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第96話:エチュード⑦

「ともくんのニャッポ気持ちよすぎだ~ろ~! ニャッポ気持ちよすぎだ~ろ~! ともくんのニャッポ気持ちよすぎだ~ろ~! 気持ちよすぎだろ~! ともくんのニャッポ気持ちよすぎだ~ろ~! ニャッポ気持ち~よすぎだろ~! ニャッポ~。気持ち~よすぎだろ~! ニャ~ッポ~」

「急にどうしたのまーちゃん!?!?」

「そういえば前にこんなの流行ってたなーと思って、今更ながらパロってみました」

「あまりにも今更すぎないかいッ!?」


 教えはどうなってんだ教えはッ!!


「心に沁みる歌声だったよ茉央ちゃん!」

「のわっさほーい!」

「えへへー、でしょでしょー」


 今のが沁みたなら大分心の土壌腐ってると思うよ!?

 まさか篠崎さんと勇斗もアルベドじゃないだろうな。


「じゃあさ、浅井君も一回だけ、『勇斗のニャッポ気持ちよすぎだろ!』って歌ってくれない?」

「絶対嫌だよッ!」


 今日もぶるうちいず先生は絶好調ッ!!


「フッ、待たせたな諸君」

「うふふ、みんなお待ちかね、エチュードの時間よ」


 出た肘北が誇る変態コンビ!!

 別に誰も待ち望んでなかったけどねッ!

 それにしても、エチュードかぁ……。

 随分久しぶりな気がするな。


「フッ、もちろんサブエチューダーの二人にもお越しいただいているぞ」

「……別に俺は、毎回呼んでくれなんて頼んだ覚えはないですけど」

「まあまあそう言うなって微居。何だかんだいつもお前も楽しんでるじゃん」

「……フン」

「エクストリームヘヴンフラーーーッシュ!!!!」


 微居君と仲睦まじく肩を組む絵井君を見て、早くもぶるうちいず先生からエクフラが噴き出た。

 最近のぶるうちいず先生って、別府温泉の間欠泉並みに、僅かな刺激でもエクフラ出るようになったよね。


「フッ、そして今回の日替わりエチューダーはこの二人!」

「ヨッシャアアアアア!!!! 遂にきたわ、私の時代があああ!!!!(倒置法)」

「ハハハ、今日も小牧は元気だな」

「――!?」


 現れたのは小牧さんと樋口先輩。

 今回はこの二人か……。

 早くも滅茶苦茶な展開になる予感しかしない。


「私たちの愛の力を、非リア共に見せつけてあげましょうね、樋口先輩!」

「コラコラ、あんまそういう言い方はよくないぞ、小牧」

「ぬふふー、ゴメンなさーい、せんぱーい」


 プールいっぱいのハチミツをブチ撒けたかの如く、甘い空気を放出している二人。

 ああ、そういえばこの二人、付き合い始めたんだっけ。

 まあ、誰がどう見ても両想いだったもんなぁ。

 案の定、非リア筆頭の微居君が、砲丸投の選手みたいに岩を顎に当てて構えている。

 ある意味この二人、微居君と一番相性悪くないか?

 これは先が思いやられるな……。




「フッ、今回は我々がAチームだ。みんなよろしくな」

「イエーッス! 私と樋口先輩にお任せくださーい!」

「やれるだけやってみますよ」

「……」

「……」


 今回のAチームは、変公、小牧さん、樋口先輩、微居君、僕という構成だった。

 考え得る限り、最悪の構成じゃないか……。

 微居君魔王の抑止力である、絵井君勇者もいないし……。

 こりゃマジで血の雨が降ってもおかしくないぞ。


「一人で大丈夫かなぁ、微居のやつ」


 初めてチームが分かれてしまった微居君に対して、母親のような目線を向ける絵井君。


「エクストリームヘヴンフラーーーッシュ!!!!」


 そんな絵井君を見て、エクフラを噴き出すぶるうちいず先生。

 ……うん、今日も世界は平和です。


「フッ、ではAチームのテーマは『海』とする」


 『海』かあ。

 今は冬ど真ん中だけど、まあ、敢えて季節感のないものを演じるのも、演技の勉強にはなるか(意外と真面目)。


「あ、あの、梅先生! 今回も提案があります!」

「フッ、本当に智哉は提案大好きボーイだな。言ってみろ」


 別に好きで提案してるわけじゃねーわ!


