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第7話

 目を覚ますと、うしろ手に手錠をかけられ椅子に縛り付けられていた。殴られた後頭部は時折痛むが、裂傷はないようだ。木の匂いがした。どうやらログハウスのようだ。目の前の木机にはWEBカメラを装着したパソコンが一台置いてある。とりあえず自分が捕獲されたという状況だけは把握できた。椅子を揺すったが、釘か何かでしっかりと固定されているようだ。その揺れに赤外線が感知したらしくアラームが鳴った。

 パソコンのディスプレイに、信也の顔が現れた。

―社長、おはようございます。

 なんとも清々しい笑顔だ。

「俺は、飛んで火に入ったのか?」

 信也はくすりと笑った。

―あんたと勝負がしたくってさ。

 そういうことか。やはり俺たちは共鳴している。渇望していた新しいゲーム。

「こっちもだ。何でやる?」

 ディスプレイの下半分が、ポーカー・ゲームのCG画面に切り替わった。

―ドロー・ポーカーだ。

 ドロー・ポーカーは最もポピュラーなポーカーだ。カードを伏せておいて、掛け金を上げながら札を交換し、最後に五枚の手札を見せ合う誰もが知るゲーム。

「おいおい、修学旅行のガキかよ」

 そう言ってみたが、ゲーム画面は淡々と進みカードがシャッフルされて配られる。どうやら否応なしのようだ。航平の手札は、クラブとダイヤのAのワン・ペアだった。

「プログラムが操作されてたり、こっちの手が筒抜けになっているのなら乗らないぜ」

―安心しろ。もうそんなゲームには飽き飽きしてる。

 信じていいだろう。なぜなら俺もそうだからだ。 

「よし。三枚だ。右から二枚目と左端をドローしろ」

―焦るなよ。その前にアンティを出してくれ。

 アンティはゲームの参加費だ。基本となる掛け金を要求している。

「俺の会社をくれてやる。そっちは?」

 今度は、上半分の画面が為替トレードに切り替わった。

―為替FXの口座だ。今豪州ドルは55円付近だから6、70億はあるよ。

 なるほど。こいつは会社の金で上がる見込みのない株を買い続ける一方で、自分の財をはたいて豪州ドルを売り続けていたわけだ。オセアニア通貨は、余剰金の受け皿だ。一旦景気が下向けば売りに出される超のつくリスク・マネーでもある。リーマン・ショック直後のこのひと月で、半値近くまで下落している。さらにFXは保証金の数十倍で売買できるので、信也は数億円の保証金で七十億を手にしたのだろう。つまりリスク・ヘッジ、保険をかけていたわけか。ガチガチの銀行員らしい博打の打ち方だ。少し失望する。だが何にしろ、ショー・マスト・ゴー・オン。

「損失額には少し足りねえが、まあいいだろう。さ、札替えだ」

―こっちも、三枚ドローするかな。

 それぞれ三枚がチェンジされたが、航平はワン・ペアのままだった。

―ベット。FX口座のIDを教える。

 掛け金を上積みする、と言っている。当然、航平にもそれを要求してきている。

「パスワードも必要だろう。それだけじゃ副社長どまりだな」

 やつが欲しがっているものは何だ?

―そんなものはいらないから、正直に答えろ。十三年前、親父の不倫現場の写真を東西銀行に送りつけたのは…長尾じゃないな?

 航平はこの男がこんな手の込んだ真似をした理由を理解し、さらに失望した。共鳴したわけではなかったのだ。そんな昔の話にまだこだわっていたのか?

「そういうゲームかよ」

―そういうゲームだ。

 ため息を殺す。ショー・マスト・ゴー・オン。

「じゃあチップ代わりに答えてやる。そうだ。俺がやった。東西銀行が大和田組からこっちに乗り換えるよう俺が仕組んだ」

―あのメモも、親父を脅して書かせた?

