「な、なんで兄貴がここに……」
「なんでって。言ったろ? 超超超不出来な弟を、超超超優秀なお兄ちゃんが助けに来てやったんだよ」
「……」
その発言がもう優秀じゃないんですけど……。
「大丈夫だよ浅井君。ダルダルマイスターに任せておけば、もうこの戦いは勝ったも同然さ」
「っ!?」
イケいさん(※イケメンのおにいさんの略)は兄貴のことを『ダルダルマイスター』と呼んだ。
何故この人も兄貴のクソダサい二つ名を知ってるんだ!?
……ってか、イケいさんと兄貴は知り合いだったのか?
兄貴にこんな知り合いがいるなんて話、聞いたことないけど……。
「はっはっは、実はな智哉、何を隠そう、俺は日本を影から支えている、正義のヒーローだったんだよ!」
「…………」
ダルマイ(※ダルダルマイスターの略)は渾身のドヤ顔をキメた。
なるほど、どうやら僕の兄貴は、僕の想像以上にイタいやつだったらしい。
今はお前の冗談に付き合ってる余裕はないから、ヒーローごっこは他所でやってくんないかな!?
「あっ! その顔は疑ってんなテメェ! しゃーねえ、見せてやるよ、俺の真の姿をなッ!」
「――!」
ダルマイはおもむろにダルダルのスウェットを上下共脱ぎ出した。
オイオイ誰得だよこのコーナー!?
冴えない
――が、
「――なっ!? あ、兄貴、その格好は!?!?」
「はっはー、どうだ智哉、カッケーだろ?」
カッケーかはともかく、何と兄貴はダルダルのスウェットの下に、変身ヒーローを彷彿とさせるスーツを着ていたのであった。
ニャッポリート!?
何あれ!?!?
「フッ、これぞ私が開発したヒーロースーツ、『スゴクナール』だ!」
「梅先生!?」
相変わらずネーミングセンス壊死してんな!?
……って、スゴクナール?
いったい何が凄くなるってんだ?
「フッ、まあとにかく諸々凄くなるのさ。――そう、変身ヒーローのようにな!」
「はあ……」
うんわかった、こいつに期待した僕がバカだった。
「うふふ、なかなか面白い格好だけど、残念ながらここはコスプレ大会の会場じゃないのよ?」
アーリスは余裕の表情でダルマイを見据えた。
いや、コスプレ感じゃお宅もどっこいどっこいだけどね!?
「フッ、では証拠をお見せしよう。――微居、こいつに岩を投げてみろ」
「え? いいんですか? ――じゃあお言葉に甘えて」
「「「っ!?」」」
微居君は微塵の躊躇もなく、ダルマイに岩をフルスイングで投げつけた。
いや一応こんなんでも、僕の兄貴なんですけどッ!?!?
さては君、一回投げちゃったことで、倫理観ガバガバになってんな!?
「うおっ、アブねーな」
「「「っ!?!?」」」
が、ダルマイはその岩を、デコピン一発で木端微塵に粉砕してしまった。
ダッポリート!?!?
……マ、マジでダルマイが凄くなってる。
「フッ、そういうわけだ。これで身体能力はそちらにも引けを取ってないぞ。――科学の力を甘くみないでもらおう」
「……うふふふ、なるほどなるほど」
アーリスの顔から、少しだけ余裕の色が薄くなった。
おお!?
ひょっとしてこれは、ひょっとするのか!?!?
ついにダルマイが、生まれて初めて世の中の役に立つ時がきたのかッ!?(さっきから兄への扱い酷いな)
「どうしますかエロい格好のおねえさん? 素直に降参して、俺の
何どさくさに紛れて卒業しようとしてんだてめーは。
せっかくちょっとだけ見直したのに、一瞬で自らの株を暴落させていくスタイル。
「うふふ、ごめんなさい。今の私はもう、智哉くんだけに夢中なの」
僕の横でまーちゃんから、ゴウッという嫉妬の炎が燃え上がる音が聞こえた。
今だけは怒りを収めてまーちゃんッ!
これからシリアスなバトルが始まる感じだから!!
「そうすか。それは残念――です!」
「「「――!!」」」
ダルマイが軽く地面を蹴ったように見えた次の瞬間。
ダルマイはアーリスにキスが出来る程の位置にまで移動していた。
ダッポリート!?!?
「がはっ」
そしてアーリスに渾身のボディーブローを叩き込んだ。
アーリスはその美しい顔を苦痛の色で歪めた。
おおおお!!!!
遂に初めてアーリスにまともなダメージが!!!
「まだまだああああ!!!」
尚もダルマイはローキックや貫手や後ろ回し蹴り、更には背中に回り込んでの肘鉄など、目にも止まらぬ速度で連撃を繰り出していく。
「がああああああああああああ」
アーリスは為す術なく一方的にサンドバッグ状態だ。
ダルマイイイイイイイイ!!!!!!
SUGEEEEEEEEEEE!!!!!!
今だけはお前のこと応援してやるよ!!
だるまいー! がんばえー!
