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第19話 イベント 防衛戦⓾

 蟻が現れて戦況が不利になるかとも思われたが、前回のイベントが忘れられないプレイヤー達のテンションは大きく上がり、全体の士気の向上にも繋がっている。

 蟻型エネミーに対しての憎しみと怒りは彼等にとっての燃料としていい方向に作用したのだ。


 確かに士気の向上は喜ばしい事ではあるが、厄介な増援が出現した事に変わりはない。

 特に空中での白兵戦を行える敵機が現れた事はプレイヤー側からするとかなり苦しい状況だ。

 地上戦力――特に遠距離から狙い撃ちにしてくるヤドカリ型の処理が滞る事になる。


 「クソ、上の連中が蟻に夢中になっちまって後衛潰しを止めちまったな。 弾が飛んでくるようになったぞ」

 「どうでもいいから撃ちまくれ。 防壁の強度も落ちてきている。 これ以上、芋虫共に張り付かれると厄介だ」

 「弾! 誰か弾を頼む、そろそろ残弾がヤバい!」

 「エネルギーパックの予備もだ!」


 息切れを起こした機体のケアをする為、低ランクプレイヤー達は必死に弾薬庫と防壁を往復している。

 その間にも敵の波は絶え間なく迫り続けていた。


 押し留める為に彼等は防壁の上でひたすらに銃弾の雨を降らし、敵の攻撃をシールドで防いでいたが無敵ではない。

 一部の機体が攻撃に耐えきれず、シールドを維持する為のエネルギー切れで無防備になった瞬間に撃ち抜かれて撃破される。 街の中では無数の蜂が基地内に銃弾をばら撒き、それを迎撃する為に街中から空に向かって無数の銃弾やエネルギー弾が飛んでいた。


 熱狂しているプレイヤー達は気にもしていないが、比較的ではあるが冷静な者達は厄介なと表情を歪める。

 前回の全く同じであるならしばらくの間は新しい種類の敵は出ない。 少なくともあと数時間は増えないだろう。 ただ、バリエーションは増える。


 具体的にはどうなるのかと言うと――それが姿を現した。

 一機のソルジャータイプが火達磨になって空中で爆散。 それを行ったのは蟻型のエネミーの一体だったが、腹の部分からホースのようなものが伸びておりそれが手に持つ武器に繋がっていた。


 吐き出されるのは炎。 つまりは火炎放射器だ。

 普通の液体燃料ではないのか、トルーパーの装甲ですら容易く焼き尽くして内部へと侵食し、即座に爆発させる。 突撃銃、ブレードと来て今度は火炎放射器だ。


 この調子で持っている武器のバリエーションが増えていき、生き残るには柔軟に捌く対応力が求められる。 


 「まぁ、前線で撒かれる分、まだマシだな」

 「だな。 見ろよ、下の連中も焼けてるぜ? ざまぁ」


 空中で敵機を撃墜しているプレイヤーが、敵の同士討ちを鼻で笑う。

 火炎放射器は外すと焼けた燃料が下に落ちるので敵の一部が巻き込まれて自滅するのだ。


 「前の時は基地に撒かれたからマジで地獄だったからな。 それに加えてアレだろ?」

 「だなぁ。 俺としては蟻よりはあのクソッタレなカタツムリ野郎をぶっ飛ばしたいから早く来て欲しいな」

 「あいつ等はもうちょっと後だろ。 まだ火炎放射器持ちしか来てないし――つーか、他何がいたっけな」

 「色々出て来たから全部は覚えてねーよ。 エネルギー式の突撃銃とブレード、火炎放射器までは出て来たな。 後は腹のタンクが大型化したガトリング持ちとか羽が四枚になった槍持ちとかじゃないか」

 「あぁ、槍いたなぁ。 あいつら相打ち上等で突撃してくるから嫌い」

 「ガトリング持ちとか残弾どうなってんだよってぐらい撃って来るの死ぬほどうざかったな」

 「まぁ、これからいくらでも出てくるんだが」


 Dランクプレイヤー達はこの日の為に対策を練ってきただけでなく、ランク戦で腕を磨いて来たのだ。

 今の敵程度でそこまで焦る事はなかった。 それに――


 「そろそろ時間だ。 Cランクの連中が出てくるからしばらくは楽できそうだ」


 戦況は膠着していたが、その流れを大きく変える存在が現れる。

 タイマーがゼロになりリセットされ、同時に無数の機体が出現。

 それらは高機動用にカスタマイズされた機体すらも凌駕するスピードで瞬く間に前線に到達する。


 形状は従来のトルーパーと違って人型を完全に逸脱しており、流線形の戦闘機のような形状だった。

 戦闘機は内蔵されたエネルギー式の機銃で蟻を次々と撃墜しながら突っ込んで来る。

 Dランクプレイヤー達の脇をすり抜け、急上昇。 そして空中で変形して人型になった。


 これこそが限られたプレイヤーしか手に入れる事ができない可変フレームを利用した機体だ。

 名称はキマイラⅠ型。 戦闘機と人型の二つの姿を持った可変機だ。

 小型化と大容量化に成功した内蔵ジェネレーターによって高機動と高出力を両立させている高級機で、持っている者はCランクでも平均より上位のプレイヤーだけだ。


 「お疲れぇ。 ここからは俺達も混ざるぜ」

 「やっとだよ。 四時間も待たせるとかこのクソゲーが、ふざけんなよ」

 「俺なんてわざとランク落そうかとも思ったぐらいだぜ」

 「取りあえず、うざってえ蟻ども掃除しようぜ。 散々、待たされて苛ついてるんだよ」

 「だな、あのカタツムリが出てくるまで時間あるし、待ってる間に蟻を痛めつけて遊ぼうぜ」


 ソルジャータイプを扱っている者も多いが、装備のランクが上なので動きが他よりも明らかに違った。

 何よりもキマイラタイプは他とは段違いの機動性を見せ、戦場を文字通り切り裂く。


 「はっはぁ! 気ん持ちいぃぃぃ!」


 そう叫ぶプレイヤーは戦闘機形態で戦場を飛びながら地面を舐めるようにレーザー砲で焼き払っている。 彼等はエネミーを蹂躙する事と、何よりも今まで散々待たされた鬱憤を晴らすかのように暴れまわっていた。 




 「オラオラどうしたどうしたぁ!」


 変化があったのは基地の内部もだ。 現れたCランクプレイヤーは低ランク帯のプレイヤーでは手に入らない凄まじい武器を用いて次々と敵を屠って行く。

 両肩に巨大なコンテナを背負ったパンツァータイプが追尾性能を持ったエネルギー兵器を乱射。


 ロックした蜂を過たずに打ち砕く。 


 「んほぉ~! ホーミングレーザー気持ちいいいいいい!!」

 「個人戦じゃゴミだけど、基地内の電源に直接繋げば撃ち放題だから最高だぜ~」

 「防衛戦は外付けより直引きでしょ! レーザー撃ちまくり気持ち良すぎて○○ピーしそう~」

 「お前、規制喰らうワード止めろ。 ピー音入って笑っちまう」

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