「全員、集まったね〜」
「はい」
俺たち【ジャスティス戦隊】は、全員本部に集まっていた。
神矢長官はそれを見てうんうんと頷いている。
「それじゃあ以前話した通り。ここにいる君達の後輩戦隊、ランキング280位【リトル・ブレイブ戦隊】の育成を頼んだよー」
「わあ……」
「【ジャスティス戦隊】、本物だ……!」
「最近ランキング65位になったって言う、あの……」
「あれ、今71位じゃなかった?」
「別にどっちでもいいよ、俺たちにとって遥か上なのは変わらないでしょ」
そう言った長官の横には、見慣れない15、6歳の少年少女が5人並んで立っている。
既に変身しており、剣、弓、爆弾、ブーメラン、盾と言った武器をそれぞれ持っていた。
それぞれ興奮した様子、物珍しいものを見た様子、キラキラした目をする様子、普通な態度の様子、ガチガチに緊張した様子など、大半は初々しい反応だ。
ちなみに俺たちは、全員互いに変身状態でヘルメットを被っている。
チーム内ならともかく、チーム外だと一応認識阻害でプライバシー保護が原則だ。
「きょ、今日はよろしくお願い致します! 【リトル・ブレイブ戦隊】の“ソード”です! 今日はよろしくお願い致します!」
「リーダー! よろしくお願い致します2回言っちゃってる!」
「へ? ああ!? すみません!」
慌ててぺこりと頭を下げるリーダーの少年。
そう様子を見て、俺たちは初々しさを感じていた。
「若いわねー」
「ブルー先輩、22歳ッスよね?」
「ん、今日はよろしく」
「よろしくねー!!」
俺たちはそこまで緊張していないが、イエローやピンク以外で後輩と言う存在を考えていなかったからか、新鮮さを感じていた。
「そう緊張するな。俺はレッド、こちらこそ今日はよろしく」
「は、はい! よろしくお願い致します!」
「リーダー、3回目!!」
俺はリーダー格のソードと呼ばれた少年に対して、手を差し出す。
それをソードの少年は緊張しながらも、握手で応じてくれた。
「それじゃあ、あとは若い者達でごゆっくり〜」
「お見合いの会場か何か? あいつ丸投げしたわね」
そう言って神矢長官はさっさと去っていってしまった。
ブルーが文句を言っていたが、しょうがないと肩を竦めている。
「それじゃあ、細かい事は抜き。早速特訓に入りたいと思うのだけど、どうかしらレッド?」
「そうだな。それじゃあ、特訓内容だが、どうするか……」
俺は顎に手を当てて、少し悩んだ。
ランキング280位。聞くと、つい最近300位以内に入ったばかりの戦隊らしい。
【ライト・ガジェット】が5000前後。戦隊のメンバー平均が5人と考えて、戦隊約1000個中の内、280位と言うだけで、実はそれだけでかなり上位と言えるだろう。
となると、基礎的な訓練はある程度習得済みと考える方が自然か。
だとすると、必要なのは応用……うーん。
「あ、あの!」
そう考えていると、ソードの少年が声を掛けて来た。
ん、どうした?
「すみません! 差し出がましいようですが、出来ればオレ、レッドさんに直接教わりたくて!」
「俺?」
そう聞き返すと、はい! と元気な返事が返って来た。
ふむ、なるほど。同じ剣使いとして、確かに俺が教える方が自然か。
となると……
「んじゃあ、俺がソードの君とやるか。他のメンバーも、それぞれが個別でいいか?」
「っ!! はい! ありがとうございます!!」
そう言うと、とても嬉しそうに返事をするソードの少年だった。
「じゃあ、私があなたかな? 同じ弓使いとして、よろしくね!」
「か、可愛い〜!! よろしくです!!」
ピンクは、アローと呼ばれた少女と。
「残りはどうするっスかね? 同じ武器の人がもういないッスけど」
「じゃあ、僕はあなたでいいですよ。お願いします」
「む、ちょっと生意気な言い方ッスねー、覚悟するッスよ!」
イエローは、ボマーと呼ばれた少年と。
「ん、じゃあ俺は……」
「はいはーい! 私でお願いします! 私イケオジが好きなんです!!」
「オジ……? え? 俺、そんなオジさん……?」
グリーンは、ブーメランと呼ばれた少女と。
「と言う事は、残る私は自動的に……」
「俺ですか。まあ、盾の俺に、拳銃のあなたから学ぶ事は無いと思いますが……」
「へえ……ずいぶんな言い草ね。その言葉が特訓後でも言えるか楽しみね」
最後のブルーは、シールドと呼ばれた少年と。
それぞれの担当が割り振られた状態だ。
「それじゃあ、訓練場に行って各自個別特訓で。ひとまずお昼休憩まで、それでいいな?」
『了解!』
こうして、俺たちは全員特訓場に移動する事になった……
☆★☆
──やった! あのレッドさんと個別特訓だ!!
