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第31話 ティアーがダーク・ガジェットの構造について配信したんだけど、どうすればいいと思う?

『みんな~!! 【カオス・ワールド】の幹部、“コバルト・ティアー”の“簡単、よく分かるヒーロー対策”の時間がはーじまーるよー!!』


 :わー!! 

 :始まった! 

 :待ってました。


 今日のボランティアが終わった夜、俺はいつものようにティアーの配信を確認していた。

 結局ボランティアは、ブルー以外はつつがなく終わったようで。

 ピンクはおじいちゃん、おばあちゃん達の人気者。

 イエローは、発電所に割と真剣にスカウトされていたとの事だった。いや、もちろん断ったようだけど、かなり本気で迫られて大変だったらしい。お疲れ。


 明後日に長官の言っていた後輩達の育成があるらしいから、明日は1日全員休暇の予定だ。


 ……話が逸れたな。

 それはそうと、今日のティアーの配信だ。いつもかかさず見ているが、今日は特に見逃せない。

 何せ……


『今日は特別プログラム!! “簡単! 【ダーク・ガジェット】のメンテナンスのやり方”について説明だよー!!』


 :前回予告してた奴! 

 :俺、最近入ったばっかりだから、メンテした事まだない

 :私、この間先輩に教えてもらった〜! 


 そう。【ダーク・ガジェット】のメンテナンス。

 最近ティアーが配信で、何かやってほしい企画ある? と募集していたので、俺もそれに要望を送っていたのだ。

 その一つが、“【ダーク・ガジェット】の事について知りたい”だったので、ある意味一部要望が叶った状態だろう。


『うんうん。初めての人はこの後の内容を聞いてしっかり理解してね! 既に知っている人も、復習も兼ねて見ていってもらえると嬉しいかなー!』


 :はーい! 

 :はーい! 

 :はああああいっ!! 


『いい返事! それじゃあ、各自今手元にある人は【ダーク・ガジェット】を用意してね! 私も普通の【ダーク・ガジェット】を用意してきたから、一緒に分解しましょう!』


 そう言ってティアーは懐から、待機状態の【ダーク・ガジェット】を取り出していた。

 ……俺も、机の引き出しをガラリと開ける。

 そこに入っていた、ティアーの【ダーク・ガジェット】だったもの。その二つの内の一つを、俺は取り出した。


 画面の奥のティアーの持っている“普通”のものと、手元のものを見比べてみる。


「……待機状態は殆ど差がない。強いていうなら、こっちの方がゴツい感じか?」


 俺が今持っているのは、ティアーのもの。つまり幹部級のものだ。

 以前ティアーは、幹部用と普通の物の差は、“頑丈さアップ”と“自動変身スーツの内蔵”くらいって言ってたな。

 この僅かな差が、“頑丈さアップ”という事なのだろうか? 


 ひとまず、この幹部級のもので俺も分解してみていっても問題は無さそうか……? 

 まあ最悪、戻せなくなったとしてももう一つあるから、まだいいだろう。


『それじゃあ、早速分解して行くわね! 必要なのは“ドライバー1本”、これだけ!! みんなー、用意してねー! ドライバーない人はごめんねー!』


 :あ、取ってきまーす

 :やべえ、普段使わねえからどこ置いたっけ……

 :ちょっと待ってて下さい! 


『いいわよー、待っててあげる。でも、あんまりみんなを待たせないでねー』


「っと、ドライバーか。ネジがあったから、ちゃんと用意しておいたけど正解だったな」


 しっかし、逆にドライバー1本で済むのか? だとしたら、本当に手軽だな。

 そんなことを思っていると、画面の奥でドライバーを用意したティアーが立っていた。


『さて、そろそろいいかしら? それじゃあ、分解して行くわよー』


 そう言って、ティアーは【ダーク・ガジェット】にドライバーを刺して、ネジを数本取って行く。

 俺も手元の幹部級のものを、同様に分解していった。


『それじゃあ、ご開帳〜!』


 そうして、パカりと外装を開いたティアー。


 :……え? これだけ? 

 :なんか、あんまり複雑じゃないというか……スカスカ? 

 :ティアー様、これ本当にこれだけで大丈夫なんですか? 


「……確かに、全然複雑じゃないというか……」


 コメント欄に、動揺が溢れ出す。

 そこにあったものは、比較的シンプルに纏った内部構造になっていた。


『ふふふ、動揺してる動揺してる。まあ、大仰にメンテナンスって言ったけど、実際そこまでやる事ないの。ただパーツ単位毎に分かれて、入ってるだけだから』


 ティアー曰く。

 ・バッテリー

 ・CPU

 ・基盤

 ・“コアパーツ”


 の、4つのパーツで成り立っているとの事。

 人外の力を手に入れる装置としては、思った以上にシンプルだ。

 というか電気で動いているのか、【ダーク・ガジェット】……


「……幹部級のは、一個謎の部品が付いているな。これが“自動変身スーツ”の部分か?」


 俺は比較的大きめの、基盤に接続されている四角いパーツを見てそう考察した。

 他の4つのパーツは画面のものと全く同じ。

 こうしてみると、本当に幹部級と大差が無いんだな。


『パソコンを自作した人はこの中にいるかしら? あれって複雑なように見えて、ただパーツ取り付けてるだけだから比較的簡単なのよね。あれと同じくらいの難易度でパーツ交換出来るようにしているわ。不調な部分があったら、その部品だけ交換すればいいわよ』


 :あ、やった事ありまーす! 

