エンジェルタイプの一斉攻撃が巨大なカタツムリに殺到する。
無数の光線が堅牢な外殻を貫き、瞬く間にその巨大な威容を破壊――しなかった。
エネルギー兵器による攻撃は全て到達前に掻き消され、実弾兵器は外殻の表面を僅かに削るだけで目立った損傷になっていない。
「あぁ、クソが! 前回はそもそも碌に届かなかったから検証できなかったが、マジでエネルギー系の武装は無効かよ」
「一定以下のダメージカットじゃなくて完全無効化か?」
「つーか、エンジェルならまだしもプリンシパリティの攻撃が通ってない時点で無効化で間違いないっぽいな」
「一応、実弾は通るが、あの装甲を貫きたいならパンツァータイプの最大火力を引っ張って来ないと無理じゃね?」
「防壁の上の連中に頼むか?」
「届かねえよ。 前回、一方的に撃たれて終わっただろうが」
「あぁ、クソ。 マジでエネルギー兵器通らねぇな。 こんな事ならパイルバンカーか何か持ってくればよかった」
「いや、それは止めといた方が良さそうだぞ」
その言葉を証明するかのように一機のエンジェルタイプが肉薄し、手に持ったエネルギーブレードで接近戦を試みようとしていた。
対するカタツムリの装甲表面の一部がスライドし、無数のレンズのようなものが現れる。
同時にカメラのフラッシュのように瞬き、次の瞬間にエンジェルタイプが爆散した。
「うわ、何だあれ?」
「爆発前にぶん殴られられたみたいにひしゃげてたから衝撃波か何かっぽいな。 似た武装を見た事があるぞ」
「出が早いのは見りゃ分かるが、躱せない程か?」
「多分、エネルギー兵器の無効化範囲に入るとウイングの出力も落ちるんじゃないか? さっきやられた奴、明らかに動きが鈍かったぞ」
「だったら俺達の出番だなぁ!」
そう叫んで突っ込んでいったのはキマイラタイプだ。
射程内に接近し、突撃銃で銃弾を叩き込む。 いくつかのレンズが破損したが、装甲を貫通する程ではない。
「一応、効いてるっぽいが、相当喰らわせないとまともなダメージにならんな」
カタツムリの外殻の渦巻きの中心が点灯し、パターンをなぞるように光が伸びていく。
「あぁ、ヤバい。 エネルギーのチャージを始めたぞ」
「ぶっ放すまでどれぐらいだ?」
「前回の経験で言うなら二、三十分はかかったはずだが、二発か三発撃たせたら終わるぞ」
「当たりどころが悪かったら一発で基地の機能がマヒするから下手すりゃそれで詰む」
「外殻が無理なら内部から破壊を狙おうぜ!」
一機のキマイラタイプが機体を変形させてカタツムリの砲身の内部に飛び込もうとする。
プレイヤーはうおおと雄叫びを上げて突っ込むが砲身に入る直前に何かに衝突して砕け散った。
「……あー、これは発射まで通れない感じかぁ」
「取り巻きもいるからこいつにだけ集中できないのも痛いな」
「まぁ、実弾兵器を持ってる奴が削りつつ、取り巻きの排除を優先って所か」
「それか、Aランクの連中に期待するかだな」
敵の巨大兵器の出現に排除の難しさ。 前回の経験という少ない情報からプレイヤー達は状況の打開方法はないのかと戦いながら知恵を巡らせる。
「うははは。 もうどうにでもなれって感じだなぁ!」
「確かに。 もう笑うしかないな」
ヨシナリとマルメルの二人は基地内を走り回りながら空に向かって攻撃を続けていた。
レーダーの表示を見る限り、防壁はまだ生きてはいるがそろそろ時間の問題だろう。
空中に居る蟻型エネミーの出現で前線の負担が激増し、基地内にも飛来するので防壁の上で攻撃している者達の行動にも支障が出ていた。
蟻型は蜂型と違って闇雲に攻撃を仕掛けずにプレイヤーの撃破を優先しているらしく、積極的に襲って来る。 数を減らす事を念頭に置いているのか真っ先に低ランクのプレイヤーを狙っているのも意地が悪い。 その為、屋上などの目立つ位置で立ち止まっていると真っ先に狙われるので、早々に放棄して逃げ回りながら戦っていたのだ。
ヨシナリも狙って撃つなんて悠長な真似はできないので、狙撃銃は放り出して落ちていたミサイルランチャーを空に向かって放ち、残弾がなくなったと同時に放り捨てる。
初期の狙撃銃や突撃銃はこの状況では役に立たないので、その辺に落ちている強そうな武器を拾っては使い捨てていた。 特にエネルギー系の兵装はソルジャータイプではエネルギーの供給源を別で用意しなくてはならないので拾っても使えないので実弾兵器だけになるが。
機体の損耗もそろそろ酷くなってきたので本来ならハンガーでメンテナンスを行う必要があるのだが、この状況でハンガーに入るのは自殺行為だ。
実際、複数あるメンテナンス用の設備のいくつかは破壊されており、無防備になった多くの機体が施設と共に使い物にならなくなった。
「お、ミサイルポッド発見!」
マルメルが走りながら大破した機体が持っているミサイルポッド拾って持ち上げる。
「これ固定武装っぽいけど外部から操作できるのかなぁ」
「確か持ち主が死んでたら行けたと思う」
「えーっと、うん行けそう。 後は適当に敵機をロックして発射か」
いちいちターゲットを選んで狙うなんて真似はせず、当てられそうな相手だけを狙って攻撃。
ヨシナリも落ちていた突撃銃を拾ってこちらを狙って突っ込んで来た蟻型をハチの巣にし、弾が切れたので投げ捨てて次の武器を探して走る。 それの繰り返しだ。
今の彼等に戦況を変える力はないので、精々生き残ってささやかな抵抗を続ける事だけが二人にできる精一杯だった。
マルメルはここまで生き残れてラッキーと思っているので、目先の事にだけ集中している。
そしてヨシナリも目先の事に集中せざるを得ない状況ではあるが、意識は遥か彼方の前線へと向いていた。 このイベントの一番美味しい場面に立ち会えない歯がゆさで、奇妙な焦燥感すら感じている。
空を飛ぶエンジェルタイプを見て、心の底から羨ましいと思う。
俺にもアレがあれば前線まで飛んで行って、前回参加プレイヤーのヘイトを一身に受けている巨大エネミーの威容を直接見る事ができるのに。
――あぁ、畜生。 俺もあそこに混ざりたい。
英雄願望がない訳ではないが、一番楽しい場面で仲間外れにされたかのような疎外感はじりじりと胸を焼く。