「だな」

 ゴルフ・バッグから出てきたメモのことだ。

―だが、見つけたのは俺だった。

「見つけさせたんだ。確かクラブのシャフトに仕込んだはずだ。お前の親父が死んだんで路線変更したんだが、マヌケなサツどもが見落として焦ったぜ。そこへお前が現れた、ネギをしょってな…ほら、コールだ」

 もう、このゲームは期待できない。さっさと五枚の手札を晒し合おうじゃねえか。

―まだだ。あんたの希望通りパスワードをベットする。つまり、あの印刷所もあんたの仕込みだったってことか?

 山北印刷所でのふたりのやりとりを思い出す。我ながら茶番もいいとこだったが、育ちのいいこの坊やはあっさり信じてくれた。

「長尾が処分しようとした印刷所を、俺が金を積んで買い取った。さすがに広報誌の原版まではなかったから、バック・ナンバーをゴミ箱に入れといたのさ」

 小道具までしっかり仕込んでおいたんだよ、坊や。

―長尾は当て馬だったってことか?

 大和田組のフロント企業買収が狙いだった。検察に挙げさせるには、経世研究会の長尾一慶はうってつけだった。

「ああ。だが、やってたことは事実だからな。あながちとばっちりとは言えん」

―だが、それであんたの妹は、陽海はあんたの身代わりになった。

 そこだけが誤算だった。いつになく饒舌だった航平が黙り込み、パソコンを睨んだ。

「ああ。俺は妹を利用しつくして死なせた」

―へえ。認めるんだ。

 箪笥の奥にしまって置いたものを引っ張り出させやがったな。だが、そっちのペースには乗らねえ。

「今度は、俺の方からレイズだ」

 掛け金を釣り上げる。攻勢に転じる必要があるからだ。

「なあ。あの写真、不思議に思わなかったか?」

 信也の父が女と寝ている醜聞写真のことだ。

―不思議、とは?

 感じていた。銀行員の顔がかすかに歪む。

「俺は、ある加工をしておいたんだ」

 信也にはそのあとの言葉が想定できていた。だが、聞きたくはなかった。

「女の背中の刺青を加工で消した。陽海の観音菩薩は、その筋じゃ有名だったんでな」

 意味は分かるな?

「どうした?レイズだぞ、コール・オア・フォールド?」

 札を晒すか?それとも、もう聞きたくないってガキみたいに駄々をこねてこの場を降りるか?どうする、坊主。

ーもういい。話は終わりだ。

 効果あり。信也の額から汗が噴き出している。刺青を撫でながら陽海を抱いているあの日の自分が、いましっかりとあの写真とシンクロしたからだろう。

「信也。お前らは、父子で同じ女を抱いたんだよ!あのエロくてグロい刺青に魅せられてな。逆親子丼ってやつだ」

―うるせえ!

 声が裏返った。よし、とたたみかける。

「銀行なんてお堅いとこに勤めて、世界の経済でも回してる気になってたんだろうが、お前らはただの性倒錯者なんだよ。ド変態だから、ヤバイと思う方向に引き寄せられんだよ!」

―わけのわからないこと言ってんじゃねえ!ブチ殺すぞ。

 門前の小僧なのか、育ちのいい銀行マンがまるでヤクザみたいな口の利き方だ。

「コール、だな。オープンしろ」

 信也が興奮したままキイを押し、画面にお互いの札がさらされた。銀行マンの手はツー・ペアだった。航平の方はクラブとダイヤのAのワン・ペアのままだ。

―ハハハ。見ろ!俺の勝ちだぞ、くそったれ!

 正式なポーカーのルールなら当然そうなる。だが。

「俺のは、エースのスリー・カードだ」

―あん?

