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第4話『新たな漂着者』(後編)

・・・キンッ!


・・・甲高い音が、辺りに響いた。


「自分」は、その「人間」を殺そうとしたが、できなかった。


なぜなら、「突然」、現れた「細長い包み」が、「自分」の右手を防いだからだ。



完全な人間の形になった「自分」は、先ほどまでの「自分」とは違う。


最適化された動作、より的確な「それ」への「命令」によって、「自分」の右手の刃(やいば)は、先ほどまでの「自分」よりも、効果的に目的を果たすはずであった、が、しかし・・・・


・・・宙に浮かぶ、その「細長い包み」は、「自分」の攻撃を防ぐ強度、強さを持っている・・・



そう・・・「宙に浮かんで」いるのだ・・・その「細長い包み」は。


地面に横たわる「人間」を「守る」という目的をもって、「自分」の「殺す」という目的を防いだのだ。


・・・だからといって、「自分」の「殺意」は、止まらない。


「突然、現れた」こと、「宙に浮かぶ」ことなど、「今」の「自分」には、些細なことだ。


むしろ、その「現象」は、当然のことと納得していたのかも知れない。


その「長細い包み」が、「何であるか」、その「人間」が、どんな「人間」なのかを知ったからだ。



「神代より続く末裔とは・・・自分を捨てた親神の子孫とは・・・」


新しくできた「自分」の口から発せられるのは、学んだばかりの言語を使った、「恨みの言葉」だ。


「・・・許せない、許せない・・・許すことなどできるものか!」


「自分」の「思考」を「制御」できると思っていた「自分」の中で、あまりにも強い「感情」が、「思考」を押し流す。


更に強い力を込めて、右手の刃を押すが、宙に浮かぶ「長細い包み」は、びくともしなかった。


その場から跳躍し、一旦、離れて距離を取る。


その跳躍力も、今までの「自分」では、到底できないものであった。


「・・・その人間を守る、ということは・・・」


その宙に浮かぶ「長細い包み」を憎悪に燃える瞳で睨(にら)み付けながら、左手も鋭い刃に変える。


「・・・オマエにとって、自分は『悪』ということか!!」


恨みの感情により、更に強度を増した両手の刃を構え、強靭な跳躍力による威力も加え、飛びかかっていった。


キンッッ!!


再び、甲高い激しい金属音が、辺りに響く。


しかし、今の「自分」の全力であっても、その宙に浮かぶ「長細い包み」は、びくともしなかった。


「昔の私では無い!・・・何も無かった私ではない!!!」


雄叫びを上げ、ありったけの力を込めて、感情をぶつけ、何度も切りかかる。



・・・くやしかった・・・何も無い「自分」から、優れた「自分」になっても、届かなくて・・・


何度も切りかかる。


・・・「拒絶」されているようで・・・「自分」を「否定」されているようで・・・


何度も切りかかる。


・・・捨てられたことが、さも「正しい」こと、と「肯定」されているようで・・・


何度も切りかかる。


・・・「自分」が「不要」と告げられているようで・・・



・・・荒い息をする・・・


「人間」になったせいで、しっかりと呼吸しなければならない・・・


・・・胸が焼け付くようだった・・・


・・・膝をつく・・・


「人間」になったせいで、疲労を感じたら休まなければならない・・・


・・・全身に力が入らない・・・


・・・目の前の風景が歪んで見える・・・


「人間」になったせいで、目から余分なモノが勝手に流れ出る・・・


地面に、ぽたぽたと液体の跡が残る・・・


「・・・私を認めてくれ・・・」


気付けば、そんな震えた声が、口から洩れていた。



・・・地面にひざまずき、両の手をつけた「自分」の影に、何かの影が重なる。


何かと思い、顔を上げると、横になっていたはずの「人間」が、立っていた。


宙に浮かぶ「長細い包み」を伴い、その「人間」は、宙に浮かんでいた。


「自分」の猛攻を受けて、その包みだけはボロボロになっていたが、その中身には、一切、傷がついていないようだった。


その包みが、ひとりでに動き、中のモノを引き出していく。


ぱさり、と包みが、地面に落ちる。


中身は、漆黒の刀身を見せながらも優美で、太陽の光を浴び、煌(きらめ)いていた。


(・・・なんと、美しいのだろう・・・)


それに「自分」は、羨望のまなざしを向ける。


「人間」は、その刀身を白い小さな手でつかんだ。


刀身は、一層の煌きを見せた。


その刀身の所有者は、その「人間」だと言っているように、「自分」には見えた。


決して、「自分」には手に入らないものだと・・・届かないものだと言うように・・・



その「人間」は、ゆっくり刀身を振り上げ、「自分」に振り下ろそうと構える。


・・・どす黒い「感情」が、巻き起こる。


・・・一層の「殺意」が、「自分」の胸を焦がす。


・・・強すぎる「感情」は、時に「思考」を呼び戻すのだと、その時、感じた。


・・・地面につけていた手と足を、「それ」に「命令」して、気付かれぬようにゆっくり伸ばす。


・・・地面を通して、その「人間」の背後に位置するように・・・


(正面から防がれるなら、背後・・・それも、四方から・・・)


「人間」の動作、「刀身」の位置などを確認する。


(・・・さらに、その刀身が自分の身に食い込んだのなら・・・)


防ぐ手立てなどあろうはずがない。


それは、悪あがきとも言える手段であろうが、今の「自分」には、「最良の一手」となるはず。



・・・「自分」は、じっと、その機会を待った・・・


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