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#13.こうして両家は繁栄した

 王国を代表する大貴族であるアムリス家とハスミス家は、かねてより険悪な関係であった。

互いの当主が国の中枢を担う政治陣の重鎮であり、王の側近。


 軍人上がり、戦時中の活躍によって成り上がったアムリス家は、軍人を中心とした支持層を従え、騎士団を筆頭に、国中の治安と汚職に目を光らせている。

古来より王の側近として長く仕えていたハスミス家は、城内の従者や知識層、商人たちとの繋がりが深く、この配下には街道や村落部などを担当とする衛兵隊も存在していた。

戦時中においては騎士団の活躍によって発言力を高めていたアムリス家であったが、戦後の復興の場においては軍の力は強固なまま維持する事も出来ず、近年起きた先代騎士団長の一件もあり、その発言力はにわかに弱体化しつつあった。

ある意味均衡きんこうが取れていた両者のバランスが崩れ、政治にも影響しようとしていたのだ。




 闇の中、駆けるからすが一羽。

闇夜に溶け、その羽の如き両の黒腕を揺らし、目標を求め音もなく跳ぶ。

ここはハスミス家の当主『エルランドきょう』の館。

街の中に在り、特別区とされている王城周辺地区。

その最奥に位置する巨大な館なのだが、さすが重鎮の屋敷ともなると商人の館等とは比べ物にならぬほど警戒が強く、深夜だと言うのに屈強な私兵が複数人で何隊も巡廻じゅんかいしていた。

正面や裏口は言わずもがな、少しばかり大きな窓や屋根の上、果てには井戸の中やトイレにまで警備の兵が構えているほどで、とてもではないが部外者が潜入する事はできないはずであった。


 だが、クロウは今、屋敷の中を駆けていた。

彼の前に敵は居らず、彼の後ろに敵は居ない。

こんな時に限って『何故か』裏門に不審者が現れたのだ。

その不審者は裏門に駆けつけた私兵らに取り囲まれ、あえなく御用となったが。

この騒ぎによって全体を見回していた屋根上の警戒がおろそかになり、クロウは難なく侵入に成功したのだった。


(重鎮の屋敷ですらこれでは、平和ボケしていると言われても笑えんな……)


 当のクロウとしては、あまりにもお粗末な『精鋭』達の様に呆れてしまっていた。

どこぞかで何者かが近づいたという情報を共有するのは大事だろうが、その為に注意がおざなりになってしまってはこのような時に見落としが起きるのだ。

それに便乗したクロウ自身がそれを笑うのも皮肉な話だが、彼本人としては、なんとも複雑な気分であった。


 しかし、流石に緩んだ警戒網もそう長くはそのままではないらしく、巡廻の兵がすぐ近くに迫っているのを肌で感じ、クロウは足を止める。

そうしてわずかばかり周囲に目を凝らし、すぐさま近くの物陰に身を潜ませた。


「――それにしてもキスカお嬢様の気の強さよ。お顔は亡き母君に似て絶世の美しさだが、あの口の強さはどうにかならんものか」

「我らが近づいただけでぼろくそに言われるものな。私はもう慣れたが、新人には厳しかろうなあ」

「折角の美貌だというのにあれでは、嫁の貰い手がいつつくかどうか――」


 雑談ながらに巡廻する兵達であったが、先ほどの事もあってかその視線は厳しく、油断なくあたりを見回していた。

幸い視線をカットする物陰に居たために察知されることはなかったが、その気配だけで中々の猛者揃いであると、クロウにも感じ取れてしまった。

平和ボケはしているが、何かあらば動ける者達らしい。


 程なく巡廻は通り過ぎ、クロウは再び歩を進める。

――ここからは特に慎重に。

なんとなしにそう感じ、走るのはやめにしていた。

次第に足はすり足となり、常に隠れる場所、逃げ込める死角を探しながらの移動となった。




(む……)


