「遊園地だああああああヒャッホー!!!」
「まーちゃん!」
遊園地に着くなりまーちゃんが、恒例のフィーバータイムに突入してしまった。
こうなったら暫くはあのままだろうから、落ち着くまでそっとしておこう。
「うふふ、茉央ちゃんは今日も元気だね」
「まったくだな」
そしてそんなまーちゃんのことを、いつものように
僕とまーちゃん、そして篠崎さんと勇斗が付き合い始めてから三日が経った。
今日は初デートとダブルデートを兼ねて、四人で近場の遊園地に来ているのだ。
それにしても、本当に僕はまーちゃんの彼氏になったのかぁ……。
目の前でバク転やらバク宙をキメながら(!?)はしゃいでいる美少女を眺めつつ、僕は感慨にふけっていた。
正直未だに信じられない。
RPGだったら、「ここは○○の村です」としか台詞がないようなモブキャラの僕が、メインヒロインの女の子と付き合ってるなんて……。
ひょっとして、夢だったりしないよねこれ?
「はー、いい準備運動になったー。じゃ、行こっか、ともくん」
「えっ!?」
そう言うなリ、まーちゃんは僕の左腕に抱きついてきた。
しかもまた僕の二の腕辺りに、まーちゃんのおっぷぁいがむにゅむにゅ当たっている。
……いや、やっぱ夢じゃねーわこれ!
このおっぷぁいの質感、ハリ、喉越し(喉越し?)、完全に現実だわこれ。
このクオリティは夢じゃ出せねーわ。
あー、勝ったー。
そうかー、僕は勝ったのかー(何に?)。
ありがとうございます神様。
この御恩は一生忘れません。
僕は天に祈りを捧げた。
「? どうしたのともくん、ぼーっとして」
「い、いや、何でもないよ! あはは……」
「ふーん? ま、いっか。そんじゃレッツラゴー!」
「うわっ!? 引っ張らないでよまーちゃん!」
まーちゃんが僕の腕を引いて歩くたび、僕の二の腕におっぷぁいがグイグイ食い込んでくる。
このままでは、デートが終わる頃には僕の二の腕はおっぷぁいの形に凹んでいるかもしれない……。
「ねえねえ、ともくんともくん」
「ん? なあにまーちゃん」
「あの二人さー、なーんかまだ距離があると思わない?」
「え? ああ……、確かに」
僕は前を歩いている勇斗と篠崎さんを盗み見た。
二人の間にはちょうど人間一人分くらいの距離があいていて、それが正に今の二人の距離感を表しているように思えた。
確かにあれは若いカップルの距離感じゃないな。
手も繋いでないし。
……まあ、僕とまーちゃんは距離感ゼロどころか、むしろマイナスになっているので、これもこれでどうなのかとは我ながら思うが。
「まったく、付き合ってからも世話の焼ける二人だなあ。――しょーがない、今回も私達が一肌脱ごっか!」
「は?」
「名付けて、『遊園地で美穂と田島君がラブラブチュッチュ大作戦』!」
「は?」
またこのパターンなの?
「キャー!!! 勇斗くん! 助けて! 助けてー!!」
「うおっ!? だ、大丈夫だよ美穂! 俺が付いてるから!」
突然出てきたお化け役の人に、篠崎さんはこっちが引くくらいビビッて勇斗に抱きついた。
おお、エエやんエエやん。
イイ感じに距離縮まってるやん。
最初、「お化け屋敷に行けばきっとイイ感じになるよ!」とまーちゃんに言われた時は、半信半疑どころか一信九疑だったけど、こういうことだったのか。
篠崎さんはお化けが大の苦手だったんだな。
お化け屋敷で怖がって彼氏に抱きつくなんて、ベタベタのベタなシチュエーションだが、奥手な二人にはこれくらいの荒療治が必要なのかもしれないな。
「勇斗くん!? 勇斗くん!!? そこにいる!? そこにいるの勇斗くん!!?」
「お、おお……。いるぞ、俺はここにいるぞ美穂」
篠崎さんは恐怖のあまりパニックになっているのか、勇斗の胸に顔を
勇斗はそんな篠崎さんを、そっと優しく抱きしめた。
オイオイ、何急にイケメンムーブカマしてんだよ勇斗!?
やればできるじゃねーか!