 :パーツの性能凝りだすと、どんどんお値段高くなる……

 :一度やりました! 分解してそのまま戻せなくなりました! 

 :↑それただお前が不器用過ぎただけじゃね? 


『まあ、よくわからなかったら【カオス・ワールド】の機材管理部門に頼めばいいわよ。そこで修理してくれるから。と言っても、パーツ交換してくれるだけだけど』


 さて、とティアーは話を切り替えるように……


『今言ったように、【ダーク・ガジェット】の構成要素はPCに似ているわ。メモリーとか、グラフィックボードとかは除外した形なんだけど……まあ、それはいいわ』


 :つまり、パソコンを買えば実質【ダーク・ガジェット】……? 

 :割と極論過ぎないそれ? 


『まあ、一番の違いは……やっぱこれね』


 そう言って、ティアーは一つのパーツを取り外す。

 それは、普通のPC組み立てでは見た事無い……


『“コアパーツ”。私はそう呼んでいるわ。これこそが、【ダーク・ガジェット】たらしめる心臓部……』


 曰く、

 ・人の心に合わせた武器の形態変化

 ・人の感情を出力に変える効果

 ・持ち主の肉体強化


 などなど、【ダーク・ガジェット】のメイン機能の大半がそれに内蔵されているらしい。

 なるほど、これが……一つに纏まり過ぎでは? 


『ぶっちゃけ、一番大事なのはコアパーツよ。本来なら、コアパーツ内部までメンテナンス出来る様になれば最高なんだけど……まあ、素人にそれは高望みし過ぎね。素直に壊れたらパーツ交換に出せばいいわ』


 ティアー曰く、コアパーツも一応人の手で作り出せるらしい。

 他のパーツよりはるかに複雑だが、設計図さえあれば実際に地球上にある物質で再現可能との事。

 なるほど、だから簡単に量産が出来るのか……


 ちなみに、以前話した特定の誰かの“レプリカ武器”の場合は、“セーブデータ”パーツがここに追加されるらしい。

 そのパーツだけ追加すれば、あっという間にレプリカ武器の作成になるとの事。本当に簡単だ。


 ちょっと組み替えるだけで、簡単に改造も出来てしまう。

 元がシンプルだからか、やろうと思えばもっと性能向上出来るんじゃないか……? そう思ってしまう。


 そう言い終わった後、ティアーはふむ、と顎に手を当てて……


『そうね……この際、【ライト・ガジェット】との差異も説明しようかしら』


「っ!!」


 :【ライト・ガジェット】!? 

 :え!? 説明出来るんですかティアー様!? 

 :ものしりー!! 


『ああ、ごめん。説明と言っても、“素人知識”から知ってる部分の差異だけよ。そんな大した情報じゃ無いわ』


 いや、実物ライト持ってるだろお前、というツッコミが危うく出そうだった。

 けどよく考えたら、俺自身【ライト・ガジェット】の内部構造をそこまでよく知ってるわけではなかったな……


『【ライト・ガジェット】と【ダーク・ガジェット】との大きな違いは……』


 曰く、

 ・適合者でないと起動出来ない

 ・バッテリーが存在せず、常にエネルギーがある状態

 ・【ライト・ガジェット】のコアパーツは人類には製造不可

 ・ただし、コアパーツが実質本体で、それさえ無事なら実はそれ以外は交換可能

 ・物理ダメージだけでなく、“人の精神にダメージを与えやすい”性質を持つ


「……ん? なんて?」


 :はい質問! “人の精神にダメージを与えやすい”性質を持つってなんですか!? 


『いい質問ね! 答えましょう!』


 そう言うと、ティアーはメガネをいつの間にか付けてそれをクイッと持ち上げていた。

 どっから出したお前? そしてその動作をするためだけに付けたのか? 


『分かりやすいのは、【ジャスティス戦隊】のレッドの“レッド・フレイム”!! あれ実は人体はあんまり燃やさない特殊な炎なの! なのに、なぜそれを喰らった悪人は苦しんでいるのか! それは痛覚と、“精神”に直接ダメージがあるから!!』


「へ!?」


 待て、痛覚と精神? 

 痛覚はなんとなく使っていて分かってたけど、精神だと? 


 :精神って、結局なんですか? 


『そうね……分かりやすいのは、“やる気”かしら? 戦いの最中なら“戦意”と言い換えてもいいかもしれないわね。ほら、ヒーローと戦ってる際、“あいつをぶっ倒すぞ〜”って感情とかってない? あれを直接削られて、“なんかもう倒せなくてもいいや〜”って、やる気をなくす感じ』


 :あれそんな効果だったんですか!? 

 :可愛い例えですけど、人の感情にダイレクトに作用されていますよね!? 