 館を探索する中、ぴたり、足を止める。

視線のわずかばかり先には一際豪奢ごうしゃな赤い扉。

飾り付きのそれは『いかにも』偉そうな人間が中に居そうな扉であった。

クロウはそれを離れた場所から油断なく見ていた。


 ほどなく扉が開かれ、中から私兵が四名ほど。

中の何者かに対し軍礼を取り、クロウがいるのとは逆方向に歩いていった。

そうかと思えばすぐさま別の集団がその扉の前に現れノックする。

そうしてわずかばかり間が空いて扉が開かれ、兵達がその中へ入っていく。


(情報によれば、目標はあまり豪奢なものを好まぬ性質なのだとか。とするとあの部屋は……私兵達の詰め所か何かか)


 扉の先に目標は居ないものと判断。

慎重に目の前を通り抜け、その先にある上階への階段を目指した。



 二階は巡廻の兵が少ないのか、クロウに感じられる範囲では人の気配そのものが薄くなっていた。

とはいえ油断ならないのは同じことである。足音一つ立てぬよう、慎重に進んでゆく。


「――では、これにて失礼致します旦那様。よい夜を」


 いくらか歩いた先で、若い女の声がしたため、クロウは足を止めた。

慎重に壁の影から見たその先には、屋敷のメイドらしき若い女の姿。

言葉から、この館の主であるエルランド卿の部屋であるらしい。

はぁ、と熱っぽい吐息を漏らしながら上気した頬を冷ますように頭を軽く振り、そそくさと歩き去ってゆく。

だが、今回はこちらとは関係がない。

今用事があるのは、その娘であるキスカの部屋なのだから。





 そうしていくつかの部屋を探して回るや、ようやく『そこ』にたどり着く。

私兵一人立たぬ館の最奥。その部屋は鍵すら掛かっていなかった。

そも、この屋敷の部屋はどこも鍵らしいものは存在していない。

無用心にも感じたクロウであったが、鍵を嫌う貴族というのも稀にではあるが存在するのでその類なのだろう、と勝手に納得していた。

何より、容易に部屋に入り込めるのが大きい。


 部屋の中はボウ、としたともしび一つが部屋を薄暗く照らしているのみであった。

入り口からわずかばかり離れたベッドからは静かな寝息が規則正しく聞こえ、そこに確かな存在を感じて取れた。


(……この娘が侯爵令嬢キスカか)


 うすぼんやりとした灯りの所為で姿すらろくにわからなかったが、クロウの侵入に目を醒ました様子もなく。

好都合とばかりにベッドに忍び寄る。

しかしそんな時、かつ、かつ、と、ベッドの方から音が鳴りだした。


(――!?)


 軽い何かで鉄を叩くような音。

それ自体は小さく、さほど響きもしなかったが、極度の緊張状態にあったクロウにとっては心底驚かされた音であった。

音がした方へと眼を向けると、そこには小さな何かが収まった格子の籠。


(……こいつか)


――小鳥であった。

部屋の主とは違い、まだ消えぬ野生がクロウの、強者の侵入に勘付いたのだ。

くちばしに木の枝を咥え、ぱしぱしと鉄籠に向けて打ちつけていた。

薄暗闇の中にあって愛らしい仕草ではあったが、音の正体がこの小さき護衛殿であったと気づくや、クロウは苦笑交じりに指をぎり、と引き締め、小鳥に向けた。

直後、パシ、というかすかな音と共に小鳥は動かなくなる。


 ベッドの上で静かな寝息を立てる令嬢は、この愛鳥の異変に気づきもせず愛らしい顔をしていた。

幸せな夢でも見ているのだろうか、頬は緩み、巡廻の兵らが語っていた『気の強さ』などは微塵も感じられない。


(人は、寝ている時にこそその本質、本性があらわになると聞いた事があるが――)


