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第474話 ユニオン対抗戦Ⅲ:本戦二回戦⑱

 「以前の侵攻イベントでですね。 拠点の一つを襲う際に奇襲を受けた事がありまして」


 思い返しながら話を続ける。 

 シックスセンスを起動させて周囲を警戒していたにも関わらず奇襲を許してしまった。

 理由は早い段階ではっきりしたのだが、問題はそれが電子戦兵器――ウイルス汚染だったのだ。


 「あ、何か言ってたな。 ウイルスか何かだっけ?」

 「あぁ、多分だけどウイルス系の電子戦兵装の類だと思う」


 ヨシナリはそう言って映像を確認するとキャリアである機体は一目瞭然だった。

 シニフィエの時はある程度、近寄った所で停止。 ややあって仕留めに行っている。


 「恐らくは広範囲は40から50メートルって所で、シニフィエ達の話から内容は範囲内の敵機のセンサー系をハックして欺瞞情報を流しての攪乱。 こいつの厄介な所は完全に術中に嵌まると喰らうまで気付けない所だろうな」

 「なら俺と厨二野郎の件はどう説明する?」


 そう言ってユウヤが映像を操作。 ベリアルとユウヤが襲われたタイミングだ。

 ベリアルの時は接近してはいるが、ユウヤの時は他に任せて自分は離れた所にいた。

 ヨシナリは少し沈黙した後、ややあって映像を引く。


 「すっげー言い難いんだけど。 多分、ウイルスを喰らったのはアルフレッドだ」


 問題の機体――アノビィの機体の効果範囲であろう場所に光学迷彩で潜伏しているアルフレッドの姿があった。 それを見てユウヤは露骨に不機嫌になり、ベリアルは納得したかのように頷く。


 「成程、死の甲虫が放った蟲は番犬の眼を侵食していたという訳か」

 「その通りだ闇の王よ。 貴公等の眼は番犬の第六感を通じ、外界の事象を捉える事を可能にしている。 それにより、死角から忍び寄る者達の視えざる一撃を可視の一撃へと堕とす。 貴公等に対して可視の攻撃は必殺となりえない。 故にその死角を突かれたのだ」


 どういう事かというと直接ウイルスを喰らったのはアルフレッドで、それにより汚染された情報を二人に流していた。 要はウイルスを媒介する為の中継器にされたのだ。

 ベリアルとユウヤがアルフレッドからのセンサーリンクによって情報支援を受けている事を逆手に取られた結果になる。


 ――これは気付けと言う方が無理な話だろう。


 実際、こうして俯瞰して見てようやく手品の種が割れた状態なのだ。

 リアルタイムでの看破は現実的ではない。 


 「あの虫野郎。 今度、ランク戦で出くわしたら八つ裂きにしてやる」

 「番犬の眼を過信しすぎた――いや、研鑽が足りなかったという訳、か。 屈辱ではあるが学ばせて貰ったぞ。 して魔弾の射手よ。 蟲による攪乱はどう防ぐ?」

 「鋼の現身には自らの在り方を視る術が存在する。 それを用いれば駆除は可能だ」


 要はステータスを確認する項目があるので、ウイルスチェックは可能だ。

 滅多に使わない項目ではあるが、実は最初から実装されている。 

 ただ、問題は自動検出は出来ないので、手動操作で調べる必要があった。


 「す、すまない。 ヨシナリ君、もう少し簡単に頼む」

 「え? あぁ、失礼しました。 えっとですね。 トルーパーには機体のステータスチェックの項目があってそこでウイルスの有無を調べられるので、発見すると『駆除しますか?』って指示を求められるので実行すれば回復は出来ます。 違和感を感じたら調べるようにする癖をつけた方がいいかもしれませんね。 ただ、今回のケースだと喰らったのはアルフレッドなのでアルフレッドに定期的にウイルスチェックするように指示を出せば次からは防げるかと思います」


 侵攻戦の後、一応は対電子戦用の装備がないか探しはしたが、売っていなかった。

 恐らくは今後追加されるか、オーダーする必要があるかもしれない。

 気を取り直して映像を切り替える。 次はヨシナリとタヂカラオだ。 


 「うわ、これ凄げぇな」


 思わずといった様子でマルメルが呟く。

 ヨシナリとヤガミの戦いは俯瞰で見ると圧倒される内容だった。

 凄まじい勢いでヨシナリを中心にピンボールのように空中を反射するような機動でヨシナリに襲い掛かる。 それをヨシナリが際どい所で躱し続けていた。


 「ヨシナリお前、よくこれを躱し続けられたな」

 「いや、もう一回やれって言われて成功する自信ないよ。 マジで」


 改めて見直すとヨシナリもよく躱せたなと震えてしまう。

 早い段階でヤガミの高速移動の仕組みを理解できた事が大きい。

 恐らくシックスセンスがなければ初撃か二撃目で終わっていた可能性が高い。


 「そうなん? でも、ちゃんと視えてる感じするけど?」

 「あぁ、来る方向は分かってたんですよ。 ヤガミさんの攻撃って基本的に真っすぐに突っ込んで来るだけなんで飛んでくる方向さえ分かればまぁ、躱すぐらいは何とかって感じですね」


 彼女の攻撃と移動の肝は爪先から生み出す足場だ。 

 恐らくはエーテルに近い代物だろう。 そいつを蹴り、同時に推進装置を用いる事で瞬間的に大きな加速を得て突っ込んで来る。 


 つまりは足場の角度で飛んでくる軌道は読めるのだ。 

 そこに気付けば何とか躱す事ができる。 ただ、躱す事は可能だが、反撃ができない事が問題だった。

 とにかく攻撃の回転が速い。 移動と攻撃を同時に行っている関係で躱しても即座に次が来る。


 仮に反応できたとしても跳ねるような独特な機動の所為で反撃が難しい。

 これは機体性能よりもヤガミというプレイヤーの反応の早さからくるものだろう。


 「躱せるんだけど、反撃がなぁ……」


 闇雲に撃っても当たらないので牽制程度の効果しかない。  

 これを攻略するのは今の自分一人では無理だ。 Aランクに通用するスペックと自負していたつもりだったが、機体の性能で追いつけてもヨシナリ自身の技量がまだ足りない。


 映像ではホーコートが参戦し、ヨシナリと二人での挟撃で挙動を制限し、追い込んだ所でタヂカラオの方へと誘導して一撃。 ここで仕留められれば良かったのだが、フォーカスするとインパクトの瞬間に身を捻ってダメージを減らしている。 


 「いや、タイミングも完璧だった。 僕としてもあれで仕留めたと思ったんだけどね」

 「俺なんてここでついでみたいに撃墜されたんすけど……」 


 タヂカラオは少しだけ悔しそうに呟き、ホーコートはやや自嘲気味に笑う。 

 少なくないダメージを負ったヤガミの動きが露骨に悪くなる。 

 ここが勝負所と判断したヨシナリはパンドラの力を解放してスペックをブースト。


 決着へと向かう。

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