『みんな~!! 【カオス・ワールド】の幹部、“コバルト・ティアー”の“簡単、よく分かるヒーロー対策”の時間がはーじまーるよー!!』
:わー!!
:始まった!
:待ってました。
今日のボランティアが終わった夜、俺はいつものようにティアーの配信を確認していた。
結局ボランティアは、ブルー以外はつつがなく終わったようで。
ピンクはおじいちゃん、おばあちゃん達の人気者。
イエローは、発電所に割と真剣にスカウトされていたとの事だった。いや、もちろん断ったようだけど、かなり本気で迫られて大変だったらしい。お疲れ。
明後日に長官の言っていた後輩達の育成があるらしいから、明日は1日全員休暇の予定だ。
……話が逸れたな。
それはそうと、今日のティアーの配信だ。いつもかかさず見ているが、今日は特に見逃せない。
何せ……
『今日は特別プログラム!! “簡単! 【ダーク・ガジェット】のメンテナンスのやり方”について説明だよー!!』
:前回予告してた奴!
:俺、最近入ったばっかりだから、メンテした事まだない
:私、この間先輩に教えてもらった〜!
そう。【ダーク・ガジェット】のメンテナンス。
最近ティアーが配信で、何かやってほしい企画ある? と募集していたので、俺もそれに要望を送っていたのだ。
その一つが、“【ダーク・ガジェット】の事について知りたい”だったので、ある意味一部要望が叶った状態だろう。
『うんうん。初めての人はこの後の内容を聞いてしっかり理解してね! 既に知っている人も、復習も兼ねて見ていってもらえると嬉しいかなー!』
:はーい!
:はーい!
:はああああいっ!!
『いい返事! それじゃあ、各自今手元にある人は【ダーク・ガジェット】を用意してね! 私も普通の【ダーク・ガジェット】を用意してきたから、一緒に分解しましょう!』
そう言ってティアーは懐から、待機状態の【ダーク・ガジェット】を取り出していた。
……俺も、机の引き出しをガラリと開ける。
そこに入っていた、ティアーの【ダーク・ガジェット】だったもの。その二つの内の一つを、俺は取り出した。
画面の奥のティアーの持っている“普通”のものと、手元のものを見比べてみる。
「……待機状態は殆ど差がない。強いていうなら、こっちの方がゴツい感じか?」
俺が今持っているのは、ティアーのもの。つまり幹部級のものだ。
以前ティアーは、幹部用と普通の物の差は、“頑丈さアップ”と“自動変身スーツの内蔵”くらいって言ってたな。
この僅かな差が、“頑丈さアップ”という事なのだろうか?
ひとまず、この幹部級のもので俺も分解してみていっても問題は無さそうか……?
まあ最悪、戻せなくなったとしてももう一つあるから、まだいいだろう。
『それじゃあ、早速分解して行くわね! 必要なのは“ドライバー1本”、これだけ!! みんなー、用意してねー! ドライバーない人はごめんねー!』
:あ、取ってきまーす
:やべえ、普段使わねえからどこ置いたっけ……
:ちょっと待ってて下さい!
『いいわよー、待っててあげる。でも、あんまりみんなを待たせないでねー』
「っと、ドライバーか。ネジがあったから、ちゃんと用意しておいたけど正解だったな」
しっかし、逆にドライバー1本で済むのか? だとしたら、本当に手軽だな。
そんなことを思っていると、画面の奥でドライバーを用意したティアーが立っていた。
『さて、そろそろいいかしら? それじゃあ、分解して行くわよー』
そう言って、ティアーは【ダーク・ガジェット】にドライバーを刺して、ネジを数本取って行く。
俺も手元の幹部級のものを、同様に分解していった。
『それじゃあ、ご開帳〜!』
そうして、パカりと外装を開いたティアー。
:……え? これだけ?
:なんか、あんまり複雑じゃないというか……スカスカ?
:ティアー様、これ本当にこれだけで大丈夫なんですか?
「……確かに、全然複雑じゃないというか……」
コメント欄に、動揺が溢れ出す。
そこにあったものは、比較的シンプルに纏った内部構造になっていた。
『ふふふ、動揺してる動揺してる。まあ、大仰にメンテナンスって言ったけど、実際そこまでやる事ないの。ただパーツ単位毎に分かれて、入ってるだけだから』
ティアー曰く。
・バッテリー
・CPU
・基盤
・“コアパーツ”
の、4つのパーツで成り立っているとの事。
人外の力を手に入れる装置としては、思った以上にシンプルだ。
というか電気で動いているのか、【ダーク・ガジェット】……
「……幹部級のは、一個謎の部品が付いているな。これが“自動変身スーツ”の部分か?」
俺は比較的大きめの、基盤に接続されている四角いパーツを見てそう考察した。
他の4つのパーツは画面のものと全く同じ。
こうしてみると、本当に幹部級と大差が無いんだな。
『パソコンを自作した人はこの中にいるかしら? あれって複雑なように見えて、ただパーツ取り付けてるだけだから比較的簡単なのよね。あれと同じくらいの難易度でパーツ交換出来るようにしているわ。不調な部分があったら、その部品だけ交換すればいいわよ』
:あ、やった事ありまーす!