 もしその本質がこの寝顔に現れているのだとすれば、兵らの言っていた『お嬢様』とは、その本質を隠す為のかりそめの姿なのではないか。

自分のような暗殺者でなくとも、人は幾重もの衣を身に纏い、その素地そぢを包み隠そうとする。

その一面を見たような気にもなり、しかし、今はそのような時ではないと、考えを収めて少女に向け十字を切った。






「今回も無事に仕事を終えたようですね。仕事の難易度的にはそれなりに大変なはずでしたが、よくやり遂げたもの、と褒めてあげましょう」


 定位置のベッドの上にて。


「嬉しいでしょう?」と口元を歪めながら、フィアーはクロウに金袋を投げ渡す。

受け取ったクロウの腕先にはズシリとした確かな感触。難易度相応の報酬であった。


「警備が厳重ではあったが、今回はアシストが入ったからな。雇われとはいえ、よくもああいった手合いがいたものだと感心した」

「あれは今回限りだと思って欲しいですけどね。偶然使い殺しにしてもいい駒が手に入ったから使い捨てたというだけの話です。本人も死ぬことを承知で受け入れた話なので後腐れもないですし、ね」


 クロウが侵入しようとした際に『偶然』裏口で大騒ぎした不審者は、そのまま私兵達によって斬り捨てられ川に放り投げられたらしい。


「……そうか。感謝しないとな」


 それ自体はギルドが依頼達成の為に寄越したアシストだったのはクロウも知っていたが、それがなければ侵入に相当苦労させられたであろう事を考えると馬鹿にする気にはなれなかった。

自分とて、いずれは似たような使い捨てとして命を投げ出す羽目になるかもしれないのもある。


「まあ、自分の仕事を果たした者は相応に評価しますよ、暗殺ギルドはね」


 それはクロウに対してなのか、それとも役目を果たし斬り捨てられた『不審者』に対してなのか。

足を組みながら、フィアーは静かに目を瞑り、静かに語り始めた。




「ハスミス家とアムリス家がかねてより険悪な関係なのは、貴方なら知っていると思いますが」

「知らんな」


 内訳を説明しようとしていたフィアーであったが、その出だしをクロウは否定した。


「……」


 出鼻をくじかれたのが悔しかったのか、唇を尖らせ、フィアーが抗議めいた視線を向ける。


「私は一介の暗殺者だ。ハスミス家だのアムリス家だのなんていう貴族様の対立など知ったことではない」

「まあ、貴方がそういうのならそれでもいいですが」


 構わずに突き通そうとすれば、フィアーは引いたようにそれを受け流す。


「この両家は険悪な関係にありましたが、アムリス家の配下にあった騎士団、これによる汚職の頻発や前団長の一件などが枷となり、このバランスが崩れようとしています」

「騎士団は建て直しが不可能と言われるほどに手が汚れているらしいものな」


 そも、国を代表する軍集団であった騎士団は、その攻撃性の高さ、国から与えられた特権を振りかざす様から、国民から貴族に至るまで蛇蝎の如く嫌われている。

団員による汚職が止まらないのも騎士団の持つ特権のおこぼれを預かろうとする不埒者が後を絶たない為であり、構成する団員たちの人としての質の問題であるとも言えた。


「結果的にハスミス家にとっては都合よくアムリス家が失脚しそうになったのですが、アムリス家当主ブラックマンはこれを良しとせず、ハスミス家を道連れに、あわよくば踏み台にしようと画策したのです」

「政治の話はよく解らんが、それとあの小鳥を殺すことに何の関係があるのだ? エルランド卿やその娘を殺すならまだしも」


 今回の目標は『ハスミス家にて飼われている小鳥』。

更に暗殺者が居たことを誰にもさとらせてはならないとの条件があった為、クロウは今回の仕事に限り人間は『誰一人』殺していない。


「ロック鳥は『王家の象徴』として国印にも刻まれている存在ですが――その数は極めて少なく、現在では少数が人間の手によって管理されているばかりなのです」


 成鳥となるとその足で幾人もの人を持ち上げることすらできるほどの巨体ともなるロック鳥だが、その雛は非常に弱々しく、しばしばカラスや猫などに襲われ捕食されてしまう。

近年では貴族たちが戦に代わる権威の場として狩猟を選んだため、他の小鳥と間違えられてクロスボウの餌食になったりと、俄かにその数を減らしていた。


「王家はその数少ないロック鳥を卵から還し育て数を増やそうと保護しているのですが、同時に信頼の置ける貴族に雛を預けることにより、王家の権威をその貴族に与える、という褒賞の側面も持たせていたのです」