何でそれを最初から出さないんだよ!(謎の上から目線)
「うんうん、いやあ、若いっていいもんですなあ~」
そんな二人を見て、まーちゃんは深く頷いている。
僕達はタメだよね、まーちゃん?
「本当に!? 本当にいる勇斗くん!? 私に噓ついてないよね勇斗くん!!?」
「う、噓なんかつく訳ないだろ」
だが、依然として篠崎さんのパニックは収まらない。
……そんなにお化けが苦手だったのか。
「本当に!? 本当に私のこと愛してる勇斗くん!!?」
「えっ!?」
えっ!?
何か方向性が変わってきたぞ!?
「どうなの!? 私のこと愛してるの勇斗くん!」
「も……、もちろんだよ。もちろん愛してるよ美穂!」
オイオイここは一応公共の場だぞ。
お化け役の人も、突然目の前でカップルがマックスイチャつき出したから、ただでさえ死人のメイクしてる顔がもう一段階死んだ顔になってるぞ。
「私も! 私も愛してるよ勇斗くーん!!」
「み、美穂! 俺も愛してるぞ美穂ー!!」
もうやめて! とっくにお化けさんのライフはゼロよ!
お化けさんは完全に、「今夜は焼き鳥屋……、梯子しちゃおっかな」みたいな顔でバカップルを見つめている。
ええ、今日は好きなだけ梯子してくださいお化けさん。
これがホントの死体蹴りってか(おあとがよろしいようで)。
「よしよし、これであの二人もあんし――」
「?」
急にまーちゃんが言葉を詰まらせたので、何事かと目線を向けると、そこには釣り竿に吊るされたこんにゃくがデンと鎮座していた。
……おお、こりゃまた随分と古典的な仕掛けが出てきたな。
そもそもこれって、どこが怖いの?
――が、
「……ひっ、ひぎゃあああああああああああッッ!!!!!」
「まーちゃん!?」
突如まーちゃんが発狂して、僕の胸に抱きついてきた。
どぅええええええええ!?!?
何何何!?!?
何がどうしてこうなったの!?!?
「まーちゃん!? どうしたのまーちゃん!?」
「うううぅ……、私、子供の頃にこんにゃくであんなことやこんなことがあって以来……、こんにゃくが怖くて……」
「こんにゃくであんなことやこんなこと!?」
その話詳しく!
……い、いや、何を不謹慎なことを思ってるんだ僕は。
僕の彼女がこんなに怖がってるってのに。
「だ、大丈夫だよまーちゃん。僕が背になってこんにゃくを隠すから、あっちに行こう?」
「う、うん……。ぐすん」
「……」
ダメだダメだダメだ。
イケナイぞイケナイぞ彼氏として。
泣いてるまーちゃんもカワイイなんて思っちゃ。
僕はまーちゃんの視界にこんにゃくが入らないように気を付けながら、隅の方に避難した。
「さあ、ここまで来れば安心だよ、まーちゃん」
「うう……、ホントに?」
「ああ、ホントだよ」
「ホントのホントに?」
「ホントのホントだよ」
あれ?
この流れ、今さっきも見たな。
「……じゃあ、キスして」
「っ!?」
まーちゃんはまだ涙で潤んでいる瞳をそっと閉じると、プルンとした唇を突き出してきた。
な・ん・で!?!?
何でこの流れでそうなるの!?!?
勇斗と篠崎さんの時よりも意味がわからないんですけど!?
……いや、これはつまり、それだけまーちゃんがテンパってるってことの証左なのかもしれない。
……よし、ここはまーちゃんの彼氏として、しっかりとまーちゃんを安心させてあげないと。
僕は震える手でまーちゃんの肩を抱くと、まだまだ不慣れで不器用なキスをそっと落とした。
――すると、
「……えへへ、ありがと。お陰で落ち着いた」
「そ、そう。ならよかったよ」
まーちゃんはいつものヒマワリみたいな笑顔に戻ってくれた。
うんうん、やっぱまーちゃんは笑顔が一番似合うな。
「……オイお前ら、ここは公共の場だぞ?」
「そうだよ、茉央ちゃん、浅井君」
「「……あっ」」
いつぞやみたいに僕らのすぐ横に勇斗と篠崎さんが立っていた。
いや、君らにだけは言われたくないんですけどッ!?
僕らのダブルデートは、まだまだ続く。