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第1話

   1


 日曜日だというのに町全体に活気が無く、閉店している店の数はあからさまに増えていた。


 街を歩く人々も少なく、遠方から来ているのであろう観光客が、至る所に掲げられた臨時休業の札に大きなため息を吐いているのを何度も目にした。


 逆にうちの店は突然増えた地元民以外の客にてんてこ舞いだ。


 普段なら近場のオッサンの集会場と化していた店内が、昨日の夜は知らない顔で埋め尽くされて、僕自身も店の手伝いで夏休みの課題もまともにできないような状況(もともとあんまりしてないけれど)だった。


 最後の客が帰ってやっとひと息ついたところで、母親が「今日はご苦労様」と追加のお小遣いをくれたので、まぁ、いいか。


 どうやら店の売上も過去一を記録したらしく、父親も昨日の夜はぶっ倒れるように眠ってしまった。


 いつもの大きないびきである。


 とはいえ、僕自身も日中は真帆さんや潮見たちに連れまわされて正直へとへとだったうえでの店の手伝いだったので、父親の大いびきをほとんど気にすることなく眠ることができた。


 そして朝。つまり今日、日曜日。


 昨日と同じ公園に集合すると、そこには真帆さんや潮見、陽葵に千花たちに加えて、

「――陸」

 僕は思わず目を見張ったのだった。


「よう、ハルト」

 陸もどこか気まずそうに手をあげる。


 潮見はそんな僕らをにやりと見て、

「人手は多い方が良いでしょ?」


「それは、まぁ、そうだけど……」


 まさか、陸もあの話――真帆さんと潮見、そして坂の上の魔女が本当に魔女で、今町で起こっている無気力症候群の原因が魔力の流出である、なんて話を信じたというのだろうか。


 ……いや、そんなはずないか。じゃないと、こんな困ったような表情なんてするはずがない。


 陸は僕のところまで歩み寄ると、

「なぁ、マジの話なのか?」

 と訊ねてくる。


「真帆さんや潮見から、なんか見せられた?」


「……なんか、飛んでた」


「うん」


「あれ、マジ? なんか手品的な何かだよな? 本気で魔法とか言わないよな?」


 まぁ、僕も似たような心境だったから、陸の気持ちもよくわかる。


 けれど。


「僕も見せてもらったけど、たぶん、現実なんじゃない?」


「……マジか」

 陸は呟くようにため息を吐き、真帆さんや潮見を振り向く。


 真帆さんはほほ笑んでいたし、潮見は僕らの会話に楽しそうに口元を歪めている。


 それから陸は観念したように首を横に数度振って、

「わかったよ、信じるよ」

 肩を落としながら、そういった。


 潮見はそれを見て、うんうんと満足したように何度も頷く。


 ほら、本当だったでしょ、とでも言いたそうだ。


 僕は改めて全員を見回し、陸に顔を向ける。


「……そういえば、優斗は?」


 陸が居るのなら、優斗だって呼ばれたはずだ。蒼太は――たぶん、数日前に無気力症候群になってしまったようだからそもそも呼ばれていないだろう。


 すると陸は眉間に皺を寄せて、首を小さく横に振っただけだった。


 それだけで、十分だった。


「だから来たんだ」


 呟く陸に、僕は「そうか」と小さく答える。


 それから真帆さんに視線を向けて、

「それで、今日はどういうふうに動く予定なんですか?」


 真帆さんはにっこりとほほ笑んで、全員を見渡してから、

「基本的には昨日と同じ、二人一組で町の中を巡りたいと思っています。けれど、探し方まで同じだといつまで経っても魔力の穴は見つからないかもしれません。できれば今日中に穴を見つけ出して、塞ぎたいと思っています。これを見てください」


 そう言って真帆さんが取り出したのは、この町の地図だった。マーカーの色によって各地区別に塗り分けられており、至る所にバツ印が書き込まれている。見た感じ、たぶん、これまで真帆さんが調べたところと、昨日僕たちが回ったところだろう。よく見れば古くからある神社やお寺にはその殆どにバツ印が見られるけれど、中心部の商店街周りには殆ど手が付けられていないようだった。たぶん、観光客向けに大々的に開発された振興地区だ。


「この数日間に町の中を巡って色々と調べてきましたが、恐らく最も怪しいのはこのあたり」

 真帆さんは人差し指で駅前の商業地区辺りを丸くなぞって、

「私もこれまで何度もこのあたりには行っているのですが、正直魔力の流れをそこまで感じられなかったので、あまり気にしていませんでした。魔力の起点やもともと流れていたところ、それこそ祠や神社、お寺なんかを重点的に調べていたので、このあたりは殆ど手付かずになっているんです。なので、もしかしたら私がまるで気付かないどこかに、魔力が流出している箇所が有るのかも知れません。それこそ開発時の大々的な工事によって、見えないところ、魔力の流れを感じにくい場所に大きな魔力の穴が空いてしまった可能性があります」


「それ、本当に僕らにも見つけられるの?」


 そんなの、全くの素人である僕らに見つけられるとは到底思えないんだけれども。


 昨日だってあんなに町の中を巡って解らなかったんだから。


 真帆さんも、僕の問いに関して素直に首を横に振ってから、

「確かに、皆さんに見つけられるかどうか、私にもわかりません」

 と口にする。

「けれど、わからないからといって、このまま魔力を流しっぱなしにしていては、いずれ死者が出るかも知れません。今はもう、そういう段階なんです。たぶん、それだけの魔力が流れているのだとすれば、魔法の使えない皆さんにもその場に立てばわかるんじゃないかと思います。極端に身体が重くなるような場所、疲労感を感じる場所、何かを持っていかれそうな場所、そんな場所です」


「……そういわれてもなぁ」

 陸も眉間に皺を寄せながら、腕を組んだ。


 それを見て、しびれを切らしたのか、潮見がパンパン両手を叩き、

「とにかく、とりあえず行ってみようよ。こんなところでグダグダ話してたって先には進めないし、時間の無駄にしかならないんだから。陸、せっかくあんたにも私が魔女だってこと明かしたんだから、ちゃんと働いてもらうからね」


「な、なんだよ、それ、どういう理屈だよ……」

 陸はやれやれと、肩を落とした。

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