俺はソード。実を言うと、レッドさんの大ファンだ。
以前から彼の活躍はテレビでよく見ており、彼を見て自分なりの剣の腕を磨いたと言っても過言では無い。
同じ剣使いとして、彼の戦い方は参考になるのだ。ヒーローとして、丁度良い先輩だった。
最近“血塗レッド”とか言う呼び名が付いているらしいけど……まあ、強さには変わらない。
そこに目を瞑れば、ヒーローとして彼の強さは尊敬すべきものだ。多少の噂なんて関係無かった。
今回の特訓依頼は、上位ヒーローの誰かに当たればいいな、と言った気持ちで依頼したものだったが、まさか憧れの人ドンピシャとは思っていなかった。
「それじゃあ、早速始めるか」
「はい! お願いします!」
目の前に立っているレッドさんに対して、俺はピシッと気をつけの状態で向かい合う。
それをレッドさんは苦笑した様子で見て来ていた。
「そう緊張するな。そうだな……まずは今回の特訓で、成れたらいいなっていう目標はあるか?」
「目標ですか?」
レッドさんの言葉に、俺はうーんと悩む。
そう言われても……
「正直、今より強くなるなら何でもいいんですけど……そう思って依頼しましたし」
「あ、それ駄目だ」
え!? いきなり駄目だし!?
オレなんかやっちゃいました!?
「具体案の無い目標ほど、時間を無為に過ごすものはない。特訓は今日だけなんだから、よりはっきりとした具体的な目標を立てるべきだ。じゃないと、ただ俺達と“特訓っぽい事をしました、楽しかったです”で終わるぞ?」
「な、なるほど……」
「例えば最近の俺だと、“自分の隙となる時間を無くす”がテーマで特訓してたな。実は“レッド・エッジ”が、以前の仕様だと2秒ほど隙がある技でな。それを無くすために、片手で剣を持てるようにして、もう片方の手で隙を潰すと言う改良をした。少なくとも、これくらいの具体目標は立てるべきだ」
レッドさんの言葉に、これだけで自分がどれだけ甘かったか思い知らされたような気がした。
なるほど、これが上位ヒーロー……!
特訓に対する意識の差が全然違う、分かりやすい!
「じゃあ、オレの特訓は、えっと、えっと……」
少し、憧れの人を前に自分の見通しを甘さが恥ずかしくなって来た……!
けど、どうしたら……何か目標を設定しなくちゃいけなくても、でも折角訓練してくれているのに失敗するような目標を立てちゃそれこそ恥ずかしいし……
そう悩んでいると、それを見通されたのかレッドさんが声を掛けて来た。
「そう俯くな。まずは目標を立てると言う事が大事なんだ。“今日の特訓の終わりまでに、何が成長していればいいのか”。それを考えればいい」
「で、でも何を考えれば……それこそ、せっかく教えてもらってるのに失敗しちゃったら……」
「別にいいんだ。目標を設定して失敗しても。それはそれで、“何が失敗したか”の課題が分かるからな。それを元に、また次の目標を設定し直せればいい」
だから、俺に失礼だからって、最初から出来る事を目標に立てるなよ〜、と、そう言ってくる。
な、なるほど……失敗してもいい、なんて考えは持ってなかった。
一見ある意味諦めているように見えるそれは、実は憧れの人がやっている大事な考え方だったと。
「あ、あの! そ、それじゃあオレ、実はレッドさんのようになりたくて……!」
「俺か? まあそれなら、俺と同じくらい強くなる……だと、今日中に達成する目標にしては高すぎるか」
「あう、ですよね……」
思わず脳内で思ってしまった言葉を言ってしまったけれど、当然反発される。
流石に、高望みどころか失礼な考えすぎた……
「けど何か一つ、“俺と同等の能力を得る”なら、達成できるかもしれないけど、どうだ?」
「っ! は、はい! それでいいです! それがいいです、頑張ります!!」
とか思っていたら、自分とってとても丁度良い目標の設定を出してくれた!
確かにそれなら目標にしやすいかも!
「それじゃあ、“何で”同等の能力を得たいのか、それは自分で考えてみなよ。その方が、やる気も出るからな」
「はい! えーっと……」
そうして、悩んだオレが出した目標は……
「──必殺技を、強くしたいです」
それが俺が思った、今日の目標だった。
「必殺技、か。ふむ……」
「どう、でしょうか?」
「良いんじゃ無いか? じゃあ、現状どんな必殺技を持っているのか、実際に見せてくれるか?」
「っ、はい!」
──そうしてオレは、実際に剣を構え、必殺技を出す構えを準備した。
その一連の動作中でも、レッドさんはまるで見逃さないようにジッと見つめて来ている。
オレは見られている事を実感しながらも、恥じないよう唯一の必殺技を放つ!