:パーツの性能凝りだすと、どんどんお値段高くなる……
:一度やりました! 分解してそのまま戻せなくなりました!
:↑それただお前が不器用過ぎただけじゃね?
『まあ、よくわからなかったら【カオス・ワールド】の機材管理部門に頼めばいいわよ。そこで修理してくれるから。と言っても、パーツ交換してくれるだけだけど』
さて、とティアーは話を切り替えるように……
『今言ったように、【ダーク・ガジェット】の構成要素はPCに似ているわ。メモリーとか、グラフィックボードとかは除外した形なんだけど……まあ、それはいいわ』
:つまり、パソコンを買えば実質【ダーク・ガジェット】……?
:割と極論過ぎないそれ?
『まあ、一番の違いは……やっぱこれね』
そう言って、ティアーは一つのパーツを取り外す。
それは、普通のPC組み立てでは見た事無い……
『“コアパーツ”。私はそう呼んでいるわ。これこそが、【ダーク・ガジェット】たらしめる心臓部……』
曰く、
・人の心に合わせた武器の形態変化
・人の感情を出力に変える効果
・持ち主の肉体強化
などなど、【ダーク・ガジェット】のメイン機能の大半がそれに内蔵されているらしい。
なるほど、これが……一つに纏まり過ぎでは?
『ぶっちゃけ、一番大事なのはコアパーツよ。本来なら、コアパーツ内部までメンテナンス出来る様になれば最高なんだけど……まあ、素人にそれは高望みし過ぎね。素直に壊れたらパーツ交換に出せばいいわ』
ティアー曰く、コアパーツも一応人の手で作り出せるらしい。
他のパーツよりはるかに複雑だが、設計図さえあれば実際に地球上にある物質で再現可能との事。
なるほど、だから簡単に量産が出来るのか……
ちなみに、以前話した特定の誰かの“レプリカ武器”の場合は、“セーブデータ”パーツがここに追加されるらしい。
そのパーツだけ追加すれば、あっという間にレプリカ武器の作成になるとの事。本当に簡単だ。
ちょっと組み替えるだけで、簡単に改造も出来てしまう。
元がシンプルだからか、やろうと思えばもっと性能向上出来るんじゃないか……? そう思ってしまう。
そう言い終わった後、ティアーはふむ、と顎に手を当てて……
『そうね……この際、【ライト・ガジェット】との差異も説明しようかしら』
「っ!!」
:【ライト・ガジェット】!?
:え!? 説明出来るんですかティアー様!?
:ものしりー!!
『ああ、ごめん。説明と言っても、“素人知識”から知ってる部分の差異だけよ。そんな大した情報じゃ無いわ』
いや、
けどよく考えたら、俺自身【ライト・ガジェット】の内部構造をそこまでよく知ってるわけではなかったな……
『【ライト・ガジェット】と【ダーク・ガジェット】との大きな違いは……』
曰く、
・適合者でないと起動出来ない
・バッテリーが存在せず、常にエネルギーがある状態
・【ライト・ガジェット】のコアパーツは人類には製造不可
・ただし、コアパーツが実質本体で、それさえ無事なら実はそれ以外は交換可能
・物理ダメージだけでなく、“人の精神にダメージを与えやすい”性質を持つ
「……ん? なんて?」
:はい質問! “人の精神にダメージを与えやすい”性質を持つってなんですか!?
『いい質問ね! 答えましょう!』
そう言うと、ティアーはメガネをいつの間にか付けてそれをクイッと持ち上げていた。
どっから出したお前? そしてその動作をするためだけに付けたのか?
『分かりやすいのは、【ジャスティス戦隊】のレッドの“レッド・フレイム”!! あれ実は人体はあんまり燃やさない特殊な炎なの! なのに、なぜそれを喰らった悪人は苦しんでいるのか! それは痛覚と、“精神”に直接ダメージがあるから!!』
「へ!?」
待て、痛覚と精神?
痛覚はなんとなく使っていて分かってたけど、精神だと?
:精神って、結局なんですか?
『そうね……分かりやすいのは、“やる気”かしら? 戦いの最中なら“戦意”と言い換えてもいいかもしれないわね。ほら、ヒーローと戦ってる際、“あいつをぶっ倒すぞ〜”って感情とかってない? あれを直接削られて、“なんかもう倒せなくてもいいや〜”って、やる気をなくす感じ』
:あれそんな効果だったんですか!?
:可愛い例えですけど、人の感情にダイレクトに作用されていますよね!?
