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人通りのまるでない道を僕らは歩く。
駅前の商店街や観光客向けに整備されたエリアには数えるほどしか人の姿はなく、全く活気というものがみられなかった。
シャッターの閉まった店が並び、数少ない開いているお店の店員も、みんな力なくぼーっと突っ立っているだけのようだった。
時折見かける会社員とみられる人たちも、力ない足取りでふらふらと歩いていて、相変わらずなんとも気持ちが悪かった。
コンビニを覗いて見ても人影はなく、店員も客の姿もそこにはなかった。
「……なんか、ひどくなってないか?」
眉間に皴を寄せながら陸が言って、
「うん」
と僕は頷いた。
陽葵もかぶりを振って、
「なんか、怖い」
と小さく呟く。
千花も深いため息を吐き、
「早くなんとかしないとね」
それに対して、潮見が「そうだよ」と口にして、
「だから、皆で頑張らないと!」
元気よく片腕を天へ突きあげた。
真帆さんも「うんうん」頷いてから、
「そうですね。これだけの人数がいるんです。きっと今日中に解決できますよ!」
何を根拠にそう言っているのか、朗らかな笑顔で皆の顔を見渡した。
それから、「あ、そうそう」と思い出したようにパチンと両手を打ち合わせてから、おもむろに真帆さんはショルダーバッグに手を突っ込むと、例の虹色ラムネを取り出して、「はい、どうぞ」と全員に一本ずつ、ラムネの瓶を手渡していった。
まるで四次元ポケットか何かのようで、本当、いったいどれだけのものがあのショルダーバッグの中には収められているのだろうか。
「皆さん、一応こちらを飲んでおいてください。気休め程度でしかないかもしれませんけど、それでも魔力を補充しておくに越したことはないと思うので」
「ま、魔力?」
陸が驚いたように目を丸くして、受け取った虹色ラムネを太陽の光にかざしながら矯めつ眇めつして、
「えぇ? どうみたって普通のラムネにしか見えないけど、魔力? これが?」
「はい、虹の魔力が含まれた特別なラムネです!」
真帆さんは口元に笑みを浮かべて、
「私たちも今、徐々に徐々に身体から魔力が地に吸い取られている状況ですからね。虹色ラムネでそれを補いながら、魔力の流出している地点を探し当てましょう!」
「虹の魔力……」
陸は僕の方に顔を向けて、「本当に?」と口ではなく眼で訊ねてきた。
僕はそれに対して頷き、
「まぁ、飲んどきなよ。お守りみたいなもんだと思えばいんじゃない?」
「ん、まぁ、そうだな。わかった」
それから陸もみんなと一緒にラムネの栓を開け、ぐびりとそれを軽く仰ぎ飲んで、
「――うん、普通に美味いな!」
魔力が云々とか、全然わからんけど! と苦笑した。
真帆さんは全員がラムネを飲み干すのを確認してから、空いたラムネ瓶を回収しつつ、
「もし身体が妙に怠くなってきたら、遠慮せずに言ってくださいね。まだまだ在庫はありますので!」
そう言って、真帆さんは再びショルダーバッグの中から未開封のラムネを二本、つまんで見せた。
陽葵と千花は、そのいくらでもモノが出てくるショルダーをしげしげと見つめてから、
「……いいなぁ、私もこれ、ほしいかも」
「うん、いいよね、こんなにたくさん入れてもパンパンにならないって、すっごく便利。見た目も可愛いし、あたしもほしいなぁ」
すると真帆さんは「ぷぷっ」と噴き出すように笑みをこぼして、
「でしたら、今度是非うちのお店、魔法百貨堂にお越しください」
それからショルダーをこれ見よがしに見せつけながら、
「お安くしておきますよ?」
ちゃっかり、仕事の営業をしやがったのだった。