「必殺!! “ブレイブ・スラッシュ!! ”」
そうしてオレは剣を振り下ろし、そこから“ビームを発射”した。
それが10m程飛んでいく。
「おお! オレと同じ、斬撃が飛んでいくタイプの必殺技か」
「はい! どうでしょうか!」
「ああ、良い必殺技だと思うぞ」
やった! オレはそう褒められて、嬉しい気持ちになっていた。
「うん。じゃあ俺も、“実例”を見せようかな」
そう言って、レッドさんも大剣を構えて、目の前に立っていた。
一呼吸を入れて……
「“レッド・エッジ!! ”」
──そうして放たれた斬撃は、俺と比べてとても大きかった。
オレより遥かに強く、長い距離を飛び、広い範囲を攻撃したそれは、一見しただけでオレとの違いがはっきりと分かった。
「──すご、い」
映像越しで見た事は何度もあった。
けれどこれが、これが生のレッドさんの必殺技。
その凄さを改めて実感すると同時に──
「……すみま、せん。まだ目標が、高すぎたようです……」
それに並ぶはずがないと、諦めに近い感情。
それが湧いて来てしまっていた。
まだ自分が調子に乗っていたと言う事が、よく分かった。
格の違いを、思い知らされた──
「そうとは、限らないぞ?」
「……え?」
しかしレッドさんは、それを否定する。
明らかに、自分の必殺技は今日中にレッドさんに到達することなど、おこがましいレベルの筈なのに……
「例えば、ただ一言必殺技と言っても……
・威力
・射程
・範囲
・技の発動までの速さ
・連射速度
・発動後の隙
などなど、様々な要素がある。ソード、お前はこれらの要素全部を並ばそうとして絶望してないか?」
「あ……」
「まずはこれらの要素の中で一つ、選んで強化する事を目標としてみろ。それが目標の立て方だ。難しい目標だったなら、一つ一つ刻んでいけば良い」
「──はい!!」
そうして、オレは俯いていた顔を上げて返事をする。
届かないと思っていた場所に、届きそうな“道筋”が見えて来た。
これが、レッドさんの教え……!!
じゃあ、オレが選ぶ要素は……
「“威力”……威力を強化したいです!」
「威力か。じゃあ手っ取り早い強化方法としては、
・単純な筋トレ
・技のフォームの調整
・エネルギーのコントロール
が、パッと思いつくな。今日はこれらを確認してやってみるか」
「はい!!」
そうしてオレは、レッドさんの指示の元それらの特訓をやっていく事になった。
一つ一つのトレーニングが、身に染みていってる実感がよく分かる!
オレは、今日の教えが自分にとってかなり影響を与えてくれた事を実感して行った……
☆★☆
──うんうん、この教え方で正解だったみたいだな。
俺はソードの少年の張り切って頑張ってる姿を見て、そう思った。
正直、ここまでの教え方は今まさに考えたばかりの方法だった。
ソードの少年の様子を見て、アドリブで教え方を変えたのだった。
と言うのも……
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「特訓かー、どう教えよう。うーん、“レッド・エッジ”を20、いや30連発放って、耐えられるかどうかのトレーニングでもやってみるかなー」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
──実行しなくて良かったー、昨日の俺……
俺は危うく、後輩に変なトラウマを植え付けるだけで終わってしまいそうな教え方を避けられた事を実感していた。
いやだって、俺が“ヒロト”と合同訓練した時、必殺技互いに連発しまくった訓練してたし……
今思うと、当時150位台だった俺達にやらせる訓練じゃ無かったよな、あれ。うん。
“ヒロト”は当時“イフリート候補者”扱いだったとはいえ、武器借りて80位台と良い勝負する期待の新人枠だったし……
俺はソードの訓練を見守りながら、今度ヒロト、“イフリート”にあったら文句言おう、と誓っていた……
★
23歳
175cm
黒髪
中立・善
男
主人公
【ジャスティス戦隊】のレッド。
おふざけ無しの初心者に優しい訓練を教えた。
代わりに、自分が教えられて来た特訓方法が今思うと滅茶苦茶だったな、と気づいてしまった模様。
特訓の大事さは、ティアーに弱点をバラされてからよく分かっている。
ちなみに現状、初期技の“レッド・エッジ”なら50回は連続で放てる模様。
もはや必殺技ではなく、通常技として最近は使用するレベル。
★リトル・ブレイブ戦隊
小さな勇気がテーマの戦隊。
それぞれが剣、弓、爆弾、ブーメラン、盾を武器として持っており、武器名がヒーロー名になっている戦隊。
リーダーが特に【ジャスティス戦隊】のファンのようだ。
ソード。リーダー。レッドに憧れを持っており、強くなりたいと思っている。
アロー。可愛いもの好きの少女。ピンクと言う年下に教わる事は気にしておらず、楽しみにしている。
ボマー。こだわりのない少年。ただ誰でも良いと言う理由で、イエローを選んだ。
ブーメラン。イケオジ好きな少女。それだけでグリーンさんを選んだ。
シールド。冷静な少年。今回の特訓に、それほど自分は必要ないと思い込んでいる。
★
23歳
177cm
赤髪
秩序・善
男
【スピリット・フォース戦隊】のリーダー、“イフリート”。
現在ヒーロー戦隊ランキング29位で上位ヒーロー。
全国で活躍している。
“イフリート”を正式に継いだのは3年程前。
しかしそれ以前でも、“候補者”としてその実力はブイブイ言わせていた。
レッドによく合同訓練を持ちかけていた。
実はただ、レッドと戦いたかっただけの理由づけだったりする。