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第485話 ユニオン対抗戦Ⅲ:本戦三回戦⑨

 敵の戦い方は非常に分かり易い。 とにかく弾をばら撒くだけだ。

 短機関銃なのは連射と取り回しを重視した結果だろう。 

 加えてどういう訳か、攻撃の切れ目が非常に短い。 雪に阻まれて見え辛いが、時折くるくると手元で銃を回転させているのが見えるが恐らくはアレがリロード作業なのだろう。


 視界が悪いにもかかわらず狙いは正確。 見えていると判断するべきだろう。

 この状況を打開するにはとにかく接近しなければならい。

 得意の間合いに持ち込めれば勝機は充分にあるのだが、それが現状難しいのだ。


 ――こんな事なら銃でも持ち込んでおくべきでしたか。


 元々、銃はあまり得意ではない上、中~遠距離戦が得意な味方が多いのでバランスを取る意味でもと前に出てみたのだが、このレベルの戦いになるとスペック差が露骨に出るようになってきた。

 これはそろそろ姉か義兄にエネルギーウイングとプラスフレームを強請る時期なのではないのか思っている。 通常の推進装置では充分な機動性を発揮できない。


 ――そろそろ動かないと不味いですねー。


 段々と敵の狙いが正確になって来た。 そろそろ決めに行かないと捕まる。

 シニフィエは一つ深呼吸。 肉薄するチャンスは敵のリロードの瞬間。

 僅かな間なので被弾を覚悟しなければならない。 弾数を数える。


 片方の銃が撃てるのは三十発。 リロードは1秒から1.5秒。

 この距離なら接近に2から3秒。 接近に対する反応を遅らせる為にも可能な限り隙を窺いたかったが、やるしかない。 撃ち切った。


 リロードに入る。 今だ!

 シニフィエはここが勝負どころと判断して推進力を全開にして敵機へと突っ込む。

 ――と同時に機体の推進装置の片方と片足が吹き飛んだ。


 「な、なんで――」


 ほぼノータイムで飛んで来た。 アームガンや仕込みの武装はないと思っていたのだが、何故?

 まるで答え合わせのように大きな風が吹き、少しだけ視界が明瞭になった。

 敵機はリロードを終えて無言で銃を構えている姿が目に入り、その銃を見て納得した。


 「――はぁ、我ながら焦り過ぎましたかー」


 銃声。 綺麗にコックピット部分を撃ち抜かれてシニフィエは撃破。 脱落となった。



 直線軌道は駄目だ。 小刻みに機体を左右に振って敵機に的を絞らせない。

 噴かし過ぎるとジェネレーターが保たなくなるので適度に緩める。 

 接近――特にハルバードの間合いに入る事は厳禁。 加えて、ヨシナリとのセンサーリンクが切れる位置には行かない。 最後に付かず離れずを維持する事。


 マルメルは冷静に自分がやるべき事を頭の中で纏めてどうにか突破口を探りつつ現状を維持する。

 Aランクプレイヤー『ケイロン』機体名『パルティアンショット』。

 馬を思わせると言うよりは下半身は完全に馬を模したものとなっており、独特な足音が響く。


 戦い方は非常にシンプルで近距離で殴るか中距離で撃ち抜くのどちらか。

 重装甲に多種多様な防御機構を搭載しているだけあって非常に堅牢だ。 

 明らかに被弾を許容したデザインで、倒される前に殴り倒す事を信条としている。


 加えて下半身の独特な形状は飛行よりも地上での機動性確保を意識した造りなので、地上での近~中距離に特化した機体。 簡単に仕留める事は非常に難しい。

 とにかく硬い。 マルメルはこれまででそこそこの数の銃弾、エネルギー弾を喰らわせはしたのだが、碌にダメージが入っていない。 効いていない訳ではないのだが、機能不全にするには足りないのだ。


 ――同じ個所に連続して喰らわせる必要があるな。


 後はこれか。 意識を両腕のハンドレールキャノンに向ける。

 こいつなら当たりさえすれば一発で仕留められるが、一度でも見せてしまうと警戒されてしまうので確実に当てられる瞬間を見極めなければならない。 


 まずは足を止める所からだ。 アノマリーをケイロンの足に向けて連射。

 数発が命中するが、素直に当たってはくれない。 横に移動する事で躱してくる。

 前足、後ろ足、どれでもいい。 使い物にならなくすれば転倒は難しくても機動力を削ぎ落せる。


 そうなれば一発を狙えるチャンスが生まれるからだ。 

 後はもう一つやれる事があった。 マルメルが現在、居るのは湖の外周。

 それを沿うように移動しているのだが、中央にもう一機居るのだ。


 現在、グロウモスと盛大に撃ちあっている機体だ。 

 移動しながらなので仕掛け辛い位置にいるが、これは一対一に拘っている為らしく他の戦闘に干渉しようとすると露骨に邪魔をしてくる。 


 ――付け入るとしたらここか。


 湖に入らせないようにする為かケイロンはマルメルよりも内側を走っている。

 少し離れた位置で併走して来たタイミングで散弾砲を向けてきた。


 「うぉ、危ねぇ!」


 咄嗟に減速。 銃声と同時に目の前を無数の散弾が通り過ぎる。

 この野郎と応射。 狙いは機体ではなく銃を狙う。

 ケイロンは背を向けて武器を守りつつ反転。 ハルバードを振り上げる。


 ビビるな。 よく見ろ。

 ギリギリまで引き付けてタイミングよくエネルギーウイングを噴かして横に躱す。

 よし、チャンス。 至近距離で――ケイロンに銃口を向けようとしたと同時に固めた拳が飛んでくる。 


 殴打。 喰らうと不味いと判断して咄嗟に強化装甲に仕込んだクレイモアを起動。

 次にパージして破片を飛ばす。 出し惜しみは危険と判断したからだ。

 行けるか?と思ったが、相手はAランク。 こちらの想定を超えてくる可能性は捨てきれなかったので咄嗟にアノマリーを盾にする。 


 ベアリング弾と弾き飛ばした強化装甲による弾幕を突き破って拳が飛んで来た。

 回避行動を取っていた事が幸いし、ダメージこそなかったがアノマリーに命中。

 半ばから圧し折れる。 


 ――くっそ、アノマリーが――


 使い物にならなくなったアノマリーを投げつけつつ加速。 

 機体に僅かな振動。 ダメージチェックは異状なしだが、肩――人間で言う肩甲骨の辺りにざっくりと傷が走っていた。 どうやらハルバードを短く持って振ったようだ。


 パワー系だと言う事は分かり切っていたが、片手であの威力を出せるのは理不尽すぎる。

 反転して両肩の散弾砲を発射。 流石にこの距離でまともに喰らうのは不味いと判断したのか両腕をクロスさせて防御。 左右を交互に撃つ事で連射。


 右、左の順で弾が切れたのでそのままパージする。 

 ケイロンは防御姿勢を取りながら加速。 ヤバい。

 散弾砲を即座に構える。 マルメルは咄嗟にエネルギーウイングを全開にして回避運動。


 発射。

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