「見えねえか?スペードのエースがあるだろ?」

―何を…。

 このおっさん、目でもおかしいのか。

「スペードのエースと言やあ、大凶のカードだろうが。つまり、お前のおふくろだよ。俺が何の手も打たずに、のこのこ乗り込むとでも思ったか?」

 人質。信也の顔に明らかな動揺が走った。

「あの精神病院な、最近新しい看護士が入ったらしいぜ。注射が得意な、な」

 信也は思い出した。十二年前、精神病棟で頑強そうな看護士が皆子の首に注射したことを。あのときは面食らったが、精神科には粗暴を極める患者だっているのだろう。だが、あの看護師が比嘉航平の息のかかった者と代わっていたとしたら、注射器の中身は鎮静剤では済むまい。背筋を汗が伝った。

「俺たちは家族を食い物にできる。だがお前らにはできねえ。そこが勝負の分かれ目だ」

 勝負は決した…敗北した信也の方が笑い出す。

―ははは、さすがだね。いいよ、金は全部渡す。あんたはそれで組に詫び入れて、企業舎弟にカムバックってわけだ。

「いい子だ。こっちも、おふくろさんには手を出さねえよ」

―そうだよな。あんたヤクザなんだもんな。はは。端から勝てる相手じゃあなかったわ。ははは。

 あっけない幕切れだ。モニターの奥から響く空虚な笑い声を聞きながら、航平はやり切れない思いに歯噛みした。くそ。やっぱり時間の無駄だったぜ。

「おい。ゲームのやり直しだ。手錠はずせ」

―は?

「ヤクザなめんな、親の首くらいですむわけねえだろ。だいたい、あそこに俺の釣竿があるのはどういうわけだ?」

 目覚めた時から気づいていた。小屋の隅に立てかけてあるロッド・ケースから日本刀の柄が覗いている。

「最初から、やる気満々なんだろ?俺もお前も、こんな二次元のゲームで満足するわけないだろうが。さっさと本筋に戻ろうぜ」

―比嘉航平。やっぱり、あんたは最高だよ。きりきり来るぜ。

 信也はにやりと笑い、リモコンを掲げて航平に示し、押した。手錠が音を立ててはずれる。なるほどこういう仕掛けか。だが、こうしてリモート操作ができるということは、武田信也はアメリカどころか手の届く場所にいる。

「電波が届く所にいるのか?」

―ああ。そこを出たら吊り橋が見える。三十分後な。


 休日でも人影など滅多にない。誰が使うのかわからない吊り橋が架かっている。沖縄の山間部、通称やんばる(山原)にはこういう小さな渓谷が少なくない。航平は日本刀の鞘を払って素振りをしてみた。しばらく後ろ手に縛られていたので、体内に血を流さなければならない。

 しばらくして橋の向こう側に4WDが到着し、無論競技用ではないフェンシングの剣を持った信也が降りて来た。全てにおいて時が戻った気がする光景だ。

(きりきり来る、か。確かにな)

 信也も剣を構え集中力を高めている。

「プレ?(準備は?)…ウィ(よし)」。

 自分にそう言い聞かせ、吊り橋に足をかける。

「おい、信也。てめえはやっぱりガキだ。百億使ってやりたかったことが、まさかチャンバラごっことはな」

 だが相手は答えずに一歩ずつ歩いてくる。やつはだいぶ前から計画してここに臨んでいるはずだ。だからフェンシングに有利な狭いエリアを戦いの場に選んだし、腕も磨いてきただろう。

 一方こっちは数年間触ったことのない刀に油を注してきた程度だ。おまけに老眼が進んでこの薄暗い森の中では切っ先を見切れるかどうか。航平は慎重に吊り橋を渡り始める。思った以上に橋が揺れる。左手で手すりをつかむ。

