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第4話

   4


 真帆さんの正体が魔女。


 それだけでも意味がわからないのに、潮見まで魔女だと言われたって、とてもじゃないが信じられるわけがない。


 このふたりは何を言っているんだ? 僕をからかっているのか? 魔女なんてものはファンタジーの産物で、現実に存在するなんて、そんなこと――


 けれど、ふたりの様子は僕をからかっているようには全然見えなくて。


 真帆さんも潮見も大真面目な様子で、僕もそこにあると知らなかった(というより、意識してこなかったから気付いていなかった)小さな祠を、まじまじと見つめ、しきりに手で触れ、何度もその周囲をぐるぐる回って、

「――どうですか?」

 潮見の問いに、真帆さんは「う~ん」と唸ってから、

「たぶん、違うと思います。確かに魔力は感じますけど、ここは地力のタマリ場でしかないみたいです」


 そっかぁ、と残念そうに空を仰ぎ見る潮見。


 僕はそんなふたりに、

「タマリ場、って?」


 すると真帆さんは「あぁ」と口にしてから、

「魔力というものはある種の流れというものがあるんです。川の流れを想像してもらえれば、わかりやすいかもしれません。ここはその魔力の流れの中で、一時的に魔力がたまっている場所――池みたいなものですね」


「池? 魔力の?」


「そうですそうです」

 真帆さんは何度か頷いて、

「ですが、ここもその魔力が枯渇しかかっているようです。ここから更にどこかへ流れている感じですね。けれど、いったいどこへ――?」


「魔力の流れを辿ればわかるんじゃないの?」


 潮見の言葉に、真帆さんはバッグから小さな丸い形の何か――たぶん、方位磁石? を取り出すと、それに目を向けながら、

「……ダメですね、全く反応しません。魔力磁石の魔力すら吸い取られちゃってます」


「アレはどうなの?」


「アレ?」


 首を傾げる真帆さんに、潮見は「ほら」と真帆さんのバッグを指さして、

「虹色ラムネ」


 あぁっ、と真帆さんはバッグから虹色ラムネ(本当に何本入っているんだろう)を取り出すと、おもむろにその中身を魔力磁石にばしゃりとかける。


 それを見て、僕は思わず眼を見開いて、

「な、なにやってんの?」


「魔力を注いでみたんですよ」


「魔力? 虹色ラムネが?」


 どういうこと?


「虹色ラムネの中には、少量ですが虹が含まれているんです」


「は? 虹?」


 そうです、と真帆さんは頷いて、

「虹は魔力でできています。虹色ラムネは、その虹を飲料用に加工したものなんですよ。本来虹は飲食するものではないですし、大量に摂取してしまうと魔力に酔ってしまうのですが、それでも美味しいものなので、どこかの魔法使いが手軽に飲めるよう作ってみたら大ヒットしちゃいまして。今では魔法使いたちの夏の定番になっているんです」


「魔法使いたちの、夏の定番……?」


「はい」


「魔法のラムネって言ってたけど、本当に魔法だったの?」


「はい」


 だから、そう言ったじゃないですかぁ、と笑う真帆さん。


 でも、それじゃぁ――


「どうして、うちの伯父さんや、竹田の兄ちゃんは虹色ラムネを飲んでたんだ? どこから手に入れたんだよ」


 呟くように口にすると、潮見が僕に振り向いて、

「竹田くん? それならあたしだよ。あたしが竹田くんにあげたの。バイト先が一緒だから」


「潮見が?」


「うん、そう。あそこはお父さんが無気力症候群で仕事を辞めちゃって、竹田くんが頑張っているでしょ? 一時しのぎでしかないけど、それでも竹田くんまで倒れちゃったら本当に大変だから。あとは、たぶん八千代さんが知り合いに配っているみたいだから、それじゃないかなぁ」


「それだと、うちの伯父さんと八千代さんが知り合いってことになるけど――」


「知らないわよ、そんなことまで」

 と潮見は呆れたように小さくため息を吐いて、

「でも、虹色ラムネは魔法使いの間でしか基本的に流通はしてないから、どこかで貰ったのは確かじゃない?」


「そ、そうか……」


 よくわからないけれど、とりあえず僕は納得する。


 納得しなければならないほど、今の僕は頭がパンクしてしまいそうな状況だった。


 そんな大真面目に魔法とか魔力とか魔女とか魔法使いとか言われたって、どこまで信じていいのか解らない。


 虹色ラムネの正体が虹を飲料用に加工したものだとか、それ、本当?


 若干混乱気味の僕の前で、潮見は真帆さんの持つ方位磁石――魔力磁石を覗き込んで、

「どう? 動く?」


「う~ん、ダメですね。上からラムネをかけてる間はくるくる回りますけど、たぶん、虹の魔力に反応してるだけっぽいです」


「そっかぁ……」


 真帆さんもため息を吐くと、濡れた魔力磁石をハンカチで拭いてバッグに収め、

「仕方ありません。また、別の場所をあたりましょう」


「は~い……」


 潮見とふたり、残念そうに肩をすくめたのだった。

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