ある晩。
友人のヤリハルと飲みに出た弥命は、帰り道に公園を抜けようとしていた。
「おい、妙な気配すんな」
「ああ。害はねーだろうが」
ヤリハルに言われ、弥命は頷きながらも辺りを軽く見やった。池の側にある一本の木に、影が揺れている。
「あれか」
弥命が言いながら顎で示すと、ヤリハルも納得したように頷く。
「あれだな」
通り道だが、二人は無視を決め込み、その木の側を歩く。無視する気でいた為、弥命は影をちらと見た。木に吊られ、揺れているのは甥の旭だった。弥命はそのまま、池を見る。真っ黒な池の真ん中で、白く光る男がにやにやと笑って二人に手招きしていた。
「野郎……」
弥命は凶悪な光を目に宿し、木に揺れている旭に飛び蹴りを食らわせた。笑う男へとふっ飛ばされて行く中で、旭は真っ黒な影となり男もろとも池に落ちる。水音はしない。
「お前、相変わらず足出るの早えな。笑ってたヤツ、すげー顔で落ちたぜ」
「嫌なもん見せて来たから、腹立ったんだよ」
呆れた表情のヤリハルに、弥命はいつもと変わらぬ調子で答える。
「行くか。気分悪いから、しばらくここは通らん」
「もう一軒行くか。お前の店とか」
「あれ見た後でかよ。寝言は寝て言え」
二人は駄弁りながら、公園を後にした。