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第42話:文化祭②

「カキフラーイ、ただ今をもって、君との婚約を破棄する!」

「そ、そんな!? 何故ですかアジフラーイ様ッ!」


 開幕早々、篠崎さん演じるアジフラーイ第二王子から婚約破棄を言い渡された、僕演じるカキフラーイ姫であった。


 いよいよ始まったリハーサルだが、古賀さん謹製の台本がついさっき完成したばかりなので、台本を持ちながらの立ち稽古になっている。

 そのため、僕もこの先のストーリーがどうなっているのかわからないまま演じているのが実情だ。

 でも、いくら何でも婚約破棄はないんじゃないですかね古賀先生!?

 確かに古賀先生が主戦場にしている『小説家になりまっしょい』では、婚約破棄ネタが流行ってるみたいですけど、高校生の文化祭でやる内容じゃないでしょ!?


「何故婚約を破棄するのかだって? そんなこともわからないのかい君は」

「え、ええ……、理由をお聞かせ願えますか?」

「フンッ! 理由なら星の数程あるさ! ――毎日毎日、引きこもってオンラインゲームに興じてばかり」

「えっ!?」


 オ、オンラインゲームッ!?


「そして買いもしないのにメル〇リの商品をいつまでもいつまでも眺めていたり」

「メル〇リッ!?」


 オイオイ世界観どうなってんの!?


「中でもワタシが一番許せないのはあれさ! ――なんで君はいつも、朝昼晩、食べたものの画像を欠かさずSNSにアップしているんだ!?」

「SNS!?!?」

「百歩譲って自分で料理したものならまだいい。――でも君のはインスタントラーメンと冷凍食品、インスタントラーメンと冷凍食品の無限ループじゃないかッ!!! そんなものの画像、誰が見たいと思うッ!!?」

「そ、それは……」


 カキフラーイ姫のキャラ設定悪意ないかい!?

 やっぱ古賀先生に脚本任せたのは失敗やったんや!!!(アフター・ザ・カーニバル)


「これからはワタシは――このイカフラーイ姫と共に生きていく」

「っ!?」


 舞台の上に勇斗演じるイカフラーイ姫が現れた。

 あと古賀先生のネーミングセンスッ!!

 何で役名全部揚げ物なの!?

 やっぱ皆川先輩、古賀先生のこと甘やかしすぎだろ!!


「ワタシについてきてくれるかい? イカフラーイ姫」

「はい、もちろん」


 アジフラーイ第二王子の手を取り、幸せそうな笑みを浮かべるイカフラーイ姫であった。

 ……いややっぱり、役名がどれも似通ってるから、凄く紛らわしいんだよねッ!

 えーと、整理しよう。

 僕がカキフラーイ姫で、篠崎さんがイカフラーイ第二王子。

 で、勇斗がアジフラーイ姫だっけ?

 ……いやいや、違う違う!

 僕がアジフラーイ姫で、篠崎さんがカキフラーイ第二王子。

 ……いやいや、これも違う違う!!!

 えーと、僕がエビフラーイ姫で……。

 エビフラーイどっから出てきた!?(錯乱)


「ハッハー! そういうことならちょうどいい!」

「「「っ!!」」」


 颯爽とマントをなびかせながら、まーちゃんが僕達の前に躍り出た。

 やっぱまーちゃんは舞台映えすんなッ!


「あ、あなた様は……?」

「フフッ、直接会うのは初めてだねカキフラーイ姫。――ボクの名はエビフラーイ。アジフラーイの兄にして、このキャノーラ王国の第一王子である!」

「エビフラーイ様!?」


 マジでエビフラーイも出てきちゃったよ!!

 これもうわかんねぇな。


「そしてこの二人はボクの従者――トンカーツとメンチカーツ」

「ト、トンカーツです」

「…………メンチカーツです」

「なっ!?!?」


 いつの間にかエビフラーイ王子の左右には、メイド服に身を包んだ絵井君と微居君が佇んでいた。

 ニャッポリート!?!?!?

 ききききき、君達も女装すんのーーー!?!?!?