――が、
「――調子に乗んじゃないわよおおおおお!!!」
「ぐぁっ!」
「「「!!!」」」
アーリスの放った裏拳が、ダルマイの右胸辺りに直撃した。
ダルマイはそのまま、10メートル近くも吹っ飛ばされた。
「あ、兄貴ーッ!!!」
「……だ、大丈夫だよ、智哉。……俺はこの通り、元気100倍兄パンマンだぜ?」
「兄貴……」
そう冗談を交えながら立ち上がった兄貴は、明らかに苦しそうだ。
肋骨も何本か折れてしまっているのかもしれない……。
「うふふふふふ、これは私としたことが、ついカッとなってしまったわ」
対するアーリスは、全身に細かな傷こそ付いているものの、まだまだ余裕が窺える。
や、やっぱり無理だったんだ。
地球人が、こんな化け物に勝つのは……。
「はー、しゃーねーか。――できればアレには頼りたくなかったんだけどなー」
え?
兄貴、今、何て?
「梅先輩、お願いできますか?」
「フッ、そろそろそう言う頃だと思ってな。――ちょうど今届いたところだぞ」
は? 何が?
――その時だった。
「「「――!!」」」
僕らの上空に、一台の真っ黒なヘリコプターが飛んできた。
ヘッコリート!?
何あれ!?!?
そしてそのヘリコプターから、一本の細長い棒のような物が兄貴に向かって投下された。
あ、あれはッ!?
「へへっ、これで俺の勝ちだな」
兄貴はその棒状の物を、ダイレクトにキャッチした。
――それは紛れもない、一本の日本刀だった。
刀!?!?!?
兄貴はそんな物まで使えるの!?!?
「さーてエロい格好のおねえさん、これが最後通牒だよ? 本当に俺の
兄貴はその刀で、抜刀の構えを取った。
最早目的が卒業することにすり替わってんじゃねーか。
つくづく締まらない男だ……。
「うふふ、丁重にお断りさせてもらうわ。それに、その刀がどんな名刀でも、私の身体を斬ることは決して叶わないわよ? 私の身体はダイヤモンドより丈夫なんだから。無駄な足掻きはよしなさい」
「そいつはどうかな。――――
「「「――!」」」
――刹那、兄貴の纏う空気が、何の音も耳に入らなくなるくらい、静謐なものに変わった。
「【
「――なっ!?」
「「「――!!!」」」
一瞬の出来事だった。
アーリスと10メートル近く離れていたはずの兄貴は、気が付けばアーリスの真後ろに佇んでいた。
しかもその右手には、抜刀した刀が握られている。
……み、見えなかった。
影すら置き去りにする。
まさしく神速とも呼べる抜刀術だ。
「……あ、ああ、あああああああああああああ」
「「「っ!!!?」」」
アーリスの左肩から腰にかけて、斜めに鮮血が走った。
うおおおおおおお!!!!!!?
あ、兄貴いいいいいいいい!!!!!!!!
「あ……ああ……」
アーリスは事切れたように、仰向けに崩れ去った。
うわああああああああ!!!!!!!!!!
か、勝ったああああああああ!!!!!!!!!!!
「うぐっ」
「っ!? あ、兄貴!?」
厳かな動作で納刀した兄貴は、その場に片膝を突いた。
顔から滝のような汗が流れ落ちている。
そして刀を手放して、地面に捨てた。
――すると、
「「「っ!?」」」
ズンッ、という鈍い音を立てて、刀は地面にめり込んでしまった。
ズッポリート!?!?
な、何だあの刀は……!?
「フッ、あれぞ名刀『
「1トン!?!?」
それは最早科学というより、ファンタジーの世界では!?
「それだけではない。同じく私が開発した、『メチャカターイ』という金属も練り込んであるため、滅茶苦茶硬い。理論上は、隕石が直撃しても刃こぼれ一つしないはずだ」
「……マジっすか」
ネーミングセンスも含めて、ほとほと規格外の代物ですね……。
「それをダルダルマイスターによる超高速の抜刀術、【
「……」
確かにその超重量×超硬度×超スピードの組み合わせなら、この世に斬れないものはほとんどなさそうですね。
まあ、唯一斬れないとしたら、僕とまーちゃんの愛の絆くらいですか(まさかのここでノロケ)。
「フッ、まあその代わり、余程身体に負荷がかかるらしく、向こう一週間は筋肉痛でろくに歩けないだろうがな」
「え?」
「いやいや、他人事だと思ってそんな酷いっすよ梅先輩。これ、マジでキツいんすよ? ……だから使いたくなかったんだ」
兄貴は大きく溜め息を吐き出して、その場にへたり込んでしまった。
だからあんなに辛そうだったのか。
お、お疲れ様、兄貴。
「お疲れ様、ダルダルマイスター。あと、梅ちゃんも」
「ういーっす」
「フッ、なーに、私は大したことはしていませんよ、
イケいさんは兄貴と変公に、労いの言葉をかけた。
イケいさんの名前は普津沢さんていうのか?
「――さて、浅井君、いろいろと聞きたいことがあるって顔だね」
普津沢さんは相も変わらない柔らかい笑顔で、僕に向き合った。
「……ええ、そりゃあ、まあ」
一度にいろんなことが起き過ぎて、何から聞いていいやらって感じですけど。
「心配しなくても全部説明するよ。――君が聞きたくないであろうことも含めてね」
「……」
長い話になりそうだな、こりゃ。