 信也の方は体幹を鍛えてきたのか、巧みにバランスをとって近づいてくる。間合いはすでに三メートルほどだ。テレビ中継などで見る限りでは、十分射程距離なのかもしれない。

 信也はするすると前進し「アレ」と一突き仕掛けてきた。

 それをかわした航平は覚悟を決めて両手に刀を持ち変え振り上げる。だがその間にはもう相手は下がって刀の届かない距離にいる。舌打ちが漏れる。

 航平は今度は下段に構えてみた。信也が踏み込んできた瞬間、刀の峰で信也の脛を打つ。

「つ」

 同時に発した。信也の切っ先もまた航平の耳を貫いていたのだ。しかしおかげで信也の動きは止まる。切っ先を耳たぶに刺したまま航平は構わず剣を横に払った。耳が千切れた。だが剣が跳ねた隙に、航平の刀が面を取りに行く。すんでのところで信也が飛び退く。刃は信也の冷や汗を切り裂いただけだった。

 ふたりが決闘を始めた頃、やんばるの道を一台のワゴンが同じ場所へ向かっていた。運転するのは小島で、助手席では自衛隊の迷彩服を着た瑠奈が退屈そうに漫画を読んでいた。

「おい。親父が心配じゃねえのか」

「ういっす。心配であります、教官どの」

 小島はそのふざけた態度に口を噤む。

「あんたの心配は金だろ?おっちゃん。でもよ、俺なんか人質になんねえぜ」

 養女を人質にして航平から何かを奪う、とでも思っているのだろうか。見当違いだ。俺は指を詰めさせられたあいつに、何もしてやれなかった。その後ろめたさからここに来ている。

 川が見えてきた。よく見ると、一台のジープが川岸に落とされている。あいつが東京で購入したものだろう。練馬ナンバーだ。小島は車を停め、確認のために降りた。

(クラゲのくせに溺れたか?)

 吊り橋では、航平と信也が対峙していた。

「おい、株はおもしろいか?」

 証券会社の社長が投信顧問に投げかけた。

「はあ。面白いも何も、仕事だろうが。あんたが押し付けた、な」

「株は正義なのか、悪なのか?お前どう思う?」

 見方は両極だろう。企業を支援し、ひいては社会の経済活動を活性化させるという正義。ただのギャンブルという悪。気を逸らせたいのか、心理戦に持ち込みたいんだな。それほど劣勢を認めているんだな。なら答えてやる。

「欲望だ」

 金儲けは言わずもがな社会貢献と言ったところで、数値化して自分のアイデンティティを社会に認めさせたい、という欲望だ。株で儲けた連中はやたらメディアに出たがる。宝くじで当たった連中が一切身を隠すのに、だ。それがこの結論の証左であり、この仕事に就いていれば当然の帰結だ。