「それが、あの小鳥だった訳か」


 ようやく合点がいく説明であった。クロウは静かに頷きながら、先の説明を待つ。


「それだけハスミス家は王家から信頼されていた、という事なのですが、これを失った場合どうなるのか。もう貴方にも解るでしょう?」

「……ああ」


 ライバルを失脚させるために、これほど確実な手段はないだろうと、クロウは肯定する。


 折角信頼し貴重な雛を預けたのにみすみすこれを死なせてしまったとしたら。

原因が何であれ、これは王家の信頼を踏みにじるような行為と取られても不思議ではない。

ましてそれをやってしまったのが王家の信頼厚い側近だとしたら。

王家の失望たるや相当なものなのではないかとは、クロウも考えるまでもなく理解できていた。


「一応ロック鳥を殺す以外にも、令嬢キスカを誘拐し傷物にするだとか、エルランド卿本人を拉致して精神が壊れるまで尊厳を奪い続けるだとか、『ブラックマン氏の頭の中の妄想』を散々聞かされましたが、その中で私達が『仕事』にできそうなのがこれくらいだったのでこうなった次第です」

「落ち目の貴族の考えることはロクなもんじゃないな……」


 殺しの目標として罪のない動物を殺すというのもどうかと思ったクロウであったが、それがまだ仕事としてマシな部類だったという事実に開いた口が塞がらない。

これが一国の政治を左右する大貴族の考えることなのかと思えば、やはり相応しくない人間が権威を持ってしまうのはよくないのだと感じてしまっていた。

これに関してはフィアーも同意できるのか、クロウの言葉に幾度も頷いていた。


「まあ、結果としてハスミス家はこれで大打撃を受けることが確実になった訳ですが……」

「まだ何かあるのか?」


 説明が終わったと思ったクロウであったが、どうにも歯切れの悪い様子のフィアーに、これ以上の何かがあるのかと半ば恐ろしくもなっていた。

できればこれ以上はもう、余計なことは聞きたくなかったのだ。


「いえ、ブラックマン氏も、恐らくエルランド卿も知らないことだとは思うのですが、事実関係の確認をしている内に奇妙な繋がりを知ってしまいまして。複雑な気分になったのです」

「奇妙な繋がり?」


 やはりというか、嫌な話は続くらしい。耳を塞いでしまいたい気分であったが、同時に興味も湧いてしまうのだ。

クロウは、自身の中の、こうした井戸端めいた無責任な好奇心を呪った。


「ブラックマン氏の子息マーキスと、エルランド卿の息女キスカ。どちらも一人っ子なのですが、どうにも親に内緒で同衾どうきんしたり、こっそり両家のメイドを通じて手紙のやりとりをしていたらしいのです」

「……うん?」


――険悪な関係にあった両家の子息と令嬢が、同衾や手紙のやり取り?

クロウは一瞬、フィアーが何を言っているのか解らなくなってしまった。


「つまり、二人は恋人関係であると――」

「なんでまたそんな面倒なことに……」


 クロウは、段々と自分の頭が痛くなってくるのを感じていた。

これはつまり『報われない恋』というものなのだろう、と。

この恋人達はこの一件が元で悲劇的な別れへと進んでしまうのではないかと、そんな余計な事を考えてしまったのだ。

特に、キスカに関しては顔を見てしまったのもあり、同情してしまった。


「よくある事かは解りませんが、対立する両者の子供同士や妻同士が仲良しというのは無い話ではないですし。まあ、ちょっとロマンティックすぎる気もしますが、そこは貴族ですから」


