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第477話 ユニオン対抗戦Ⅲ:本戦三回戦①

 三回戦の相手はユニオン『烏合衆うごうしゅう


 「……どこだっけ? 何か見覚えがある名前だな」


 マルメルが首を傾げ、ふわわ、シニフィエ、ホーコートも似たような反応だった。

 ただ、残りのメンバーの反応は違い、ヨシナリはマジかよと呟き、タヂカラオは早いなと溜息を吐く。

 ユウヤとベリアルは黙って何も言わないが、ユウヤは嫌そうな雰囲気を醸し出し、ベリアルは面白いと笑う。


 「え? マジで何かある相手なのか?」

 「……ユニオンの体裁こそ取っているが、ランカーが大会に出る為だけに作った集まりだ。 ――で、前々回の優勝チームだよ」


 Aランクプレイヤー十人で構成されている強敵だ。 

 これはもう面子に関しては疑う余地がない。 

 全員Aランクプレイヤーで機体はジェネシスフレームだ。 


 「うへ、マジかよ。 今回、一回戦からきついのとしか当たらねぇなぁ……」

 「遅かれ早かれ当たっていた連中だ。 さっさと叩き潰してやろうぜ」


 次のステージは例の雪原だ。 

 視界がかなり悪いのでシックスセンスによるセンサーリンクを意識した立ち回りを要求される。

 今回はアルフレッドも居るので前衛、後衛に分けられる事もあって、前回よりは自由に動く事ができるだろう。 重要なのはどれだけ敵機を減らせるかにかかっている。


 「もう決勝戦みたいな感じになってきましたが勝ちましょう!」


 ヨシナリがそう言って拳を振り上げると他も「おー」と言って握った拳を振り上げた。

 士気は高い。 相手は強敵だが、勝てない相手ではないはずだ。


 「――いざ三回戦へ」



 入場可能になったのでフィールドへと移動。 


 「相変わらずだな」


 ヨシナリは思わずそう呟く。 

 フィールドは雪で閉ざされており、吹雪によって視界だけでなく集音にまで悪影響が出る。

 カウントダウンが始まり――即座にゼロになった。


 「よし、全員手筈通りに! 相手は格上です。 個人技では相手が上ですが、連携の完成度はこっちが上です。 強みを活かしていきましょう!」


 初期配置は湖を挟んで東西に分かれており『星座盤』は西、相手は東だ。

 グロウモスは即座にドローンを飛ばして後方へと下がり、アルフレッドはグロウモスに近い位置でシックスセンスによる情報支援の為に身を隠す。 


 フォーメーションはふわわ、ベリアル、シニフィエが前衛、少し後ろにユウヤ、マルメル、ホーコート。 ヨシナリ、タヂカラオは空中を進む。

 今回は突出するとユウヤ達でも危険なので、無理を言って足並みを揃えて貰った。


 流石に前回、撃破されている事もあって二人は素直に従ってくれた。


 ――さて、相手はどう出てくるのか――


 湖に差し掛かった所で向こう岸から何かが光る気配。 来た。


 「レーザー攻撃!」


 地上を狙った薙ぎ払うような一撃。 想定内だったので全機、危なげなく躱す。

 高出力のレーザー攻撃。 それを行ったのは全体的に重厚な印象を与える白い機体。

 特徴的な太い足と重装甲の胴体、背中には巨大なバックパックとそこから伸びたケーブル。


 その先にあるのは狙撃銃を思わせる長さの砲身をしたレーザー砲。

 Aランクプレイヤー『アリス』と彼女の操る機体『ホワイト・アリース』

 この高速化が進んでいるゲームで重量機体を使ってAランクを維持している実力者だ。


 「グロウモスさん!」

 「分かってる」


 位置が割れたと同時にグロウモスの狙撃が飛ぶ。 

 アリスはその鈍重な見た目からは想像もできない軽快な動きで躱す。

 ホバリングを用いる事で雪に足を取られずに機動力を維持できているのだ。


 「まぁ、散らしに来るよなぁ……」


 個人技で上回っている以上、引き離して一対一の状況に持ち込めれば充分に勝てると判断するのは当然だ。 逆の立場ならヨシナリも同じ事をしていただろう。

 明らかに分断を目的としているので、前衛を散らした後は邪魔な遊撃手を黙らせに来るはずだ。 


 「ほら来た」


 雪のヴェールを突き抜けるように深緑の戦闘機――というには巨大な双発エンジンが目立つ所謂、VTOL機に似た機体が現れる。 


 ――にしてもデカいなぁ。


 30メートルはあるので通常のトルーパーの約三倍だ。


 『はっはぁ! お前が噂のヨシナリかぁ! 当たる時を楽しみにしていたぞ!!』


 デカい声が通信回線から飛び込んで来る。 

 低いバリトンが仮想の鼓膜を殴りつけるように振るわせた。


 ――うるせぇ。


 顔を顰めながら相手を見る。 プレイヤーネーム『カカラ』機体名『サガルマータ』。

 巨体に重装甲。 明らかに防御に偏ったビルドだ。 

 知ってはいたが落とすのは苦労しそうな相手だった。


 ロックオン警告。 カカラの機体の各所が展開し、無数のミサイルが吐き出される。

 撃ち落として防ぐのは無理な数だ。 変形して加速からのインメルマンターン。

 一部のミサイルを振り切るが、大半はそのまま追いかけてくる。 とんでもない誘導性能だ。


 ――鬱陶しい。


 アシンメトリーを固定しているジョイントを動かして銃口を背後に向けて発射。

 実弾の連射で次々とミサイルを叩き落とす。 再度、警告音。

 今度は正面からミサイルが飛んで来た。 ギリギリまで引き付けてバレルロールで回避、背後からと正面からのミサイルが衝突して次々と爆発。


 爆炎に紛れて変形しながらアシンメトリーの弾種をエネルギーに切り替え、チャージショット。

 貫通力の高いエネルギー弾がカカラに襲い掛かるが、高密度のエネルギーフィールドに弾かれた。


 「クソ、光学兵器じゃ無理か」


 巨体だけあってジェネレーターも巨大で、しかも複数積んでいる。 

 加えて吹雪による減衰もあるので正面突破は現実的ではない。

 まともにダメージを与えたいなら至近距離での実弾兵器、それか――ちらりと背にマウントされたイラに目を向ける。


 ――接近戦しかない。


 『やるな! だが、始まったばかりだぞ。 もっと楽しませて貰おうか!!』


 今度は機銃――束ねられた銃身が特徴的などう見てもガトリング砲だ。

 回転を始めたと同時に凄まじい数の弾丸がばら撒かれる。 

 闇雲に撃ち込まず、しっかりと回避先を狙っている所が厄介だ。


 変形しつつ制動をかけて回避。 アシンメトリーを実弾に切り替えて連射。

 当たってはいるが碌なダメージが入らずに装甲に弾かれる。

 即座に弾が切れた事でエネルギー弾に切り替えて更に連射。 


 こちらはエネルギーフィールドに弾かれて通らない。


 『いいぞ! もっと躱して見せろ!』


 またミサイルによるロックオン警告。 下は味方が居るので上に逃げるしかない。

 基本的にインメルマンターンとバレルロールの組み合わせで大抵の攻撃は躱せるが、早々に綻びを見つけないと長くは保たない。


 ヨシナリは僅かな焦りを滲ませながら敵機の観察を続けた。

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