4
午前中、僕と真帆さんは思い当たる限りの魔力の集まりそうな場所(真帆さん曰く、そういう場所には昔から祠や石碑のようなものが建てられているらしい)を巡り歩いたけれど、結局どこもハズレだった。
そもそも真帆さん自身もこれまでの数日間で色々な場所――それこそお寺や神社、川、その他史跡を歩き回って魔力の流出している穴を探し続けていたのだから、そう簡単に見つかるわけもない。
僕らはもう一度駅前の商店街に集合し、近くのカフェのテラス席で昼食(真帆さんがおごってくれた)を摂ったあと、今度はメンバーを入れ替えて捜索することになった。
メンバーを入れ替えることによって視点が変わるかもしれない、という潮見の意見によるものだった。
とはいえ、“魔力”なんてものを理解しているのは真帆さん、潮見のふたりしかいないので、入れ替わるのは僕と陽葵、千花の三人。この三人を真帆さんチームと潮見チームのどちらにどう割り振るか、ってことになるのだけれど、これは小学生以来のグーパーで分けようということになって、結果潮見チームに僕と陽葵、真帆さんチームに千花、ということになった。
陽葵と一緒に回れることになって、一瞬心の中で「よっしゃ!」と顔には出さないように喜んでいたのだけれど、
「……」
何故かにやにやしている潮見を見て、僕は思わず、
「……なんだよ」
と口元を歪めながら訊ねた。
「別に?」
潮見は嘲るように答え、視線を陽葵に向ける。
陽葵も首を傾げながら、
「え、なに?」
なんて口にしたけれど、それに対しても潮見は、
「なんでもないよ」
とやはりクスクス笑うばかりだった。
それから僕らはカフェをあとにして、今度はまだ調べ切っていない町の東側に足を向けた。
観光する場所の多い駅周辺や西側と異なり、東側は昔ながらの町並みをまだ残した寂れた感じがして、なんだかちょっと懐かしい感じがする。
僕の家も町の西側で、生活に必要なものはだいたい駅周辺で買えるものだから、町の東側なんて意識して「よし、行こう」と思わない限りそうそう用事なんてありはしない。
懐かしい感じはするけれど、それと同時に知らない町って感じでもあった。
「ここまで来ると、観光客って少ないんだな」
なんとなくそんなことを口にすると、隣を歩いていた陽葵は、
「そうだね。このあたり、そんなに見るものもないし、古くからある海辺の住宅街って感じがするよね」
陽葵のいう通り、建っている民家の古臭さは半端ない。駅から西側は結構新しい建物や家でひしめいているのに、こちら側は壁に亀裂の入った家や、いつからあるのか解らない木造の廃屋、灰色の汚れの目立つボロいアパートなんかが建っていたりなんかして、道行く人々も年寄りばかりで若い人の姿をあまり見かけなかった。
まぁ、これだけ暑いとそうそう家から外に出たくないし、そもそも今は仕事で家を留守にしているのかもしれないのだけれど、それにしても駅周辺を歩いている人たちの年齢層と比べても雲泥の差があった。
同じ町のはずなのに、地域によってこんなに住んでいる人の年齢層って違うんだな、と思うと何だか面白い。
「ミナトはあれから体調、よくなった?」
訊ねると、陽葵は「う~ん」と少しばかり唸ったあと、
「昨日とあんまり変わらない感じ。真帆さんのくれた虹色ラムネのおかげで少しは楽になったみたいだけど、やっぱりご飯を食べるのも苦しそうで……」
「そっか……」
僕は苦しむミナトを思い浮かべ、胸が痛くなるような思いにため息を吐いてから、
「早く“穴”を見つけないといけないな」
「――うん」
こくりと頷く陽葵。
すると数歩前を歩いていた潮見(と、ついでにルナ)もくるりとこちらを振り向いて、
「そうそう。早く“穴”を見つけてふさがないと、今よりも被害者?が増えちゃうから、あたしたちが頑張らないといけないわけ」
言って虹色ラムネを一口含む。やはり魔女には手放せないものらしい。
「そうだね――あれ?」
すると陽葵がふと何かに気付いたように足元に目を向け、立ち止まった。
「どうかした?」
駆け寄ってくる潮見に、陽葵は道路に転がった石を指さしながら、
「何か書いてある」
見れば、そこにはこぶし大の丸い石が道路わきに転がっていて、よくよく見れば、その表面に何か文字が刻まれている。
けれど、それはひらがなやカタカナ、漢字とかじゃなくて、少なくとも僕の知らない、記号か何かのような文字がうっすらと見える程度だった。
よく陽葵はこれに気付いたなぁ、と感心していると、潮見はそれを拾い上げ、じろじろと見つめながら、
「これ、魔女文字だね」
「魔女文字?」
「そんなもんがあるのか」
陽葵も僕も、思わず聞き返してしまう。
潮見はひとつ頷いて、
「ただ、古すぎてあたしにもほとんど読めない。水を表す文字と、これは――龍?」
「龍? どういうこと、メイちゃん」
「ほら、龍といえば、よく水神として祀られてたりするでしょ? そんな感じのことだと思うんだけど、それ以上はあたしにもよくわかんないや」
「もしかして、これが無気力症候群に関係あったりする?」
僕が訊ねると、潮見は眉を寄せて首を傾げて、
「う~ん、違うような気がするけど、一応真帆さんやおばあちゃんに聞いてみようか。あたしも修行中だから、よくわかんないんだよね」
「……おばあちゃん? メイちゃんの?」
すると潮見は「あぁ、違う違う」と口にしてから、
「八千代おばあちゃん。みんなが坂の上の魔女って呼んでる人。あたしの師匠だよ」