 真似したいとは思いませんが、と、フィアーも眉を下げながら苦笑いしていた。


「こんな事がなければ、もしかしたら両家が分かり合える日も来たかも知れませんけどねぇ。まあ、世の中はそんな上手く行くものではないのでしょうね?」


 人生ってほんと大変、と、フィアーはどこか皮肉じみた視線をクロウに向けていた。


「貴族様の恋愛事情など、私には解らんしな」


 どこかその視線に咎を感じてしまったクロウであったが、逸らしたりせず、正面からその顔を見つめた。


「……」


 その態度に、どこか面白くなさそうにそっぽを向いてしまうフィアー。

クロウはよく解らないながら、こうしたときの彼女に無理に構うのは良くないだろうと思い、放っておくことにした。






「なあ、知ってるかベルクさん。大物貴族だったエルランド侯爵とブラックマン伯爵が、共謀して王家の転覆を狙った罪で処刑されたんだってさ」


 ロッキーが街で流れている噂を口にしたのは、一月後の昼の事であった。

二人してのんきに黒パンをかじっていた最中、退屈げに彼が語りだしたのだ。


「エルランド侯爵とブラックマン伯爵……ああ、国の重鎮だっていう?」


 自分が関わった一件である、その名に覚えが無い訳はないのだが、ベルクはこうした時、あえてしらばっくれるのである。

しかし、内心その情報が気になって仕方なくなっていた。


「そうそう。どっちも王家から全幅の信頼を受けてたって話なのに、おっかねぇよなあ。下手したらまた戦争になるところだったんだってさ」

「それは……笑えないな」


 どこからどこまでが真実なのかは解らないが、仮に両者の処刑が事実であるとするなら、『何故そうなったのか』がクロウには解らなかった。

ある意味、本当に笑えなかったのだ。


「しかし、私達でも名前を知ってるような貴族様が、なんだってまた……?」

「さあねぇ。詳しいとこはわかんねぇよ。でも、噂ではこれを告発した者達がいたって話だぜ?」

「告発者か……両者の関係に詳しい何者かが裏切ったとか、そういう事なんだろうか」


 パンを齧る手は完全に止まり、今では顎に手をやり推理に入っていた。


「推理すんのはベルクさん好きだろ。まあ、色々理由を考えてくれよ」


 ロッキーはと言うと、クロウの反応を楽しげにみやりながら冷たいポテトのスープを皿ごと啜っていた。


「実際問題、その告発者が誰なのかは噂程度でも流れてるのか?」

「そこまではちょっとなあ。でも、すごく意外な人物が告発者だったら面白そうだよな」


 そう、所詮庶民にとってはこんな事件『娯楽』でしかないのだ。

貴族の生活や抱えている事情など、民衆には想像すらできない雲の上の物事。

だから、クロウも深く考えるのは放棄した。表面上だけでも。


「解らん。情報が少なすぎる。もっと色々話が集まったら教えてくれ」

「気が向いたらなー。でも、貴族様の話なんてそういくらも入ってくる訳じゃないし、謎は謎のままかもな」

「それならそれでいいさ。ゴシップ程度に楽しめればそれでな」


 剣士ベルクはゴシップと推理好きな凡夫である。

表向きはそれでいいのだと、クロウはまたパンに手をやりはじめた。





 その後、当主が処刑された為に取り潰しになるかと思われたハスミス・アムリス両家は、それぞれの子息と令嬢が当主の座につき、共に王家への忠誠を改めて誓ったことにより辛うじて取り潰しを免れた。

キスカとマーキス。二人は互いに手を取り合い、互いの一族の危機を乗り越えたのだ。

一度は没落しかけた両家であったが、二人の仕事ぶりがそれぞれの父親よりも評価されるようになるまでそう時間は掛からず、国政の場、王の側近にまで復権する事となる。


「貴方の機転のおかげで、私の家は助かったわ。ありがとう、マーキス」

「君の大胆なアイデアのおかげだよ。僕だけじゃ、互いの父を犠牲に家を永らえさせるなんて計略、考えはできても実行には移せなかった。王の前で進言する時、怖くて震えてしまっていたしね」

「でも、貴方ははっきりと言えたわ。すごく男らしかった。私、百年じゃ足りないくらいに、貴方に焦がれてしまっている」

「僕もだよ。君が傍にいてくれれば、僕は強くなれる。強くいられる。キスカ。君さえよければ、僕と――」

「――嬉しい。小鳥が死んでしまったときは悲しかったけれど、それが元で貴方と結ばれるなんて――夢みたい」

「誰がやったのかは解らないが、感謝しないといけないね」

「ええ、きっと天使さまだわ。私達の仲を取り持ってくれたのよ」

「ありがとう天使さま」

「ありがとう天使さま」


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