「はい、今回は、UMAと戦国武将を出すのは禁止にしてほしいんです!」


 いい加減僕も、UMAと戦国武将以外の役を演じたいよ!


「フッ、あの智哉が土下座までするとはな。いいだろう、採用だ!」


 土下座はしてねーわッ!!

 偏向報道マジやめろよなッ!!


「フッ、ではいくぞ諸君。――Aチームのエチュード気持ちよすぎだ~ろ~!」


 オイバカやめろお前ッ!


「エチュード気持ちよすぎだ~ろ~!」


 小牧さんッ!?


「Aチームのエチュード気持ちよすぎだ~ろ~!」


 樋口先輩までッ!?


「気持ちよすぎだろ~!」


 微居くうううううううんッッ!?!?!?


「「「「……」」」」

「――!!」


 四人が、次はお前の番だぞみたいな目線を向けてくる。

 ……くっ!


「え、Aチームのエチュード気持ちよすぎだ~ろ~!」


 これで満足かよッ!!

 四人は満面の笑みで頷いた。


「「「「「エチュード気持ち~よすぎだろ~! エチュード~。気持ち~よすぎだろ~! エ~チュ~ド~」」」」」


 よし、これでAチームの絆は深まったな!(迫真)

 これもエボンの賜物だな(迫真)。




「わあ、見渡す限りの青い海! 海も私たちを祝福してくれてますね、樋口先輩!」

「ああ、そうだな」


 ふむ。

 二人は本人役での出演なんだな。

 まあ、初心者にはそれが一番無難だからね(後方上級者面)。


「どうですか先輩! 私のマイクロビキニ、似合ってますか?」


 小牧さんは(無い)胸を突き出し、セクシーなポーズを決めた。

 演技なので本当にマイクロビキニを着ているわけではないが、なかなか大胆なチョイスだな……。


「ああ。……でも本音を言うと、俺以外のやつには、小牧のそんな姿見せたくないな」

「せ、先輩……!」


 おっと早くも微居君が魔王役で出演しようとしてるぞ!

 ここは何としてでも、僕が海の平和を守護まもらねば……!


「よ、よーし、今日も波が僕を呼んでるぜー」


 何のプランもなくアドリブで舞台に立ってしまったので、ありきたりだが地元のサーファーという役になってみた。


「あっ、樋口先輩、こんなところにスイカが落ちてますよ! これでスイカ割りしましょう!」

「オウ、いいな」

「――!?」


 二人が僕を見て、そんなことを言った。

 またかよおおおおおお!!!!!!

 今回はスイカの役かよおおおおおお!!!!!!

 いい加減普通の人間の役やりたいよおおおおおお!!!!!!

 ニャッポリートオオオオオオ!!!!!!


「じゃあ樋口先輩、私がスイカを割るんで、先輩は私を誘導してくださいね」

「オウ、任せとけ」

「――!」


 小牧さんは掃除用具入れからモップを取り出し、それを剣みたいに構えた。

 そこはフリじゃないのかよ!?

 その割には目はガッツリ見開いてるし、こんなん出来レースじゃねーかッ!?


「ふふふ、浅井君、よくも今まで私の前で、甘っっったるいイチャラブを見せつけてくれたわね。……私がずっと、片想いで悩んでたってのに」

「っ!?」


 小牧さんから負のオーラが立ち上る。

 ヤベェ!

 この人、自分がリア充になっても、非リアだった頃の恨みを忘れないタイプだッ!

 しかも完全なる八つ当たりだし!

 だ、誰か助けてぇ!!