 :どうりでヒーローに倒されたヴィランって、大人しく警察に連行されていってるんだ!? 


 マジか……俺の炎、そんな効果が……

 というか、【ライト・ガジェット】全般がそういう効果を持っているのか? 

 でもまあ、俺の炎が一番特殊なだけで、他のガジェットだと普通に物理攻撃要素も高いよな……イエローの雷とか。


『さすがは、“神から直接授かったと言われる武器”ね。人智で再現出来ない要素を持っているわ。ちなみに【ダーク・ガジェット】は物理全振り。感情によって出力はアップするけど、全てが物理攻撃に変換されているわ。だからこそ、人の手で作り出せる武器でもあるのだけど』


 へー、そんな差が……

 ふむ、悪人を捕らえるという意味では、【ライト・ガジェット】の方が適していると言えるのか? 

 あれ、そういればこれって……


『注意しなきゃいけないのは、【ライト・ガジェット】の攻撃を受けると精神が削られるから、感情の出力も下がるわ。つまり、“【ダーク・ガジェット】の威力が下がる”。注意しなさい』


 :マジですか!? 

 :うっわ!? それじゃあ俺たちヒーローに不利な武器で戦ってるって事ですか!? 

 :そんな〜!? せっかく対等の力を手に入れたと思ったのに!? 


『代わりに、さっきも言ったように物理特化になっているから、単純な攻撃力なら【ダーク・ガジェット】の方が上の場合が多いわよ? せめぎ合いになったら、こっちが有利ね』


 :やっぱり【ダーク・ガジェット】だ! 

 :【ダーク・ガジェット】最高〜!! 

 :【ダーク・ガジェット】しか勝たん! 


 手の平を返したように盛り上がるコメント欄だった。

 後、【ライト・ガジェット】は感情によって威力が増減する機能はないから、その差もね。と付け足していた。


 なるほどなあ、そう考えるとどっちが一番有利って訳でも無いのか。


『さて、こんなところかしら? みんな、どうだった今日の説明は?』


 :ためになりましたー! 

 :普通に参考になりました!! 

 :【ライト・ガジェット】の中身どうなってるか気になりますね。

 :めっちゃ大事な事喋ってましたね!? とにかく攻撃を受けるなって事ですね! 


『うんうん! みんなのためになったようで何より! 後ごめんなさい、【ライト・ガジェット】の分解は流石に私は出来ないから、持ってる人にやってもらってね!』


 :それ持ってる人ヒーローって事じゃないですか!? 

 :頼める訳ねーですよ! 

 :普通にムーリー!! 


『だよねー。って、あ~。そろそろ時間だ。それじゃあ、今日はこの辺で。じゃ~ね~!』


 :じゃーねー

 :じゃーねー

 :じゃーねえええええ!! 


 そう言って、ティアーの配信は終了した。

 いやー、今日は本当かなりタメになったな……俺が知りたかった情報、結構知れたな。

 俺はだいぶ満足した気持ちでそう思っていた。


 そういえば、【ライト・ガジェット】の中身どうなってるか気になる、ってコメントがあったな……


 俺はそのことを思い出して、ふと【レッド・ガジェット】を取り出していた。


「……ふむ。これも分解出来そうだな」


 この際だ、こっちも一応見てみよう。

 俺はそう思って、【レッド・ガジェット】にもドライバーを突き刺してネジを取り出していった。

 外装を、パカりと取り外し……


 グちゃあ……と。


【ダーク・ガジェット】に比べて、よく分からない細かいパーツやマイクロチップ、あちこち飛び出たコードなど、見るからに素人が触れられない状態。

 ……俺は、そっと外装を元に戻した。


 ダメだ、素人が開いちゃダメなものだった……

【ダーク・ガジェット】のシンプルで簡潔に纏まった構造を見た後だと、はるかにゴチャゴチャしてて分かりづらい構造だった。


 なるほど、これが【ダーク・ガジェット】と【ライト・ガジェット】の差。

 素人に全然寄り添ってくれてねえ。


 俺は、これほどまで綺麗な構造にした開発関係者のティアーに対して、改めて深い尊敬を感じたのだった……



 ★佐藤聖夜さとうせいや


 23歳

 175cm

 黒髪

 中立・善

 男


 主人公

【ジャスティス戦隊】のレッド。


 改めて、ティアーの開発能力にとてもビックリ。

【ライト・ガジェット】の精神にダメージを与える効果を聞いて、流石に驚いていた。

 それを意識して、戦い方の効率が変えられないか調整中。



 ★天野涙あまのるい


 22歳

 168cm

 青髪

 混沌・善

 女


【ジャスティス戦隊】のブルー。

 兼、【カオス・ワールド】の幹部、“コバルト・ティアー”。


 天才美少女開発者。

 ちゃんとメンテナンス用に素人にも寄り添ってくれている。

 最近バッテリーの充電にUSBポート:タイプCを追加したらしい。

 ちなみに、敢えて【ダーク・ガジェット】の構造に余裕を持たせているらしく、何か思いついたら追加出来るようにしてあるとの事。

 あとなんかスパゲッティが嫌いらしい。


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