「古賀!!」
「み、皆川先輩!?」
廊下に出ると、そこで息を切らせながら目を血走らせている皆川先輩と鉢合わせた。
なんで皆川先輩がここに!?
「先輩、どうして――」
「お前が心配だからに決まってるだろうッ!」
「「「っ!」」」
先輩は古賀さんの肩を抱き、目を潤ませた。
「突然クラス中の連中がバタバタと倒れてな。俺も意識が朦朧としたんだが、何とかお前のことを想って、根性で起き上がったんだ」
「そ、そんな……、先輩……」
ツンデレ先輩からの唐突なデレに、古賀さんは全身をプルプル震わせながら感激している。
いや今はそういうのはいいからッ!!
微居君も岩を仕舞ってッ!
てかあんだけ投げたのに、まだストックあったのそれ!?(アンリミテッドロックワークス?)
――それよりも、校舎の反対側の先輩の教室まで
ちらと隣の教室を覗き込むと、やはりみんな死んだように眠っている。
これは、学校中の人間が眠らされてしまっていると思った方が賢明かもしれない。
流石伝説の宇宙海賊の能力だけあって、規格外の効果範囲だ……。
さっき微居君がアーリスに岩をぶつけてからはすっかり靄も晴れたものの、すぐにみんなの目が覚めるとも限らない。
僕達だけで何とかするしかないのか?
……せめて変公がいれば。
あのマッドサイエンティストなら、何かしらの打開策を持ってるかもしれないのに――。
「うふふ、もう鬼ごっこは終わりなの?」
「「「っ!!」」」
僕達のすぐ後ろに、アーリスが優雅に佇んでいた。
身体にはかすり傷一つ付いていない。
くっ!
やはり身体強度も桁外れみたいだな。
地球人じゃこいつを倒すのは到底無理だ。
何とかしてこの場だけでも切り抜けないと……。
「ともくん、ここは私に任せて、ともくんだけでも逃げて」
「まーちゃん!?」
まーちゃんは僕を守るように、僕の前に立ってアーリスに対峙した。
む、無理だよいくらまーちゃんでも!?
相手は人間ですらないんだよ!?
「ヒャッハー! 天知る地知るヒャハが知る!」
「「「!?!?」」」
こ、この声は!?!?
「ヒャく戦錬磨の悪の華!」
「ヒャッ花繚乱、ヒャく姓一揆!」
「「「我ら百派山三兄弟!!」」」
百派山三兄弟は、三人で組体操の扇を作っていた。
ヒャッポリート!?
こ こ で お 前 ら か よ!!!
もう完全にかませ犬ポジションにしか見えないよ!
……てか、こいつらにも
それはそれで、ちょっと複雑な気分だな……。
「ヒャッハー! そこのヒャハい格好のねーちゃん! 何やら悪者なんヒャッて? 生憎悪役は、俺達だけで間にヒャッてんだよー!!」
「「ヒャッハー!」」
三兄弟は、一斉にアーリスに飛びかかった。
この微塵の躊躇もない自信!
さては、何かしら秘策があるのか!?
「うふふ、ごめんなさい、私イケメンにしか興味ないの」
「ヒャッ!!?」
「ヒャッ!!?」
「ヒャッハー!!?」
「「「!!」」」
が、アーリスが軽く手を払っただけで、三人は漫画みたいに壁にめり込んでしまった。
えーーー!?!?!?
何だよクソの役にも立たないなお前ら!?(辛辣ゥ)
案の定も案の定な展開だよッ!!!
もうダメだ……。
やっぱり地球人じゃ、到底太刀打ち出来る相手じゃないんだ……。
「どうも、私が伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサンです」
「「「!?!?!?」」」
その時だった。
僕らのすぐ横に、超怪しいサラ毛のオッサンが現れた。
どっから出て来たこの人!?!?!?
てか、伝説の……、何だって?(今日こういうの多いな)
「
「マスター代理!?」
また新しいワードが出てきた!
もう僕は頭ン中がパンパンだよッ!
「とりあえずこの場は離脱します」
「えっ!?」
そう言うなり、怪しいサラ毛のオッサンの髪の毛がニョキニョキと伸びて、僕ら全員の身体を包み込んできた。
うわ気持ち悪ッ!!