 航平がにやりと笑う。

「残念。こいつは引掛け問題だ。正解‥株は株だ。俺の欲望もおまえの欲望も、何も満たせなかったとは思わねえか?」

 そうだ。欲望は、カネの臭いがする場所とは別のところにある。いや、俺たちの操るカネには臭いすらない。

「信也。前にもこんな風に、俺に突っかかってきたことがあったな」

「走馬灯のように駆け巡るのか?じゃあ、あんたのエンド・ロールに俺の名前も載せてもらえるかな?」

 こっちも気に利いたことを言ったつもりだが、無視された。

「お前はよ、自分じゃ気づいてねえかも知れねえが、俺と同じ種類のいきものだ。なんだと思う?」

 航平が話に夢中になっている隙をついて、信也は小指のない航平の左手を突いてすぐに引く。

 また俺はワン・ポイントとった。なのに答えが気になる。

「人間以外の何だってんだ、くそ。ちょっとは勝負に集中しろよ。負ける時の言い訳でも…」

 取り繕っているのか、の言葉が思い浮かばない。

「お前こそ何言ってんだ?この勝負に負けたら、言い訳も何も喋れねえだろうが。答えは、クラゲだよ」

「クラゲ?」

「ああ、昔俺にそう言ったやつがいる。水面下で踊ってるクラゲのようだってな」

 負傷した航平は、刀を右手一本に持ち替えた。

「気に入ったんだよ。クラゲじゃねえ、水面下って言葉の方をな」

 今度は航平の太股を突く。ヒット。だが深く突き過ぎた。フルーレという針のような剣が相手の太腿に刺さったまま、信也の手からするりと抜けてしまったのだ。

「信也。お前の水面下は、どうだ?」

 航平は太腿に刺さったフルーレを引き抜いて、川底に投げ捨てた。形勢は逆転したかに見える。だが、航平は刀を構えたまま語り続けた。

「俺の水面下じゃあよ、ぐつぐつ煮え立つ欲望と凍りつくような現実がせめぎ合って、でっけえ渦を巻いてんだよ。やりてえことは何もできねえ、できることは大概くだらねえ。結果残るのは、燃えカスみてえな『くだらねえ』って思いだけ…」

 攻撃しないのか?勝負より自分の思いを伝えたい、とでも?イカれてやがる。ならば、と信也は自らの背中に手を伸ばす。

「社長。あんたが人質を用意したように、俺もしっかり不測の事態に備えてあるんだよ」

 信也は背にもう一振りの剣を用意していた。正面からは見えない。それが決戦の場所をこの吊り橋に選んだ理由だ。

 比嘉航平の腹に渾身の一撃を放つ。

「トゥシュ!」

 剣筋よし。だが、ようやく剣の先っぽが脇腹にめり込んだ程度だった。このおっさん、今も腹筋を鍛えてるのか?航平はふんぬとその場に踏み留まり、なおも喋り続ける。

「そんで、耐え切れねえ心がよ…」

 言いながら、刺さった剣を自ら進んで貫通させる。痛覚が顔を歪ませる。

「…死にたがってるんだよ」

 先っぽだった刀身が二〇センチ、三〇センチとめり込んでいく。その都度、信也は直視したくない相手の顔面に圧倒されてゆく。航平の左手ががっちりと信也の手首を掴む。これで信也も動けなくなった。

「俺もお前も、だ」

 航平は日本刀の柄頭で信也の顔を殴った。

(くそ。またリポストかよ)

 連続攻撃を顔面に受けながら耐える。だが、リポスト(突き返し)のリポストもある…そう自分に言い聞かせながら。

「親父の仇?お袋を守る?百億?ホントはそんなもん、どうだっていいんだろうが!」

 五度六度…容赦なく殴られて信也の顔面が血に染まる。気が遠くなる。だが、言っておかなければならないことがある。

「…違う」

 いつまでも殴り続けることをやめない航平の耳に、かすかな声が聞こえた。

「ああ?」

 攻撃側も無酸素運動に疲れたのか、その手を止めた。

「社長。こっちはフルーレじゃないんだ」

 つぶやくように言って航平の腹に刺さった剣を横に向けた。平たい面が見える。さっきの剣も十数年前にこいつが使っていたのも、針のような剣だった。だが背中に隠していたもう一振りは…。

「サーブル…サーブルって言ってさ…」

 フェンシング全般のイメージは「突き」専門の競技だが、サーブルだけは上半身を「斬る」ことが認められており、使う剣はフルーレよりも幅が広い。信也が用意したものは日本刀と遜色なかった。

 ようやく事態が飲み込めて、航平は笑い出した。

「ハ、ハハハ…に、二刀流って、わけ、か?」

「こっちは、刺すだけじゃ…」

 ない!と叫んで、航平の腹を貫いたサーブルを横に払う。

 胴が西瓜のようにバッサリ斬られた。航平はふらつきながら信也を見据えて言った。

「…上出来」

 最後の刀を振り下ろしたが、それは手すりの綱をポンとはたいただけだった。勢い余ってその身体は川に落下していく。重力の反動で吊り橋がひっくり返りそうになる。信也はサーブルを放り投げ、両手で手すりを掴んでようやく踏み留まった。

(さ、さよなら。社長)

 息を切らしながら、流れていく肉体を見送った。



 つづく

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