 ……絵井君はまだしも、よく微居君がこんな役引き受けてくれたな。


「……あんま見るんじゃねえよ」

「ヒッ」


 微居君からかつてない程の殺気を感じる……!

 やっぱ不本意なんだッ!!

 じゃあ断ればいいのにッ!!!(意外と頼まれたら断れないタイプなのか?)


「な、何しに参ったのですか兄上!? そもそも兄上は今日は、推しの声優ライブに行くと仰っていたではありませんか!」

「推しの声優!?」


 だから世界観!!

 皆川先輩!!

 あなたの彼女、あなたのせいでとんでもないモンスターに育っちゃってますよッ!!


「――フンッ、あの子は彼バレしたから、もう推しじゃなくなったんだ」

「そんな!?」


 いるいるこういうファン!!

 本当のファンなら、彼バレしてもファンでい続けるものだと思うんだけどね!?


「そんなことよりボクはあなたに話があるんです、カキフラーイ姫」

「えっ!?」


 エビフラーイ王子は、流れるような動作で僕をお姫様抱っこした。

 リアルお姫様抱っこ再び!!

 何か僕、やたら自分の彼女にお姫様抱っこされる率高いよね!?


「――実はボクは、前々からあなたのことを陰ながらお慕いしていたのです」

「――!」


 少女漫画に出てくるようなイケメンに、キラキラエフェクト付きでそんな甘い台詞を囁かれては、演技とはいえ胸が高鳴るのを止められない僕であった。


「ですからこれからはこのボクと、ミックスフライ定食のような温かい家庭を築きましょう!」

「エ、エビフラーイ様ッ!」


 その喩えはイマイチピンときませんが、気持ちは嬉しいです!


「――ラララ~、ボクはカキフラーイ姫が好き~」

「っ!?」


 急に歌い出した!?

 まさかのミュージカルだったの!?

 古賀先生無双がとどまることを知らない!!!


「カキフラーイ姫と牛丼があれば~、他には何もいらない~」


 牛丼!?


「出来れば生卵も付けてほしい~。紅しょうがもタップリ~。追加料金払うから~、お味噌汁も豚汁に変えてほしい~」


 大分牛丼への愛の方が深いね!?

 牛丼に嫉妬しちゃうッ!


「――ラララ~、ワタシはイカフラーイ姫が好き~」

「っ!?!?」


 今度はアジフラーイ第二王子が歌い出した!?!?

 あーもうめちゃくちゃだよ。


「イカフラーイ姫と幼馴染カプのBL本があれば~、他には何もいらない~」


 幼馴染カプのBL本!?!?!?


「出来れば攻め様はガッチリ体型の天然で~、受けちゃんは可愛い系のツッコミ気質がいい~」


 完全に僕と勇斗のことじゃん!!!!

 古賀先生にも、完全に篠崎さんの性癖バレてんじゃんッ!!!!!


「――ラララ~、俺は岩が好き~」

「っ!?!?!?」


 微居くーーーーーん!!!!!!!

 君も歌うのかよッ!?!?!?


花崗岩かこうがん安山岩あんざんがんがあれば~、他には何もいらない~。無人島に一つだけ持っていくとしたら~、岩を持っていきたい~」


 サバイバルナイフにしときなよ!!!

 むしろ岩なんて、いくらでも現地調達できるでしょッ!?


「フフフッ、みんななかなかイイ歌を歌うじゃないか。――よし、これからみんなで、カラオケボックスで朝まで歌うぞッ!!」

「「「おー!」」」


 ……えぇ。

 何このオチ?


 古賀さんに

 任せたことが

 運の尽き


 智哉 心の俳句


「フッ、これにて一件落着ッ!!」

「っ!?」


 騎士の鎧を着て男装をした変公が、舞台の中央で扇子をパンッと小気味良い音をさせながら広げた。

 いやお前が締めるんかいッ!!!


 ――が、このとんでも感が本番では意外とウケ、我がクラスの出し物は、文化祭で栄えある大賞を受賞したのであった。

 ……げっそりーと。

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