:どうりでヒーローに倒されたヴィランって、大人しく警察に連行されていってるんだ!?
マジか……俺の炎、そんな効果が……
というか、【ライト・ガジェット】全般がそういう効果を持っているのか?
でもまあ、俺の炎が一番特殊なだけで、他のガジェットだと普通に物理攻撃要素も高いよな……イエローの雷とか。
『さすがは、“神から直接授かったと言われる武器”ね。人智で再現出来ない要素を持っているわ。ちなみに【ダーク・ガジェット】は物理全振り。感情によって出力はアップするけど、全てが物理攻撃に変換されているわ。だからこそ、人の手で作り出せる武器でもあるのだけど』
へー、そんな差が……
ふむ、悪人を捕らえるという意味では、【ライト・ガジェット】の方が適していると言えるのか?
あれ、そういればこれって……
『注意しなきゃいけないのは、【ライト・ガジェット】の攻撃を受けると精神が削られるから、感情の出力も下がるわ。つまり、“【ダーク・ガジェット】の威力が下がる”。注意しなさい』
:マジですか!?
:うっわ!? それじゃあ俺たちヒーローに不利な武器で戦ってるって事ですか!?
:そんな〜!? せっかく対等の力を手に入れたと思ったのに!?
『代わりに、さっきも言ったように物理特化になっているから、単純な攻撃力なら【ダーク・ガジェット】の方が上の場合が多いわよ? せめぎ合いになったら、こっちが有利ね』
:やっぱり【ダーク・ガジェット】だ!
:【ダーク・ガジェット】最高〜!!
:【ダーク・ガジェット】しか勝たん!
手の平を返したように盛り上がるコメント欄だった。
後、【ライト・ガジェット】は感情によって威力が増減する機能はないから、その差もね。と付け足していた。
なるほどなあ、そう考えるとどっちが一番有利って訳でも無いのか。
『さて、こんなところかしら? みんな、どうだった今日の説明は?』
:ためになりましたー!
:普通に参考になりました!!
:【ライト・ガジェット】の中身どうなってるか気になりますね。
:めっちゃ大事な事喋ってましたね!? とにかく攻撃を受けるなって事ですね!
『うんうん! みんなのためになったようで何より! 後ごめんなさい、【ライト・ガジェット】の分解は流石に私は出来ないから、持ってる人にやってもらってね!』
:それ持ってる人ヒーローって事じゃないですか!?
:頼める訳ねーですよ!
:普通にムーリー!!
『だよねー。って、あ~。そろそろ時間だ。それじゃあ、今日はこの辺で。じゃ~ね~!』
:じゃーねー
:じゃーねー
:じゃーねえええええ!!
そう言って、ティアーの配信は終了した。
いやー、今日は本当かなりタメになったな……俺が知りたかった情報、結構知れたな。
俺はだいぶ満足した気持ちでそう思っていた。
そういえば、【ライト・ガジェット】の中身どうなってるか気になる、ってコメントがあったな……
俺はそのことを思い出して、ふと【レッド・ガジェット】を取り出していた。
「……ふむ。これも分解出来そうだな」
この際だ、こっちも一応見てみよう。
俺はそう思って、【レッド・ガジェット】にもドライバーを突き刺してネジを取り出していった。
外装を、パカりと取り外し……
グちゃあ……と。
【ダーク・ガジェット】に比べて、よく分からない細かいパーツやマイクロチップ、あちこち飛び出たコードなど、見るからに素人が触れられない状態。
……俺は、そっと外装を元に戻した。
ダメだ、素人が開いちゃダメなものだった……
【ダーク・ガジェット】のシンプルで簡潔に纏まった構造を見た後だと、はるかにゴチャゴチャしてて分かりづらい構造だった。
なるほど、これが【ダーク・ガジェット】と【ライト・ガジェット】の差。
素人に全然寄り添ってくれてねえ。
俺は、これほどまで綺麗な構造にした開発関係者のティアーに対して、改めて深い尊敬を感じたのだった……
★
23歳
175cm
黒髪
中立・善
男
主人公
【ジャスティス戦隊】のレッド。
改めて、ティアーの開発能力にとてもビックリ。
【ライト・ガジェット】の精神にダメージを与える効果を聞いて、流石に驚いていた。
それを意識して、戦い方の効率が変えられないか調整中。
★
22歳
168cm
青髪
混沌・善
女
【ジャスティス戦隊】のブルー。
兼、【カオス・ワールド】の幹部、“コバルト・ティアー”。
天才美少女開発者。
ちゃんとメンテナンス用に素人にも寄り添ってくれている。
最近バッテリーの充電にUSBポート:タイプCを追加したらしい。
ちなみに、敢えて【ダーク・ガジェット】の構造に余裕を持たせているらしく、何か思いついたら追加出来るようにしてあるとの事。
あとなんかスパゲッティが嫌いらしい。