・・・冷たい、まとわりつく水・・・
衣服に染み込み、何か言おうとして開いた口には、声の代わりに、入ってくる水。
頭の上にも、冷たい水があった。
・・・そう、『自分』は溺れているのだ。
どうして、そうなったのか・・・そもそも、『自分』とは何であったのか・・・・
どちらが上で、どちらが下か。
もまれる波に翻弄ほんろうされ、区別がつかなくなる。
見開いた目の先で、その視界は、ほとんど意味をなさず、がぼっと吐き出された泡がキレイで・・・。
ゆらゆらと揺れる私の身体を重く沈んで、落としていった。
誰もいない。
底は闇。
命の灯が消える。
遥か頭上に差し込む光に手を伸ばしても、もがいた腕は、わずかな抵抗を伴って、音の無い音を立てる。
先に沈んだモノの無数の手が、わたしを灰暗い底へ、底へと引きずり込む。
・・・生きたい、と願い、必死に腕を伸ばし、つかみ取れるものは何も無い・・・
この世界に生まれ出て、また、この世界に還る。
ただ、それだけの現象に全身が抗う。
虚無と昇りゆく泡の中を無抵抗に沈み行く前に、確かに伝えたい想いが、確かに存在するのだ。
・・・しかし、その想いも虚しく、命の火が消える・・・
・・・そこで、「私」の意識は、闇の中に消えていった・・・