この人も人間じゃないのか!?
「じっとしててくださいね」
「「「っ!!」」」
そのままサラ毛のオッサンは、髪の毛の力だけで僕達を持ち上げ、教室を横切って窓ガラスにダイブした。
えーーー!?!?!?
ここ三階なんですけどーーー!?!?!?
窓ガラスを突き破った僕達は、万有引力の法則に従って地面に引き寄せられていく。
……し、死んだ。
――が、
「よっと」
「「「っ!!?」」」
地面に激突する寸前で、またサラッサン(※サラ毛のオッサンの略)の髪の毛が伸び、マットのような形になって、僕達を受け止めてくれた。
た、助かった……のか。
それにしたって、心臓に悪いよ、ホント……。
「マスター代理、お連れしました」
「ああ、ご苦労さん、伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサン」
「「「――!」」」
髪の毛から開放された僕らの前には、一人の男の人が立っていた。
僕はその人に見覚えがあった。
何を隠そう、それはここ最近毎朝僕に挨拶をしてくれている、あの謎のイケメンのおにいさんだったのだ――。
ニャッポリート!?
こ、この人がサラッサンを僕らに寄越してくれたのか?
この人はいったい……。
それに、いつもと違って、今日はまるで忍者みたいな格好のコスプレをしている。
まさか本物の忍者とか……?
異星人がいるくらいだから、最早忍者くらいでは驚かないけど……。
「怪我はなかったかい? 浅井君」
「え、ええ……」
おにいさんは当然のように僕の名前を知っていたが、もうツッコむ気にもならない。
「そう、それならよかった。大丈夫、俺達は君の味方だ。もう安心だよ」
「はあ……」
正直そう言われたところで、すぐにその言葉を鵜吞みにする気にはなれないけど、今はこの人に頼る以外選択肢がないことも確かだろう。
「とりあえず広いところに出よう。みんな走れるかい?」
「「「は、はい」」」
僕達はおにいさんに従って、校庭の中央辺りまで走った。
途中何人も
でも、漏れなくみんな、校庭の隅に寝かされていた。
ひょっとしておにいさんが移動させたのか?
「――さて、と、ここまでくればいいだろう」
だだっ広い校庭の中央で、おにいさんは後ろを振り返った。
「うふふ、あなたもなかなかのイケメンだけど、やっぱり私の一番の推しメンは智哉くんね」
「「「――!」」」
いつの間にかアーリスがおにいさんの視線の先に立っていた。
クソッ、もう追いつかれたのか。
しかもこんな遮蔽物がない場所じゃ、隠れることもままならない。
どうするつもりなんだ、おにいさんは?
「大丈夫だよ、浅井君」
「っ!」
またしてもおにいさんは、柔らかい笑顔で僕に「大丈夫」という言葉を投げかけてくれた。
何故だかわからないけど、この人が「大丈夫」というと、本当にそんな気になってくるから不思議なものだ。
「この場でこいつは倒すからね」
「っ!?」
こ、この人は、逃げるんじゃなく、アーリスを倒すつもりなのか!?
見た目はただの地球人にか見えないけど、ひょっとしてこの人も何か特別な力を持ってるのか……?
「といっても、俺の専門は戦闘じゃないからね。――戦うのは
「え?」
彼、ら?
それってサラッサンのこと?
僕は横目でサラッサンをそっと窺った。
「不甲斐ないことですが、私にはこの人を倒せる程の戦闘力はございません」
「!」
僕の視線に気付いたのか、サラッサンは落ち着いた口調でそう言った。
……じゃあ、彼らっていうのは、いったい。
「フッ、真打登場というわけだな!」
「「「!!」」」
この声は!?!?
声のした方向を向くと、二人の人間がこちらにゆっくりと歩いて来るのが見えた。
一人はもちろん声の主、変公である。
ここでお前が出て来るのかよ!?!?!?
でも、いくらお前の発明品が凄くても、アーリスには通用するのか?
そ、それに、もう一人は……。
「うぇーーーい、智哉ー。しょーがねーから、不出来な弟を、超優秀なお兄ちゃんが助けに来てやったぜえ」
「「「!!!!」」」
兄貴ーーー!?!?!?!?!?