこちに損傷が目立つ状態で使い切ったパンツァーファーストを投げ捨てながら突撃銃を連射。

 助かったと思いながらも相手はどうなったと確認すると反応がない。 


 どうやら撃墜したようだ。 

 下を見るとアルフレッドがアリス相手に榴弾砲を連射して釘づけにしており、グロウモスが狙撃姿勢を解いて移動している所だった。 状況的に彼女がタヂカラオの相手を仕留めたようだ。


 「ヨシナリ君、チャンスを作る! 外すなよ!」

 『タヂカラオか! 一対一の戦いに割り込むとは無粋な真似を!』

 「申し訳ありませんが、これはチーム戦ですよカカラさん!」


 タヂカラオの連射は全てフィールドに弾かれて届かない。  

 カカラは鬱陶しいと言わんばかりにミサイルを発射。 普段よりも多い。 

 ヨシナリとタヂカラオの二人を狙う為に多めに撒いたのだ。


 ヨシナリは変形してインメルマンターン、タヂカラオはエネルギーウイングによる急加速でミサイルを振り切ろうとするが、カカラは推進装置の出力を上げてタヂカラオを追跡。

 邪魔者を先に葬ろうとしたのだろう。 それで充分だった。


 ――ここが勝負どころだ!


 パンドラのリミッターを解放。 出力を200%に引き上げる。

 それによりホロスコープの推力偏向ノズルとエネルギーウイングからエーテルの闇が噴き出す。

 エラーメッセージがポップアップ。 機体に負荷がかかっている証だ。


 ヨシナリは構わずに加速。 タヂカラオを射線に捉えたカカラの背後に肉薄。


 ――捉えた。 

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