「フッ、そこまでだ」

「「「――!!」」」


 へ、変公ッ!?

 まさかお前に助けられる日がくるとは……!


「何ですかあなたは? 私たちは今、ラブラブスイカ割りの最中なので、邪魔しないでもらえますか」


 クラスメイトのドタマをカチ割る行為をラブラブスイカ割りと称するのは、感性がサイコパスのそれなんよ。

 悪いこと言わないから、一回倫理観車検出したほうがいいよ?


「フッ、なあに、私は通りすがりのしがないチュパカブラハンターさ」


 お前一貫してそれしかやんねーなッ!!?

 何なの、そのチュパカブラハンターへの謎のこだわりは!?


「チュパカブラハンターだったらスイカには用がないはずですよね? それでも邪魔するっていうなら、先にあなたに消えてもらうことになりますけど?」


 遂にこいつ担任にも刃を向け出しましたよ!!

 やっぱサイコパスなんすねぇ。


「フッ、用ならあるさ。――何故ならスイカは、チュパカブラの大好物だからだ!」

「な、なんだってー!!」


 初耳学だけどそんな話!?

 もういい加減、その言ったもん勝ちのシステムやめろやッ!!


「これだけ大きなスイカを仕掛けておけば、きっとチュパカブラが寄ってくるはずだ。見物だぞ」

「きゃ、きゃあ、私怖いですぅ、樋口せんぱぁい」

「大丈夫だ。小牧のことは、俺が絶対に守るからな」


 今思ったけど、スイカの役って超暇だわ。

 喋れないし動けないし、いる意味あるのかな?

 ――と、そこに満を持して微居君が。

 この流れで出てきたってことは、微居君はチュパカブラ役ってことか!?

 でもUMAになるのは禁止したし、どうするつもりなんだ……。


「あ、あなたは!?」

「……俺は通りすがりのメカチュパカブラハンターだ」


 メカチュパカブラハンター????


「チュパカブラハンター、今日こそお前を倒して、俺が真のチュパカブラハンターになってやる」

「フッ、これはこれは、とんだ大物が釣れたようだな」


 何このゴジラ対メカゴジラみたいな構図!!?


「……だがその前に」


 え?


「俺たちの決闘の邪魔になるものは、排除しておかないとなぁ!」

「「「――!!!」」」


 微ッポリート!!!

 メカチュパカブラハンターは、リア充カップルに向けて減気玉を投げつけた。

 やっぱ内心相当イライラしてたんやッ!!(ぶっちゃけ僕でさえ、限界ギリギリぶっちぎりの凄い奴だったしね!)

 あ、危ない――!!


「先輩、ここはを!」

「ああ、そうだな」


 え?

 あれ、とは?


「「二人のこの手が真っ赤に燃える!」」

「幸せ掴めと!」

「轟き叫ぶっ!」


 こ、この台詞はッ!?

 二人は両手を恋人繋ぎにし、片手を前方に突き出した。


「「ばぁぁぁぁくねつ!! ゴォォォッドフィンガァァァァァッ!」」

「せきっ!」

「はっ!」

「「ラァァァァァブ・ラブ、天驚けぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!」」

「ウボァー」


 二人の拳から謎の髭のオッサンが飛び出し、減気玉ごとメカチュパカブラハンターを薙ぎ払った。

 いやどうやったの今の????


「フッ、ハァーイオッケェ!! とても初めてのエチュードとは思えない、素晴らしい出来だったぞ二人共」

「ぬふふー、でしょでしょー!」

「緊張しましたけど、自分の力を出し切れてよかったです」


 僕はずっと突っ立ってるだけで超つまんなかった!!


「うふふ、これはBチーム我々も目に物見せてあげないとね。いくわよみんな!」

「「「おー!」」」

「のわっさほーい!」


 多分僕はまたBチームにも駆り出されるんだろうなぁ……。

 ブラック企業の社畜って、こんな気持ちなのかなぁ……(遠い目)。


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